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第1章

 飛影が蔵馬の家を飛び出してから、3ヶ月が経過した頃。飛影はそろそろいいだろう、と人間界へ戻ってきていた。
 今から蔵馬のもとへ向かう。今度は数週間どころではない。また無理矢理に肌を重ねられてしまうかも知れない。
 それでも飛影は、覚悟の上で向かおうとしていた。魔界で考えに考えた事を、もう一度頭に廻らせて、飛影は蔵馬の所へ足を進めた。


 その時――――。










「ねぇ! すぐそこの交差点で衝突事故ですって!」


(衝突事故? あぁ、そう言えばさっき大きな音がしたな……)


 蔵馬は飛影が自分の所を出て行ってからも、飛影の為に、自分と飛影の2人分の食事の材料を買っていた。
 今日もその買い物の帰り、信号待ちの女性達の会話を耳にした。

 また妖怪が悪さでもしたのだろうか。そんな事を思いながら、そのまま話を聞いていると――――

「男の子みたいよ」

「いやねぇ、子供が犠牲になるなんて……」

「私見たわよ! 真っ黒い服を着た子でねぇ、右手に包帯を巻いてるのがチラッと見えたわ。ケガしてたのに更に事故なんて……可哀そうよねぇ……」


 蔵馬はその特徴を聞いた途端、心臓の音が、どんどん速くなっていったのが分かった。
 考えたくない事が、脳裏をよぎる。


(飛影が……?まさか、そんなはずない……)


 蔵馬は考える間もなく、足早にその事故現場へ向かった。
 事故に遭ったのが、飛影じゃないことを願って。






 蔵馬の願いもむなしく、悪い予感は当たってしまった。

 ボンネットがへこんだ車と、頭を抱えた運転手。
 そして流血し、倒れている飛影。

「ひ……ひえい……」

 蔵馬は力が抜けそうになるのを堪え、飛影の側に駆け寄り必死に声を掛けた。

「飛影! しっかりして!!」

 蔵馬が必死に呼び掛けると、飛影は薄く目を開け、消え入りそうな声で蔵馬の名前を呼んだ。弱り切った飛影の手を取り、固く握りしめる。


 居なくならないで欲しい。ずっと側に居て欲しい。


 ただそれだけを、蔵馬は望んだ。
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