センパイ受難曲!

聞き覚えのある声に顔を上げると、

「や、山本武!?」

部活中だったのか、ユニフォーム姿でバットを片手に持った山本武がそこにいた。

山本はボロボロの俺の姿を見て目を丸くすると、原因である獄寺へ目を向ける。

「何やってんだよ獄寺!校舎壊したりしたら雲雀に噛み殺されるぜ!」

って校舎の心配かよ!……追い付いてきた獄寺に呆れたように言い放つ山本に、思わず突っ込みたくなる。

(で、でも助かったのか……?)

山本は、俺にはキツいけどまだ常識はあるはずだ。危険にさらされている人間がいて、ほっとくような奴じゃないだろう。

だが、

「それどころじゃねぇよ野球バカ!この野郎、また十代目にちょっかい出そうとしてたんだぞ!」
「……あ?」

その瞬間、空気がピシッ!と凍ったように、一気に周りの温度が下がった。山本が、さっきまでの爽やかさはどこへ行ったのか、不良も逃げ出すような険しい顔付きになってる。何というか…そう、いろいろと真っ黒だ。

「先輩…俺、何度も言いましたよね……?」
「ひっ……!」

ゾッとするような冷ややかな声で、鈍く光る日本刀を片手に迫ってくる山本。ってあれ、日本刀なんて持ってたか?バットじゃなかった?俺の見間違い?

「やっぱり、一回身を持って分からせた方が良いみたいっすね……?」

ややややっぱり見間違いじゃねぇぇっ!

「ぎゃぁぁぁぁっ!」

腰が抜けて動かない身体を叱咤して、俺は再びその場から逃げ出した。

(くそぉぉっ!何だってんだよぉぉっ!)

俺は沢田に告白したいだけなのに、何でこんな目に遭わなきゃいけねぇんだ。まるでヤ〇ザとか、映画に出てくるみたいなマフィアに追っかけられてる気分だ。

「待てっつってんだろ持田ぁーっ!」
「ツナには手ぇ出させないぜ!」

獄寺がダイナマイトを投げながら、山本が日本刀を振り回しながら追い掛けてくる。奴らが通った後の通路はボロボロだ。

(あいつら、そんなに沢田のことが好きなのかよ……!)

獄寺はともかくあの山本でさえも、沢田のことになると常識が通じないらしい。それくらい、大事なんだ。

(だったら俺は……?)

俺だって、沢田のことが好きだ。側にいたい。笑いかけてもらいたい。

だから、こんなところで諦めたくなんかねぇ。

きっとこれは試練だ。これを乗り越えなければ、俺はいつまで経っても卑怯者で、意気地なしで、ヘタレのままなんだ。
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