出会い
「私はライラ。あなたは?」
なにが、と問い返した。少女、ライラはニコニコと笑顔だ。
「なにって、自己紹介よ、自己紹介!あなたの名前は?」
ロランだと簡潔に答える。
「ロラン…ロラン、ふふふっ、ロラン!いい名前だね!」
何が気に入ったのかライラは楽しそうに繰り返し呟いている。どこか浮き足立っていて今まさに飛び跳ねでもしそうな勢いだ。
「ロラン、ねぇロラン。あなたはなんでここに来たのかしら?」
ライラからの無邪気な質問にどくり、と心臓が跳ねた気がした。突然の質問に何も身構えていなかった心が悲鳴をあげたような気がする。さーっと目の前が黒か白かわからないが塗りつぶされた。それが顔にも出ていたのかライラが覗き込んでくる。今の自分がよほどひどい顔をしているであろう自覚はあった。
「……ごめんね。話したくない事なら言わなくていいよ…」
ライラはロランを傷付けたと思ったからか瞳を潤ませ声を震わせる。今にも泣きそうだ。
「無神経だったよね。はしゃいじゃって…本当にごめんなさい…」
咄嗟にライラの手を掴んで握りしめていた。彼女を泣かせてはいけないと心のどこかでそう思ったが故の行動だった。
「いいよ…僕の事、君に聞いて欲しい。…駄目かな?」
ライラは泣きそうな顔をはにかみながら嬉しそうな笑顔に変えた。
掴んだ手をそのままにして、横に並んで歩く。ポツポツとこれまで自分にあったことを話していく。声は小さかったし、とぎれとぎれで支離滅裂だったがライラは静かに聞いてくれた。楽しかったことを話すと一緒に笑ってくれて、辛かった時のことを話すとぎゅぅと手を強く握ってくれた。その時、過去に彼女がいたらどれほどよかったことだろうと少し思った。ただ少し話をしただけで心が晴れてスッキリした気持ちになる。彼女はさきほど会ったばかりで、名前以外何も知らない少女だがそんな疑問やもろもろのことなど吹き飛んでいて、今ロランの心を占めているのは確かに繋がっている手から感じる安心感だ。ずっとこのままこの時が続けばいい、なんて思ってからゾッとした。そんなこと出来るわけないのに。あまりに幸せで、これは自分が見ている夢なのではないだろうか?そんな不安がどっ、と押し寄せてきた。今までならばこんなこと絶対に考えなかったはずなのに…
「……なんで…ここに来てからおかしいことだらけなんだ?」
「え?」
眉間に皺を寄せてぐっと涙をこらえながら震える声で呟く。
「ねぇ、もしかしてここは僕の夢なんじゃないの?今まで、こんな気持ちになったことなんて一度もなかった…いつも怖くて…恐ろしいことばかりだったんだ…」
夢なら覚めないで…祈るようにしてしゃがみこみ丸まった身体をそっと抱きしめられた。
「……きみはとても頑張ってきたんだね。そしていっぱい傷ついて我慢して…」
抵抗する気など起きなくてされるがままになる。人の温もりはあったかくて、手放しがたい。
「でももう大丈夫よ。この世界は全ての行き着くところ。境界の狭間。この世界のものであなたを脅かしたり、怖がらせたりするものはいないわ」
そっと顔を上げる。目の前には彼女の心配そうな顔。黙ったまま見つめ合う。ライラの瞳は銀色に輝いていて、まるで夜空に浮かぶ月のようだった。ゆっくりと立ち上がるとその動きに合わせてライラも遠のいていく。無意識に手を伸ばそうとしていたのを踏みとどまる。なぜだか追いかけてはいけないと思った。
「わたしは夜(ライラ)だから、あなたともまた会える。その時はどうか…笑っていて…」
そう言って微笑みながら、彼女は目の前で消えてしまった。とても悲しくなって消えてしまいたくなった。でも彼女はまた会えると言った。ならばすることは決まっている。この世界のことをもっと知ろう。次に彼女に会えた時、笑顔でいれるように。決意を胸に仕舞うと心に余裕が出来たのかふと思い立ち空を見上げた。空には大きな月が浮かびまるでライラに見守られたいるように錯覚させる。また会える、その言葉を胸に1歩を歩き出す。気付くと元いた大通りに出ていて目の前には心配そうに慌てているリンメルの後ろ姿があった。これはあとが大変だなと思いながら彼に声をかけるために近づいて言った。
