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第7章

 蔵馬は自室のベッドに瞳を座らせ、瞳の体に何が起きているのか説明した。瞳は、誰かに何かを教えてもらうのは初めての事だったので、蔵馬の話を真剣に、興味津々で聞いていた。
 瞳に、子供をつくるにはどうするのかと尋ねられたが、流石に口にし難かったのか、蔵馬は言葉を濁してその場をやり過ごすのだった。










「そういえば、蔵馬さんは子供いないんですか? 奥さんも見たことないですし……」

 女性の体について説明したからなのか、瞳は何気なく蔵馬に質問した。それが間違いだったと、瞳は気付くこととなる。
 瞳の質問の直後、蔵馬は

「いるように見える?」

 と、自嘲するように軽く笑った。その時瞳が見た蔵馬の横顔は、どこか寂しく、瞳の胸の奥をズキズキと酷く痛ませた。
 何か、聞いてはいけないことを聞いてしまったのではないか。自分の何気ない言葉で、確実に蔵馬を傷つけてしまった。瞳はそう感じていた。


 謝らなければいけない。


 瞳が謝罪の言葉を口にするよりも先に、蔵馬が口を開いた。

「ずっと、待ってる人がいるんだ……」

 蔵馬の表情は、艶のある赤い髪で隠れて見えない。呟くように出たその台詞は、何故かは分からないが、瞳の頭の中で延々と繰り返されていた。
 繰り返される度に、心なしか瞳の鼓動は速度を増していく。

 蔵馬の“待っている人”とは一体誰なのか。何故こんなにも頭の中で響くのか。

(苦しい……どうしてこんなに胸が痛いの……?)

 うつむき、黙り込んでしまった瞳の顔を覗き込んだ蔵馬は、ぎょっとした。瞳は静かに泣いていた。

「瞳ちゃん……?」

 蔵馬に呼ばれ、ようやく視界が滲んでいる事に気が付いた瞳は、一生懸命に服の袖で涙を拭った。

「お、おかしいなっ……これはその、悲しい訳じゃなくてですね……自分でも、よく、わからなくてっ……」

 よくわからないまま、次々と溢れる瞳の涙に、蔵馬は何も言えずにいた。


 自惚れても、いいだろうか。
 もし瞳の涙が、自分の言葉をキッカケに溢れたのだとしたら。
 瞳の心が、動いたのだとしたら。
 期待しても、いいだろうか。


 大丈夫、と言うように、蔵馬は優しく瞳の涙を拭った。
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