センパイ受難曲!

「くっ……!」

鈍くなっていた感覚が戻ってくると同時に、全身の激痛が思い出したかのように甦ってきた。

けど、今はそれも気にしてる場合じゃない。

「はぁっ、はぁっ……!」

階段を最後まで駆け上がって、教室のある通路を進む。最上階であるこの階には、特別教室は一つしかない。

沢田は、きっとそこにいる。

「はぁっ、っ……!」

一番奥にある理科実験室。告白するには何てベタな場所なんだ。

「っ、沢田……!」

その教室が、少しずつ近付いてくる。

もう体力も気力も限界で、痛みで意識は朦朧としていた。さっきの幻術じゃなくて、リアルに視界が霞んでくる。

「沢田ぁっ……!」

けど、俺の想いを伝えるまでは……

「さわ、だ……!」

ようやくたどり着いた理科実験室。ドアを、祈るような気持ちでつかんだ。





(沢田に告白しないと、死んでも死にきれねぇんだよ……!)





「うぉぉぉぉっ!沢田ツナぁぁぁぁっ!」
「っ……!」

―――バキャァッ!と、俺はドアをぶっ飛ばすような勢いで開け放った。

そこには、





「持田…先輩……?」
「っ、ぁ……!」

俺がずっと探し求めていた沢田がいた。窓から夕日が射し込む教室で、机に向かっていた沢田が。

沢田は凄まじい音に驚いてこちらを向いた後、俺の姿を見るとさらに驚愕したように目を見開いた。

「持田先輩っ…!」

(ああ、沢田だ……)

俺の名前、覚えていてくれたのか……それにしても“先輩”…良い響き過ぎる……。





……じゃなくて!

「先輩酷い怪我…!大丈夫ですか!?早く手当てしないと……!」

慌てたように駆け寄ってくる沢田が、夕日を浴びてキラキラと輝いている。こんな俺のことまで心配してくれるなんて、沢田が天使に見えてきた……。





……って、そうじゃなくて!

(先に言うことがあるだろ俺!)

「っ、沢田…!」

もう心身ともにマジで限界だ。本当に死ぬかもしれない。

でも、これだけは伝えたい……。





「沢田ぁぁぁぁっ!」

俺は、だらだら流れてる血を止めようとハンカチを取り出そうとした沢田の両肩をがっしりとつかんだ。びくっと、細い身体が跳ね上がる。





「沢田っ好きだぁぁぁぁっ!俺と付き合って下さい!!!」

「………!」

沢田の大きな瞳が、これ以上ないほど大きく見開かれる。

(い、言った……)

想いを伝えた瞬間、俺は情けないことに力が抜けてしまって、その場に膝を付いた。もう本当にいろいろとヤバい。
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