このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

本編

「蒼星。」
「あ、カイト。」
「待たせたか?」
「……うん、10分くらいね。まあでも、俺が好きで早く来てたから。」
今日は1月7日、俺の誕生日だ。
交際中の俺とカイトは、神戸に観光に来ていた。仕事は響也が『誕生日くらいはゆっくり過ごして。』と休みをくれたのである。『泊まる』と伝えれば、2日間も休みをくれた。
俺たちは変装の為にニット帽とマスクと眼鏡(俺のはいつもとは違うものだよ)で身を覆っているので、まるで不審者のような格好である。
「じゃあ、行くぞ。」
カイトはニット帽を被りなおすと、俺の手をぐっと引き、無理やり恋人繋ぎをさせてくる。
「ちょっ……!?」
「おい。なにボサっとしてんだよ。」
彼はいじらしそうに笑い、いつもの自信ありげな笑顔をみせた。こういう不意打ちの笑顔は本当にやめてくれ、心臓に悪い。
カイトに連れられ、最寄り駅までやってくる。俺は誰かに正体がバレてしまわないか不安になり、辺りをキョロキョロと見回す。
もしこの事がバレればタダでは済まない。前回のスキャンダル以上に騒がれるだろう。
だから、尚更不安なのだった。
「おい。」
「なっ、なに?!」
突然カイトに声を掛けられ、動揺する。
「さっきから何心配してんだよ。」
なんで全部カイトはお見通しなんだ。俺のほうが年上なのに。
「えっと……誰かにバレないかな……って……」
するとカイトは急に俺を抱き寄せた。
「キョロキョロしてると、逆に怪しまれるっつーの。」
「ぅ……そうだよね、ごめん。」
すると、タイミング良く新幹線がホームへ入ってきた。
「ほら、乗るぞ。」
「うっ、うん!」
ぐいぐいと俺の手を引っ張るカイトに置いていかれないように、後を追いかけるように走った。
そして乗り込む。自分たちの席を探して座席に座ったところで、ちょうど列車が出発した。
俺の彼氏は嬉しそうに神戸の観光雑誌を眺めている。今回の旅行先は神戸だ。旅行を楽しみにしていてくれるのは嬉しい。ただ、雑誌ばかり見ていてカイトが構ってくれないのは少しばかり寂しい。そんなことは口が裂けても言えないけれど。
だから、俺はカイトの眺めている雑誌を、横から覗きこんだ。ページに載っているのは、ゴーフルやらプリンやら。所謂神戸のスイーツだった。
「神戸プリン……」
カイトがぽつりと言葉をこぼす。その視線の先には『神戸プリン』と書かれたプリンがあった。その周りには、神戸プリン味の菓子が掲載されている。
「カイトは、本当にプリン大好きだよね

「あとはゴーフルと……おっ、これのプリン味もあるのかよ。」
カイトは話しかける俺のことなんて目に留めず、ぼそぼそと一方的に雑誌に話しかけている。
「……」
お前の彼氏はスイーツなのか。俺は苛つきのあまり心の中でそう突っ込んでしまった。こう不貞腐れていても良いことは何もない。俺は窓にもたれた。昨日は夜遅くまでプランの確認をしたり、『そういうこと』の用意をしていた為、ほとんど寝ていなかった。良くも悪くもおかげで身体はすっと眠りへ落ちていった。

「……もな……く、……んこ……べ、新神戸ー。」
そこではっと目が覚める。窓にもたれている首の位置を戻すと、目を擦る。なぜか眼鏡が無くぼやける視界の中で、カイトがぼやけて見える。
「ん……かいと……」
カイトに『構ってほしい』という意味も込めて、彼の服の裾を引っ張った。すると、ぼやけた視界が一気にクリアになる。
「ん、おはよ。」
「……おはよう…………」
「ほら、降りっぞ。」
荷物はカイトにしては珍しく整理されていた。しかもそれぞれの鞄に分けられて。
「うん……」
カイトに手を引かれ、列車から降りる。そこには『新神戸』の表示があった。その後電車に乗り換え、神戸市まで向かう。
「マジのプリンがあるじゃねぇか!!」
カイトはプリンに飛び付く。俺が風見鶏の館の位置を確認しようと地図を見ている間に、カイトはプリンを買い食べている。
「おい蒼星!!ミルフィーユもあるぞ!!」
「はいはい。」
甘いものにがっつくカイト。いい加減にしないと身体に悪いぞ。まあ、こういう姿が可愛いんだけど。
その後俺たちは、しばらくスイーツの食べ歩きをしていた。甘いものが苦手な俺だったけれど、カイトの幸せそうな表情を見ていると心が満たされていた。
気がつけば、空はオレンジ色になり始めていた。
「じゃあ、そろそろ夕飯にしようか。」
「ああ。」
「どこにしようか。」
「あそこでいいんじゃね?」
そう言ってカイトが指差したのは、高級感漂う店だった。
「……」
「……なんだよ。」
「い、いや……なんでもない……」
カイトの金銭感覚というものは一体どうなっているのだろう。それを否定する訳にはいかないため、やむを得ずカイトに付いていった。
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ。」
明らかに世界観の違う店員にそう言われ
、反応に困る。一方カイトは淡々と店員に着いていく。俺は置いていかれないようにカイトにきつく握られた手を握り返した。

正直言って、あまり食べた気はしなかった。神戸牛とか何だとか、高級食材が出てきたという記憶しかない。
その後は、予約していたコテージへと向かった。
コテージは、二人で過ごすには広々とした部屋だった。部屋に入ると、カイトが買って来ていた甘いものに手を伸ばしていたので、俺はその間に風呂に入ることにした。

風呂上がり。俺は緩めのシャツに着替え、カイトのいるリビングまでやってきた。
「カイト。」
「あ?」
「風呂、入ってきたら?」
「ああ。」
俺はカイトを風呂に入らせると、部屋の中心に置かれたソファーに座った。そしてテレビをつける。
こんな風にゆっくり過ごすのは、久しぶりかもしれない。
俺がバラエティー番組にぼーっと耳を傾けていると、突然後ろから抱きつかれた。
「っ!?」
「よお。」
聞こえた声は、聞き慣れた癖があるけれどどこか優しい声。
「カイト……突然どうしたの?」
俺がカイトと話そうと立ち上がった瞬間、左手を引かれ横にあったベッドに押し倒される。
「?!」
突然のことで焦っていると、カイトが俺の名を呼んだ。
「おい蒼星。」
「なっ……なに……?」
何を言われるのか不安になっていると、カイトはいつものあの笑顔を崩し、耳まで真っ赤に染めて、こう言った。
「その顔……反則。」
「っ!!」
お互いの頬が真っ赤に染まる。その数秒後、俺たちは顔を見合わせて笑った。
「じゃ、そろそろ寝るか。」
「そうだね。」
掛け布団に入り、カイトに抱き締められる。カイトはいつもの自信ありげな笑顔をしていた。
こんな生活が、カイトのこの笑顔が、ずっとずっと、続きますように。
1/1ページ
    スキ