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第6章

「んじゃ、決まりだな。オレこの後用事あっからよ、先に失礼するぜ」

「ワシも、帰って親父に報告せねばならん。ではな、蔵馬。瞳も、またな」

 瞳は何が何だかわからないまま、二人に軽く挨拶をして、部屋から出ていく二人を見送った。蔵馬は二人を玄関まで見送り、部屋へ戻ってくる。再び瞳の隣に腰を下ろし、そっと瞳の頭を撫でた。
 まるで愛しい者に接するように。

「あ、あの……」

「っと、ごめんごめん。訳が分からないよね」

 蔵馬は瞳の頭からパッと手を離すと、

「最初から、こうするつもりだったんだ」

 と瞳を見つめて言った。
 蔵馬は、瞳の行き場がなくなることは分かっていた。もしも蔵馬の希望が通らなかった時は、最悪の場合、霊界から瞳を隠して、その罪を背負うつもりでいた。
 幸い、その覚悟は必要無くなった訳だが。

「さっき、コエンマが瞳ちゃんの前世の話をしたでしょう? オレも幽助も、その人と、仲間だったんだ……」

 瞳は、自分を見つめる蔵馬の目に、自分ではない、前世であろう人物を見た気がした。

「その人の、お名前をお伺いしても……?」

「……飛影、っていうんだ……」

 “飛影”。その名前を聞いた時、瞳は自分の胸が高鳴るのを感じた。一体それが何を示しているのか、今の瞳には知ることは出来ない。
 そして蔵馬は、名前を呼べば何かが変わってくれるような気がしていた。瞳が前世を、自分のことを思い出してくれるのではないかと。しかし、そう簡単に行くはずがなかった。

「ちょっと強引だったかな……ごめんね?」

 少し困ったような顔で謝る蔵馬に、瞳は戸惑いつつ、首を振った。
 嫌な訳ではない。入院から退院まで、甲斐甲斐しく自分の世話をし、更には行き場のない自分に居場所を与えてくれようとしている。むしろ、お礼をしたいくらいだ。

 しかし、迷惑にならないだろうか。ただでさえ足が動かない自分に、主婦のような真似はとても出来ない。お礼なんて、時間がいくらあっても出来ないような気さえしてしまう。

「でも、いいんでしょうか……私、何も出来ないのに……」

 蔵馬は、そう言って俯く瞳の手を取り、再び抱き上げた。驚いた瞳の小さな悲鳴が聞こえる。

「いいんだよ、気にしなくて。オレがやりたくてやってる事なんだし。それより瞳ちゃん、お腹すいたでしょ? どこか食べに行こう。ついでに、瞳ちゃんの服も買いに行かないとね」

 瞳は蔵馬に感謝の言葉を述べ、共に二駅隣りのショッピングモールへ向かった。
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