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第5章

 ――――屋敷内。

「瞳!! 一体どこで何をしていたの!? 勝手に出歩いて、自分が外でなんて呼ばれているか分かっているでしょう!?」

 パァンッ!と部屋の中に乾いた音が響く。
 頬がじんじんと痛む。

「ごめん、なさいっ……。私はただ、散歩がしたくて……」

「親に口答えする気!? やっぱり貴女は出来損ないだわ。罰が必要ね」

 そうして母親は、机の引き出しからいつものムチを取り出した。

「ひっ……い、や……ごめんなさい! ごめんなさい!!」

 何度こうして罵られ、暴力を振るわれてきただろう。

 生まれた時から意識はあった。それが普通ではないことも、成長するに連れて理解した。
 愛する夫の子供を一生懸命にお腹の中で育て、そしてその子供を産んだ喜びは、さぞ大きなものだっただろう。だがその喜びは、産まれた我が子を見たことで、同じくらいの大きな絶望となる。

 母は酷く怯えたようだった。人間に第三の眼がある訳がないのだから、仕方がないとも言える。それに加え、人間よりも成長スピードが早く、3年ほど経過した頃には、既に小学校低学年くらいの見た目をしていた。化け物を産んでしまったと、母はいつも泣いて、周りの人間に謝罪の言葉を並べていた。
 やがて父はこの家を去り、何人かいた使用人も次々と辞めて行った。この家に残ったのは、母と自分だけ。そして、『こうなったのはお前のせいだ』と、当たるようになった。

 幸い顔には傷は付かなかったが、体の傷は日に日に増えて行き、外部に助けを求めても、額の眼を見ると、化け物だと言って誰も助けてはくれなかった。
 挙句の果てには、信号待ちの横断歩道で背中を押されて車に轢かれ、その事故で足は動かなくなってしまった。母は心配こそしなかったが、家の中を這って動かれても困るから、と車椅子を与えられた。

 母は、こちらが自由に歩けず、反撃してこないと分かっていながら、ほぼ毎日、こうして暴力を振るって、ストレスを発散している。
 子供は親を選ぶことは出来ない。痛いことをされても、子供にとって親は親だ。一度でも優しくしてくれた母が好きだった。我慢していた。


 それでも、限界は来る。


 逃げ出したい。こんな所にいたくない。痛いことはされたくない。
 嫌だ。痛い。嫌だ。助けて。
 嫌い。家族を捨てた父親も、母と自分を見捨てた使用人も、助けてくれない周りの人間も、事故に遭わせた人間も、母親も、自分も。
 皆嫌いだ。
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