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第5章

 つまりはアレだ。恋愛に関して器用とは言えない幽助は、子供が産まれ、世話や仕事に追われて、妻への愛が疎かになっていたのだろう。

「だったら、尚更帰るべきなんじゃないですか? ついでに近くの花屋で花でも買っていったらどうです?」

 謝罪や愛を伝えられる花言葉を持つ花はたくさんある。蔵馬はそれを持って帰ることを幽助に勧めた。

「そりゃあいいな! 流石蔵馬だ、サンキューな!」

「何事も挑戦するのが幽助らしさだと思いますよ。うまくいくといいですね」

 いつもの勢いを取り戻した幽助は、元気よく返事をすると、その場から立ち去っていった。
 そんな幽助を羨ましく思いつつも、買い物を終え、蔵馬はスーパーから出る。と同時に自宅とは反対方向から、大きな妖気を感じ取った。その妖気は、先程少女と出会った屋敷がある方向からだった。

「飛影……?」

 嫌な予感と共に、蔵馬は急いで屋敷へ向かった。





 記憶を頼りに屋敷へ向かう途中、近くの住宅街では、噂好きの主婦達が屋敷の話題を口にしていた。

「まぁ火事? どこ? すごい煙ねぇ」

「ほら、あの“化け物の子”がいる家よ」

 “化け物の子”とは、あの少女の事だろう。
 蔵馬は更に足を速め、屋敷へと急いだ。

 屋敷に近づくに連れ、焼け焦げた臭いが強くなっていく。今の少女の妖気では、人間界で魔界の炎を呼び出すのは難しい。しかし普通の炎なら話は別だ。こんなに大きくなった妖気ならば、建物を燃やすくらい容易いだろう。

 屋敷へ到着すると、屋敷の前には野次馬が集まっていた。

「蔵馬!!」

 先程スーパーで別れた幽助が駆けつけてきた。

「花選んでたら、でけえ妖気を感じたからすっ飛んできちまったぜ。……あの子か?」

「ええ、おそらく」

 幽助は「やっぱりな」と、既にこの事をコエンマに連絡していた。これがあの少女の起こした火事となれば、人間界ではどうにもならず、霊界の手を借りる他ない。

 屋敷の炎は全体に広がり、消防隊が到着する前に崩れ落ちてしまいそうだった。
 ザワッ、と野次馬の中から声が上がる。何事かと近づいて見ると、屋敷の中から、よたよたと歩いてくる人影が見えた。それは紛れもなく、あの少女だった。
 炎の中から人が出てきたというのに、誰も助けに近寄る様子はない。皆“化け物の子”には関わりたくないのだろう。

 だがそんな事、自分には関係がない。それは幽助も同じだった。二人は野次馬を掻き分け、少女に駆け寄った。

「飛影! 大丈夫ですか!?」

 倒れ込む少女を、蔵馬は寸前で抱き抱え、呼びかけるも反応は得られない。幸いにも大きな火傷痕は見当たらない。呼吸も確認できる。
 まもなく消防隊と救急隊が到着して消火が始まり、幽助と蔵馬は、少女の付き添いという形で救急車に乗り込んだ。
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