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アルアサandべいえい

ぬくもりを半分こしたあの冬の日。
「ゆきだぁ!!!」
一面の銀世界を笑顔で仔犬のように走り回る。

「あっこら!いきなり走り出すなって!」

追いかけてなんとか捕まえようと両手を広げるが、するりと脇の下を通り抜ける。右へ行ったと思ったら今度は左へ。すばしっこいのでなかなか捕まえられない。
ここはひとつ、策を講じるとしよう。
「ローストビーフ一人で食っちまおうかなぁ?今日の出来は最高なんだけどなぁ〜」
雪の後ろに隠れて、俺が追いかけに来るのを待っている小さな食いしん坊に聞こえるくらいの声で言う。ぴょこぴょこと風に揺れるアホ毛(自分ではナンタケットとか言ってる)が可愛い。
俺の言葉を聞いて、焦ったように一直線にこちらへと走ってくる。とっても真剣な顔で。
「だめだぞ!おれにもくれなきゃだめ!!」
そう言いながら俺の足へと体当たりしようとしてくるので、素早く両脇に手を入れて抱き上げる。

「捕まえた!」

厚着でもこもこな体を上手く支えるために一度上に上げてから、尻のしたに手を通して反対の手で背中を支える。綺麗な金髪に雪が乗って、キラキラと輝いていた。
本人は何が起こったのか理解出来ておらずぽかんとしていた。だが、ハッと何かに気付いたらしく顔を少し赤くしながら必死に抵抗し始めた。
「や、やだ!これじゃあ赤ちゃんみたいじゃないか!下ろしてくれよ!!」
「ばっ、お前暴れんなって!」
首に回していた腕が締まり、首が苦しい。しかも手足をめちゃくちゃに動かすから、落としそうになってひゃっとした。下ろしてやるからと言い聞かせてしゃがむと、ぴょんっと俺の体から離れた。二人の間で発生した熱が、風に晒されてだんだん冷えていく。首ももう、涼しくなっていた。

抱っこしなくたって…、おれはもう赤ちゃんじゃ…とぶーぶー言いながらいじける小さな子供。

「帰るぞ」

しかし俺が、そう言って手を差し出せば、少しよそを向きながらも手を重ねてくる。素直じゃねぇなぁ、なんて思いながら一人で小さく笑ってしまう。
しんしんと降り積もる雪に埋もれて見失わないように、小さくて柔らかい手をぎゅっと握る。じんわりと伝わる熱。一人の時は感じることのなかった温かさ。
「てをつなぐとあったかいんだぞ!」
繋いでいない方の手を口に当て、うふふっと無邪気に笑う。鼻の先にひらりと雪が舞い落ちて、そっと水に変わっていく。

「今度手袋編んでやるよ」

少し赤くなっている小さな手を見てそう言えば、そんなことできるの?!と嬉しそうに飛び跳ねて笑う。俺らの後に規則的に続いていた足跡が、少し乱れた。
家に着いたら暖炉の前で、この子のお気に入りの本を読み聞かせてやるんだ。それできっとこの子は眠ってしまう。柔らかい髪を撫でてやりながら、明日は何をしようかと考える。こっちにいられる間は、出来るだけ一緒に過ごしてやりたい。安らかに眠るその顔を見て、その隣で俺も眠りにつくんだ。


sir.と呼ばれてハッとなる。声をかけてきた彼に謝れば、「ここ最近、気を張りっぱなしですから…仕方ありませんよ」と困った顔で言われた。
「で…あいつは何と?」
彼は自らの口で言うには重すぎるのか、紙を一枚差し出した。

『我々は屈しない。独立を!自由を我が手に!』

時間は止まってくれない
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    つスコーン