二人は、控えめに聞こえたその声の方へ視線を移すと、そこには車椅子の少女がいた。
　高校生～大学生くらいだろうか。少女はふわりとした優しい笑顔を二人に向けると、

「お二人共、妖怪ですね？」

　と尋ねた。二人は驚いて顔を合わせ、警戒するかどうか迷っていた。
　蔵馬達の反応を見て、少女はクスクスと笑う。

「私も妖怪なんです。と言っても、半人半妖ですが。お二人に危害を加えるつもりはありませんので、安心して頂けませんか？」

　二人はもう一度顔を合わせ、少女の気を探った。微量ではあるが、確かに目の前の少女から妖気を感じる。嘘を言っている訳ではないようだ。
　そこで蔵馬はあることに気が付いた。時々街で感じる飛影に似た妖気。その妖気は、この子から発せられていたのだ。

（でも、あれから10年。彼女はどう見ても20歳前後。計算が合わない……）

　蔵馬が考え事をしていると、幽助に肩を組まれ、少女に背を向けて小声で話しかけられた。

「なぁ蔵馬、あの子の妖気、なぁんか飛影に似てると思うんだけどよ……。それにほら、額んとこ包帯してるしよ……」

「ち、ちょっと待てくだいさいよ幽助。確かに似ているとは思いますけど、生まれ変わっても邪眼が付いてるとは限らないですよ」

　飛影の邪眼は生来のものではない。たとえ邪眼があるまま死んだとしても、生まれ変わった時に邪眼も付いてくるとは限らない。包帯を巻いているのは、単純に怪我の可能性もある。

（でも、もしかしたら……）

　なんて考えている自分が、蔵馬は馬鹿らしく思えてきた。
　話が聞こえてしまったのか、少女は困ったような顔をして、二人に呼び掛けた。

「えっと、この額のことですよね……。これ、目が付いてるんです。生まれた時からあるみたいで、みんな怖がってしまうので、隠してるんです」

　少女の言葉により、蔵馬は期待しても良いのだろうか、と思った。邪眼と、飛影と似た妖気を持っている。きっとこの子が、飛影の生まれ変わりなのだろう。

　妖狐の時の自分と同じく、胎児の体に飛影の魂が入り込み、人間として生まれた。しかし不幸だったのは、少女の額に邪眼が顕れてしまったこと。今まで辛い思いをしてきたことだろう。

「そろそろ家に戻らないと。それじゃあ、失礼します」

　少女は会釈すると、自宅である屋敷の門をくぐって行った。二人は自分たちも帰ろうか、と少女に手を振り、屋敷を後にした。

　あの子が飛影だというのは、ほぼ確定で間違いない。しかし、自分を思い出してもらうのは、かなり難しいだろう。

　蔵馬の場合、死ぬ前に霊体で憑依したから、自分の意識がある状態で転生が叶った。だが飛影の場合はそうではない。自我が芽生える前の状態だったのだから、飛影の記憶は前世ということになる。
　一般的な人間や妖怪の中でも強い霊力、妖力を持ち、更に前世を思い出せる者は数少ない。奇跡に近いと言ってもいいだろう。

（これは骨が折れそうだ……）