センパイ受難曲!

沢田は何も言わなかった。そりゃそうだよな。俺に告白されても気持ちが悪いだけだろう。

(早く、一思いにふってくれ……!)

うつむいたまま顔を上げられないでいると、

「う、そ……」

沢田も驚きすぎて腰が抜けたかのか、ぺたんとその場に座り込んでしまった。

「先輩、本当に……?」
「冗談でこんなこと言うかよ……」

沢田はまだ信じられないといった表情をしている。当たり前か……以前俺に決闘を申し込まれたくらいなんだからな。

「前に酷いことした俺が信じられないのも当然だと思う。あの時は本当に悪かった。でも、好きなんだよ…沢田のことが……」
「そ、んな……」

沢田の声は震えていた。きっと迷惑なんだろう。泣かせてしまったかもしれない。

「俺…先輩に嫌われてるとばっかり……」
「っ、それはない!確かに、出会った頃はそうだったかもしれないけど、今は……!」
「だって、先輩…俺の顔を見たらいつもすぐに逃げちゃうし……」
「そ、それは沢田の周りの奴らが……」
「それに俺も、前に先輩に酷いこと……頭突きしたり、髪の毛全部むしっちゃったり…」
「んのぉぉぉ消し去りたい記憶をををっ…!」

今まで一切触れないようにしてたのに…今のでトドメを刺されたかもしれん……。

「い、いや沢田…あれは俺が全部悪かったんだ。ずっと、謝罪もしたくて…本当にごめん、な……」
「………」
「それから沢田のことを考えてるうちに気付いたんだよ。俺は沢田が好きなんだって。それを、ただ伝えたくて……」

沢田の目を真っ直ぐに見て言うと、沢田は瞳を潤ませ視線をさ迷わせていた。

(やっぱり駄目だよな……)

でも悔いはない。全力で、死ぬ気で想いをぶつけたんだから。
今まで、こんなに必死になったことがあっただろうか。思いっきり何かをやりとげれば、こんなに清々しい気分になれるなんて知らなかった。

「先輩……」

だからもう良い。確か沢田は京子が好きなんだったよな。これからは沢田の恋が上手くいくように願うだけだ。

「先輩、俺…すごく嬉しいです……」





「俺も…先輩のこと、好きですから……」





「……ん?」

今、何か聞こえなかったか?ついに都合の良い幻聴まで聞こえ始めたのか俺は。

「え……」

傷だらけの両手に暖かいものが触れる。沢田が俺の手を握っていた。
見ると、瞳に涙を浮かべながらも頬を染めて、嬉しそうな表情でこっちを見ている。
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