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知らないキミ

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僕は六年ほど前からこの土地に越してきて、四年前に彼に出会った。その時の彼はあどけなく素直でやんちゃな男の子であった。

きっかけは奇妙なことだ。

彼が僕を押し倒して中学生と思えない力で僕を押し付け、抱いたことから始まる。
彼に抱かれたことで幸福感と失意と、さらに屈服させられたかのような忠誠心が芽生えた。


彼は終わった後に夕焼けが広がる空を眺めた後振り返って、




『好きだよ先生』





彼は笑顔で一言、言ったのだ。







「今日であの日から四年かー」
僕は勝手に毎年記念日だと思って、彼を待つのだけど彼から連絡はなく毎年一人で記念日を祝っているのだ。
記念日、とは正しい表現なのか曖昧だがきっと彼にとっては何の変哲も無い一年のうちの一日、なんていうカテゴリーなんだろう。
僕にとっては何よりも大切な日、
彼にとっては何でもないただの一日。
…こう言えば彼と僕の関係性が分かるだろうか。

成長するにつれて彼が中学二年生の頃、彼には思春期がやってきた。その当時僕と付き合っているはずなのに、女の子と付き合っていたりお出かけしてたり、そんなのが始まった。そういう歳、ただ彼女を作りたい歳、見栄を張るための好きなんかじゃない女の子と付き合ってるだけーーそうやって思って僕は何にも気を止めないできた。





呼び出された日には変わらず部屋を開け、
彼が学校帰りに制服で僕の家に寄ってくれるのが、何よりの幸せだった。彼の制服姿を見るたびに僕のものなんだと実感できる気がした。

呼び出されて彼のために準備する時間が好きだった。その時には張り切って隅々まで体洗ったりしちゃって。

彼のためにと彼が来る前にご飯を作ってリビングの机の上に置いているのに、彼は気づいているはずなのに、結局は生ゴミと化してしまうのだ。

張り切って、頑張ってそんな風に彼のためを思ってすること一つ一つが好きだった。
やっぱり僕は彼を愛しているんだーーそう感じることができた。

彼がインターホンを鳴らしたら、まず玄関で優しいキスをする。その後に彼は僕を倒して乱雑に抱くのだ。

変わらないベッド、変わらない部屋、彼が去った後に静かに布団に顔を埋めて匂いを吸い込む。
彼の匂いがする気がした、
彼がそこにいる気がした、
彼が僕を"愛した"証拠のような気がした。
それだけが希望だったーー


彼は毎度僕を抱いた後にシャワーを浴びる。その後には必ず香水を振って、いちごみるくを飲む。そしたら黙って僕の元から去るのだ。



お互い干渉しない。


恋人同士だよね、だとか
愛だとか恋だとか
そんなめんどくさい事、
彼は気にしていないのだ。
溢れる想いを抑え込むのにも、
気にしてないふりをするのも、
好きなんて言わないようにするふりも、
全部全部覚えた。
爪を立てないことも跡を残さないことも、
全部僕の中ではルールなのだ、
彼といるための、彼と僕をつなぎとめる唯一の。僕の知らない彼がいることから目をそらして、ただ僕の中の彼を見つめる、たとえそれが僕を愛していないとしても僕は彼が好きなのだ。

成長すればするほど会うことが少なくなって、呼ばれた時はするだけの関係に成り代わっていった。
…僕たち、きっと恋人だよね?
恋人とは呼べない関係に気づいているのにそれを言えない僕は臆病だ。
彼から何か言われるまで僕は黙ったままなんだろうーー




ある日 早く仕事が終わった日。
僕は見つけた、無駄に新しくて白で統一された広い駅の中なのに見つけた。一際背が高くすらっとしていて白シャツに映える金髪はきらきらとして似合っている。その隣には僕と変わらない背丈の背の高い女の子、遠目で見てもお似合いな二人に嫉妬したーー同時に落胆した。
これで終わりなのだと。





あの日、僕は僕の知らない君を見てしまった。









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