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第7章

「ありがとうございます、落ち着きました」

 ふぅっ、と最後に大きく息を吐いて、瞳はいつもの元気な笑顔を見せた。蔵馬もその笑顔にホッとしたのか、微笑みを浮かべ、ぽんぽんと瞳の頭を軽く撫でる。
 瞳は蔵馬の、男にしては少し柔らかい手で、優しく撫でられるのが好きだ。ずっと前から知っていたような、懐かしくなる感触。日向にいるかのような温かさで、心地よくて思わず眠ってしまいそうになる。

 きっと、これを“幸せ”と言うのだろう。

 気がつけば瞳はうとうとし出し、本当に眠ってしまいそうになっていた。それをみた蔵馬は再び微笑み、瞳をそのまま自分のベッドに横たわらせた。

「今日は初めての事で疲れましたね。ゆっくり休んでください」

 起こさないよう、掛け布団をそっと掛ける。洗濯機に放り込んだ瞳の服を洗濯しようと、蔵馬が立ち上がったその時、小さな手に腕を掴まれた。
 振り向くと、瞳が眠気眼で蔵馬を見つめている。

「あ……起こしちゃったかな……」

 そう小さく呟き、蔵馬が瞳の手に自分の手を重ねると、腕を掴む瞳の手に力がこもった。

「……へ、い……だ……」

「へ?」

 か細い声が瞳から放たれたが、何を言ったのか聞き取れなかった蔵馬は、すっとんきょうな声を出して、慌てて瞳の顔付近に耳を近づけた。

「……どこへ、行くんだ……? 置いていくな……」

 蔵馬の耳に届いた瞳の言葉は、明らかに瞳の口調とは違うもので、一瞬思考が止まってしまった。
 次の瞬間、動けずにいた蔵馬の視界が揺らぎ、腕に集中していた体温は、上半身に絡み付く。

 蔵馬は、瞳に抱き締められていた。

「……蔵馬……」

 どうしたらいいかわからず、呆然とする蔵馬を、瞳が呼ぶ。
 否、自分を呼ぶのは本当に瞳なのであろうか。戸惑いの中、蔵馬は呼び掛けた。

「……飛影……?」

 瞬き程の沈黙の後、再び蔵馬の視界が動かされ、体が少し仰け反る。抱き締められたかと思えば、勢いよく押し戻された。
 意図の掴めない行動に困惑していると、瞳がゆっくりと顔をあげる。その頬は、ほんのりと赤く色づいていた。

「ぁ、あの……私っ……ね、寝ぼけてたみたいで……その、ぇとっ……」

 恥ずかしさからか、あたふたとしながら、瞳は手で顔を覆った。
 どうやら、蔵馬に呼び掛けたことは覚えていないが、気がついた時には蔵馬を抱き締めていたようだ。

 本人が寝ぼけていたとは言ったものの、自分に呼び掛けたのは、確実に瞳ではなかったと、蔵馬は考えていた。
 潜在意識が表れたのではないだろうか。
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