「ただいま」
なにが、と問い返した。少女、ライラはニコニコと笑顔だ。
「なにって、自己紹介よ、自己紹介!あなたの名前は?」
ロランだと簡潔に答える。
「ロラン…ロラン、ふふふっ、ロラン!いい名前だね!」
何が気に入ったのかライラは楽しそうに繰り返し呟いている。どこか浮き足立っていて今まさに飛び跳ねでもしそうな勢いだ。
「ロラン、ねぇロラン。あなたはなんでここに来たのかしら?」
ライラからの無邪気な質問にどくり、と心臓が跳ねた気がした。突然の質問に何も身構えていなかった心が悲鳴をあげたような気がする。さーっと目の前が黒か白かわからないが塗りつぶされた。それが顔にも出ていたのかライラが覗き込んでくる。今の自分がよほどひどい顔をしているであろう自覚はあった。
「……ごめんね。話したくない事なら言わなくていいよ…」
ライラはロランを傷付けたと思ったからか瞳を潤ませ声を震わせる。今にも泣きそうだ。
「無神経だったよね。はしゃいじゃって…本当にごめんなさい…」
咄嗟にライラの手を掴んで握りしめていた。彼女を泣かせてはいけないと心のどこかでそう思ったが故の行動だった。
「いいよ…僕の事、君に聞いて欲しい。…駄目かな?」
ライラは泣きそうな顔をはにかみながら嬉しそうな笑顔に変えた。
掴んだ手をそのままにして、横に並んで歩く。ポツポツとこれまで自分にあったことを話していく。声は小さかったし、とぎれとぎれで支離滅裂だったがライラは静かに聞いてくれた。楽しかったことを話すと一緒に笑ってくれて、辛かった時のことを話すとぎゅぅと手を強く握ってくれた。その時、過去に彼女がいたらどれほどよかったことだろうと少し思った。ただ少し話をしただけで心が晴れてスッキリした気持ちになる。彼女はさきほど会ったばかりで、名前以外何も知らない少女だがそんな疑問やもろもろのことなど吹き飛んでいて、今ロランの心を占めているのは確かに繋がっている手から感じる安心感だ。ずっとこのままこの時が続けばいい、なんて思ってからゾッとした。そんなこと出来るわけないのに。あまりに幸せで、これは自分が見ている夢なのではないだろうか?そんな不安がどっ、と押し寄せてきた。今までならばこんなこと絶対に考えなかったはずなのに…
「……なんで…ここに来てからおかしいことだらけなんだ?」
「え?」
眉間に皺を寄せてぐっと涙をこらえながら震える声で呟く。
「ねぇ、もしかしてここは僕の夢なんじゃないの?今まで、こんな気持ちになったことなんて一度もなかった…いつも怖くて…恐ろしいことばかりだったんだ…」
夢なら覚めないで…祈るようにしてしゃがみこみ丸まった身体をそっと抱きしめられた。
「……きみはとても頑張ってきたんだね。そしていっぱい傷ついて我慢して…」
抵抗する気など起きなくてされるがままになる。人の温もりはあったかくて、手放しがたい。
「でももう大丈夫よ。この世界は全ての行き着くところ。境界の狭間。この世界のものであなたを脅かしたり、怖がらせたりするものはいないわ」
そっと顔を上げる。目の前には彼女の心配そうな顔。黙ったまま見つめ合う。ライラの瞳は銀色に輝いていて、まるで夜空に浮かぶ月のようだった。ゆっくりと立ち上がるとその動きに合わせてライラも遠のいていく。無意識に手を伸ばそうとしていたのを踏みとどまる。なぜだか追いかけてはいけないと思った。
「わたしは夜(ライラ)だから、あなたともまた会える。その時はどうか…笑っていて…」
そう言って微笑みながら、彼女は目の前で消えてしまった。とても悲しくなって消えてしまいたくなった。でも彼女はまた会えると言った。ならばすることは決まっている。この世界のことをもっと知ろう。次に彼女に会えた時、笑顔でいれるように。決意を胸に仕舞うと心に余裕が出来たのかふと思い立ち空を見上げた。空には大きな月が浮かびまるでライラに見守られたいるように錯覚させる。また会える、その言葉を胸に1歩を歩き出す。気付くと元いた大通りに出ていて目の前には心配そうに慌てているリンメルの後ろ姿があった。これはあとが大変だなと思いながら彼に声をかけるために近づいて言った。
「ただいま」