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土砂降りの雨の中、傘もささずに歩いている女性
どれ程長い間雨に打たれていたのか分からないほどに彼女の服はびしょ濡れだった
─ああ、もう何もかもどうでもいいや─
雨に打たれながらフラフラと歩き、赤信号に遭遇すれば立ち止まる
死ぬ勇気までは持ち合わせていない
信号が青に変わり前へと進み始めたその時
キキーッとスリップ音が聞こえ目を向ければトラックが目前に迫っていた
土砂降りの雨の中、視界が効かなかったのだろう。
目の前に人が居ることにも信号が赤に変わっていることにも気付かず、気付いた時にはもう既に遅かったのだ。
そして彼女はそこで最後を迎えた。
次に目を覚ました時、淡い白に包まれた世界だった。
最初は動くのも困難だったが徐々に動けるようになり、歩き回れるようになっても、見える世界は変わらないままだった。
周囲にいる人の言葉が分かるようになっても変わらなかった。
そして愕然とした。
生まれ変わった彼女は目が見えなかったのだ。
ある程度の年齢になると既視感を覚えるようになった。
マフィア、九代目、それからボンゴレ
そのどれもが聞き覚えがあった。むしろ聞き覚えしかなかった
それは生前、前の生の時に愛読していた漫画の内容だった。
なんとも皮肉な事だろう。会いたかった人達に会えるのに目が見えないなんて
それでもまだ声を聞くことも触れる事も出来るのだから、希望は残されていた。
父は九代目の部下で、母は屋敷のメイド。
そして彼女は、九代目の温情により住まわせてもらっていた。
ある日のこと、散歩をしていた際、人の気配を感じなかった為目の前に誰もいないと思っていた。
だから、目の前にいる事に気付かずぶつかった。
「すみません」
気付かなかった為に咄嗟に謝る。
「……」
だけど目の前の人物は何も言わなかった。
聞こえなかったのかと思ってじっと目が見えないが合わせようとする。
「おや、桜ちゃん、元気かい?」
「あ、おじい様!!」
目の前の人物の傍に居たのだろう。九代目が話しかけてくる。
マフィアのボスとは思えない程にこの人は優しいがボスとしての冷徹な部分も持ち合わせているのだろう
今は可愛がられてはいるが今後どうなるかは分からない
「そうだ、君には紹介しておこう。彼は私の息子になったXANXUSだ。」
「…、初めまして、私は桜。よろしく、XANXUS」
「ああ」
九代目に紹介されて初めて分かった、目の前にいる人物が誰なのか
そして今がいつの時代かも
ゆりかご事件の真実を知る前のXANXUSなのだと
それでも自分に出来る事は限られているし。きっと何も出来ないだろうということも分かった
ただ、自分に出来る事をしよう。無邪気に何も知らないふりをして。
───────────────────────────────────────
出会ったのは、俺が九代目に引き取られた日だったか
最初は前が見えてなかっただけだと思っていた。
目が見えないと知ったのはだいぶ後になってからだ。
それまでは普通の人のように前を歩き、屋敷の庭では走り回り、目が見えていない事を感じさせない程、いつも笑っていた。
ジジイに紹介された後は鬱陶しいくらいに付きまとわれ、連れ回された。
それが不思議と嫌ではなかった。自分の想いに気付いた時には既に遅かった。
8年前、ゆりかご事件と呼ばれたクーデターの日。
彼女の存在を疎ましく思っていた部下にこの日を利用して殺された。
最期に何を想ったのかその答えを知る術はない。
もっと早くこの気持ちに気付いていれば答えが変わっていたのかも分からない
全て過ぎたことである。過去を想うことも意味は無い。
───────────────────────────────────────
あれから私はしつこいくらいXANXUSに付き纏った。
最初は戸惑い嫌そうな顔をというより雰囲気を感じ取っていたが
今では大人しく受け入れてもらっている。どこか仕方ないと言いたげの雰囲気だ。
XANXUSと出会って数年が経った。
最近のXANXUSは忙しそうにしていて会えていない。
今日は外がやけに騒がしい。
「失礼します。お嬢様。」
「誰?」
知らない人の気配に警戒しながら問う
「ボスより、ここは危険な為避難するように指示を受けました」
こんな人居たのだろうか?そう疑問がよぎる。
確かにここが危険なのは本当だろう。
だけど九代目は私を避難させるためには、私が知っている人物を送るだろう。
目が見えない私の身を案じて。
もしかしたら、誰も送れない状況なのかもしれない。
「もし、それが本当ならどうして私は貴方の事を知らないの?おじい様なら、私を安心させるために知っている人を寄越すわ」
「おや、これは驚いた。甘やかされて育った割には鋭い。ボスの未来のためにはお前は邪魔だからな。ここで消えてもらう」
目の前の男が言うボスが誰かは分からないが、私は逃げられない事を察した。
目が見えないと言うのはここぞと言う時に不便だ。
それでも運命に抗おう。
目の前の人物の意識が一瞬逸れる。それを見逃さず彼の横を走り抜ける。
何とか扉まで辿り着けたがカチリという音が背後から聞こえた。
(ご丁寧にドアを閉めやがって!しかも内扉とは厄介な)
自分の体力では蹴破ることは出来ない。体当たりも無駄だろう。
