レンアイ受難曲!

園内の隅っこにある、誰も寄り付かないような草の陰で……拉致された着ぐるみの中の人間は、被り物を剥ぎ取られて怯えていた。
どこにでもいそうな、中年のおじさんである。

だが、尻餅を着いたその男を追い詰めるように仁王立ちする、犬と猫を元にした着ぐるみ二体。一緒に被り物を取ると、

「怪しい奴!テメェが十代目を狙うマフィアの人間だな!?」
「はっ!?」
「誤魔化そうとしたって無駄だぜ!さっきツナに近付こうとしてたじゃねーか!」

それは、一体どこから盗んできたのか、着ぐるみに身を扮した獄寺と山本だった。ツナの前に姿を見せることはできないので、変装をすることにしたらしい。

「この外道野郎!果てろ!」
「ち、ちょっと待ってくれ!一体何のことだか…」
「往生際が悪いぜ、覚悟しろよ!」
「っ……!」

ジリジリと詰め寄ってくる、般若のような顔をした二人に、

「ひっ…ひぃぃぃぃっ…!」

絶叫を上げた男がどうなったのかは、言うまでもない。

そして、男がマフィアなんかではなく、ただの従業員だったということが分かったのは、しばらくしてからだった。


***


「ああー、恐かったけど面白かったですね!」
「そ、そそそそうだな!」

一方、無事ジェットコースターに乗れたツナは、興奮の冷めない様子ではしゃいでいた。反対に、剣介の方は顔を赤くしてギクシャクしている。

何故なら、

(あ、あれは反則だろ……!)

剣介と一緒なら恐くはないと言ったツナ。だが、やはり高い所から一気に滑り落ちるまでが緊張するようで、ずっとそわそわしていた。

そして、ゆっくり上り詰めたそれが落ちる直前……隣に座っていた剣介の手を、ぎゅっと握ったのだ。その瞬間、剣介がびしりと固まってしまったのは言うまでもない。

そして、頭が真っ白になったまま猛スピードで振り回されて。手を繋ぐことは夢だったが、強く握ってくる小さな手の柔らかい感触や温もりに……剣介はすっかりおかしくなってしまったのだった。

「先輩?顔が真っ赤ですけど、大丈夫ですか?」
「えっ…い、いや何か暑くってさ!喉も渇いたし…」
「そうですね……あ、あそこで何か冷たいものを売ってますよ!」

と、少し離れた所に、タイミング良くドリンクを売っている店が見える。剣介は天の助け!とばかりに喜んだ。

「お、俺が買ってくるからさ!ツナはそこのベンチで待ってろよ!」
「え、良いんですか?」
「お、おおおう!」

ツナをベンチに座らせると逃げるようにその場を離れる。ツナは何も知らないで、にこにこしながらちょこんと座っていた。
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