センパイ受難曲!

おいおい大丈夫か俺。リアルに幻覚も見えてきたぜ。それにしても可愛すぎるだろ沢田。今すぐ襲っちまいたいくらいだ。

「俺からもお願いします。先輩、俺と付き合って下さい」
「………」





……………。





「えええええーっ!?」

意識を失いかけてたのが一瞬でぶっ飛んだ。

沢田が俺のことを好き!?付き合って下さい!?それってつまりどういうことだ!?

「さ、さささ沢田!?ほ、本当か!?な、何かの間違いじゃ…!」
「本当です!俺、先輩の髪の毛を全部抜いちゃった後…」
「あああ頼むからもうそれは忘れてくれ!回復しかけたHPが0通り越してマイナスになるから!」
「あ、すみません…で、あの後……」

沢田は恥ずかしそうにモジモジしながら、ぽつぽつと話し始めた。くそ、可愛いい……。


何でも沢田は、俺にどうしても一言謝りたくて、次の日から何度も俺に会いに行こうとしていたらしい。でも勇気が出なくて、友人達の目もあって、全然声を掛けられなかったとか。

(俺と同じじゃねぇか……)

というか、たまに感じる視線は沢田だったのか……何かすっげぇくすぐったい。

「でも、そのうちに…先輩が真剣に剣道をする姿とか、実はだれよりも一生懸命で、一人で朝練してる姿とか…格好良くて、憧れて……」

そんな立派なもんじゃねぇよ……他の人間に格好良いところを見せたくて、必死こいて練習してただけで……ていうか、それも見られてたのか……。

「普段も…友達とかと話して笑い合ってる表情とか、素敵で…もっと見たいな、なんて……」
「さ、沢田……」
「それで……」

沢田が、どこかうっとりとした表情で見つめてくるから、俺はもうクラクラだ。

「気付いたら、好きに…なってました……」





ああ……





「先輩っ?」

とうとう床にぶっ倒れた俺を、沢田が慌てて支えようとする。

俺、すっげぇカッコ悪いよな。全身傷だらけで、制服とかぼろぼろで、髪もぐちゃぐちゃで。





おまけに、





「やべぇ、俺…嬉しすぎて泣きそうだ……」

とか言いながらもう泣いてるしな。嬉し涙なんて初めてかもしれない。鼻水まで出てきた。

マジ、だせぇ。





でも、





「俺も、です」

やっと沢田が笑ってくれた。俺に笑いかけてくれたんだ。それで充分じゃねぇか。


この時俺は、沢田の恋人になるということがどういうことか、明日からさらなる受難の日々が始まるとか、全然気付かなかった。


ただ今だけは、この心地いい幸せに、いつまでも浸っていたかったんだ。


*END*
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