(ここまで、か──最期にもう一度だけ、貴方に会いたかった)
どれ程長い間雨に打たれていたのか分からないほどに彼女の服はびしょ濡れだった
─ああ、もう何もかもどうでもいいや─
雨に打たれながらフラフラと歩き、赤信号に遭遇すれば立ち止まる
死ぬ勇気までは持ち合わせていない
信号が青に変わり前へと進み始めたその時
キキーッとスリップ音が聞こえ目を向ければトラックが目前に迫っていた
土砂降りの雨の中、視界が効かなかったのだろう。
目の前に人が居ることにも信号が赤に変わっていることにも気付かず、気付いた時にはもう既に遅かったのだ。
そして彼女はそこで最後を迎えた。
次に目を覚ました時、淡い白に包まれた世界だった。
最初は動くのも困難だったが徐々に動けるようになり、歩き回れるようになっても、見える世界は変わらないままだった。
周囲にいる人の言葉が分かるようになっても変わらなかった。
そして愕然とした。
生まれ変わった彼女は目が見えなかったのだ。
ある程度の年齢になると既視感を覚えるようになった。
マフィア、九代目、それからボンゴレ
そのどれもが聞き覚えがあった。むしろ聞き覚えしかなかった
それは生前、前の生の時に愛読していた漫画の内容だった。
なんとも皮肉な事だろう。会いたかった人達に会えるのに目が見えないなんて
それでもまだ声を聞くことも触れる事も出来るのだから、希望は残されていた。
父は九代目の部下で、母は屋敷のメイド。
そして彼女は、九代目の温情により住まわせてもらっていた。
ある日のこと、散歩をしていた際、人の気配を感じなかった為目の前に誰もいないと思っていた。
だから、目の前にいる事に気付かずぶつかった。
「すみません」
気付かなかった為に咄嗟に謝る。
「……」
だけど目の前の人物は何も言わなかった。
聞こえなかったのかと思ってじっと目が見えないが合わせようとする。
「おや、桜ちゃん、元気かい?」
「あ、おじい様!!」
目の前の人物の傍に居たのだろう。九代目が話しかけてくる。
マフィアのボスとは思えない程にこの人は優しいがボスとしての冷徹な部分も持ち合わせているのだろう
今は可愛がられてはいるが今後どうなるかは分からない
「そうだ、君には紹介しておこう。彼は私の息子になったXANXUSだ。」
「…、初めまして、私は桜。よろしく、XANXUS」
「ああ」
九代目に紹介されて初めて分かった、目の前にいる人物が誰なのか
そして今がいつの時代かも
ゆりかご事件の真実を知る前のXANXUSなのだと
それでも自分に出来る事は限られているし。きっと何も出来ないだろうということも分かった
ただ、自分に出来る事をしよう。無邪気に何も知らないふりをして。
───────────────────────────────────────
出会ったのは、俺が九代目に引き取られた日だったか
最初は前が見えてなかっただけだと思っていた。
目が見えないと知ったのはだいぶ後になってからだ。
それまでは普通の人のように前を歩き、屋敷の庭では走り回り、目が見えていない事を感じさせない程、いつも笑っていた。
ジジイに紹介された後は鬱陶しいくらいに付きまとわれ、連れ回された。
それが不思議と嫌ではなかった。自分の想いに気付いた時には既に遅かった。
8年前、ゆりかご事件と呼ばれたクーデターの日。
彼女の存在を疎ましく思っていた部下にこの日を利用して殺された。
最期に何を想ったのかその答えを知る術はない。
もっと早くこの気持ちに気付いていれば答えが変わっていたのかも分からない
全て過ぎたことである。過去を想うことも意味は無い。
───────────────────────────────────────
あれから私はしつこいくらいXANXUSに付き纏った。
最初は戸惑い嫌そうな顔をというより雰囲気を感じ取っていたが
今では大人しく受け入れてもらっている。どこか仕方ないと言いたげの雰囲気だ。
XANXUSと出会って数年が経った。
最近のXANXUSは忙しそうにしていて会えていない。
今日は外がやけに騒がしい。
「失礼します。お嬢様。」
「誰?」
知らない人の気配に警戒しながら問う
「ボスより、ここは危険な為避難するように指示を受けました」
こんな人居たのだろうか?そう疑問がよぎる。
確かにここが危険なのは本当だろう。
だけど九代目は私を避難させるためには、私が知っている人物を送るだろう。
目が見えない私の身を案じて。
もしかしたら、誰も送れない状況なのかもしれない。
「もし、それが本当ならどうして私は貴方の事を知らないの?おじい様なら、私を安心させるために知っている人を寄越すわ」
「おや、これは驚いた。甘やかされて育った割には鋭い。ボスの未来のためにはお前は邪魔だからな。ここで消えてもらう」
目の前の男が言うボスが誰かは分からないが、私は逃げられない事を察した。
目が見えないと言うのはここぞと言う時に不便だ。
それでも運命に抗おう。
目の前の人物の意識が一瞬逸れる。それを見逃さず彼の横を走り抜ける。
何とか扉まで辿り着けたがカチリという音が背後から聞こえた。
(ご丁寧にドアを閉めやがって!しかも内扉とは厄介な)
自分の体力では蹴破ることは出来ない。体当たりも無駄だろう。
(ここまで、か──最期にもう一度だけ、貴方に会いたかった)