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第4章

 カツン、カツン、と氷泪石が床に落ちる音が響く。蔵馬はその中のひと粒を拾い上げた。

「貴方を抱く時、貴方、たまに泣くことがあったでしょう? オレね、その時の氷泪石を大事に仕舞ってたんですよ」

「……どこかに売ったりしないのか? 人間界じゃ、大金になるんだろ?」

 雪菜を監禁していた垂金も、それが目的だった。闇取引にはなるが、氷泪石を売れば、あっという間に裕福な暮らしが出来るようになるだろう。

「そんなこと、出来るわけないじゃないですか」

 おかしなことを言う人だな、と蔵馬は軽く笑ってみせる。そんなの貴方を売ってしまうのと一緒だ、と。

「貴方の氷泪石で、指輪とネックレスを作ってあげたくて。飛影。オレと、結婚してくれます?」

「くっ……くくっ……馬鹿か、貴様はっ……何に転生するかも分からんのだぞ?それに結婚出来るのは男女だろう。オレが女になるとは限らん」

 小馬鹿にしたように言うと、

「でも男とも限らないでしょう?」

 と、蔵馬は続けた。

「だから、絶対に戻ってきてくださいね……?」

 蔵馬はそう告げると同時に、飛影の頭を撫でた。少し大きくて、でも柔らかくて優しいその手付きが大好きだった。




 しかし時間は残酷で、二人の別れの時間はまたたくまに迫っていく。

「……もう、時間みたいですね……。貴方は行かなくちゃ。……だから、お別れのキス。再会できた時、オレから貴方にキスをするから、今回は、貴方からしてくれませんか?」

 みるみるうちに、飛影の顔が赤く染まっていく。自分からは滅多にしないのだ。抵抗があるのも仕方がない。飛影は、蔵馬のこういうところが苦手だと思った。

 いつも自分をからかい、面白がって無茶振りをする。まあ、逆に好きなところでもあるのだが。ここは腹をくくるしかないだろう。

 飛影は少し背伸びをして、触れるだけのキスをした。

 たったそれだけだったが、蔵馬はとても嬉しそうに微笑んで、

「それじゃあ、“また”」

 と、再会を強く願い、飛影の姿が見えなくなるまで、その場に立ち尽くした。






 蔵馬は自分の足元に目をやり、飛影の残した氷泪石を拾い集めた。邪眼師の氷泪石なんて、珍しい以上の代物だ。本人と自分以外、誰も知ることはない。


(オレだけの、大事な物。大切な人……)
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