センパイ受難曲!

(絶対に、沢田に告白してやるからなぁぁっ!)

俺は、どこにそんな脚力があったんだと自分でも驚くほどのスピードで廊下を駆け抜け、階段も何段もすっ飛ばしていった。

そもそも、ホームルーム教室で補習じゃないということは、あと考えられるのは特別教室のどこかしかない。こうなったら、下から順番に探すしかないだろう。


沢田を探すことに夢中になっていた俺は失念していた。今いるこのフロアが、アイツの部屋のある場所だったということを。

「はっ!?」

急に背筋に悪寒が走ったと思った瞬間、

「ぎゃぁっ!」

俺の顔すれすれの所を、物凄い勢いで何かが飛んでいった。振り返って確認すると、それは長いチェーンのような物で……

(ま、まさか……)

ギギギ、とぎこちない動きで前を向けば、

「……ねぇ、この騒ぎを起こしたのは君かい?」
「ひ、ひひひ雲雀……!」

そこには、物凄く不機嫌そうな顔をした風紀委員長、雲雀恭弥が立っていた。

「ちっ、違ぇよ!暴れてんのは二年の獄寺と山本で……!」
「ふぅん?」

鈍く光るトンファーをこちらに向けるので、俺は必死に弁解する。濡れ衣で噛み殺されたんじゃ堪ったもんじゃない。

「じゃあここへは何をしに来たんだい?」
「あ、ああ…沢田を探してるんだよ。2-A沢田綱よ…」
「へぇ……?」
「あ……」

雲雀の目が、獲物を狙う肉食獣のようにきらりと光る。

(お、俺の大バカ野郎ぉぉっ!)

「とりあえず、噛み殺す」
「えええええっ!?」

俺はさらに一つ失念をしていた。雲雀が、沢田を酷く気に入っているということを。ある意味、一番常識が通じないってことを。

「あ゙―――っ!」

それから俺は、もう言わなくても分かるだろうが、完膚なきまでに噛み殺されたのだった。


***


(ああ…全身が痛ぇ……)

雲雀は満足するまで俺をぶちのめした後「残りの二人も噛み殺す」とあっさり去っていってしまった。むちゃくちゃ過ぎる……。

ああ痛ぇ…痛すぎて感覚が麻痺してきた。

(俺はここで死ぬんだろうか……)

もったいねぇな…こんなことなら、もっと早く死ぬ気で沢田に想いを伝えてりゃ良かった……死ぬ気になれば、邪魔者がいても沢田に告白できただろうに……。

なのに、俺はもうこの世とはお別れか……

「――ってんなわけねぇだろぉぉっ!」

何でこんな所で死ななきゃいけねぇんだよ!冗談じゃねぇ!

(きっと、沢田に告白するには生半可な覚悟じゃ駄目だったんだ……)
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