出会い
一度目を奪われ、あの時いけなかった場所に今度はリンメルに手を引かれてやってきた。改めて見ても異文化が交じり混沌としていて、けれどどことなく調和がとれていて美しい、まさに異世界、そんな印象を思わせる街だった。まずまっさきに向かった先の建物はすべてが大理石で出来ていて、この街の役所のようなところらしい。ここで貰える物がこの世界の住人であり王の許可を得たものであるという証明となるそうだ。
「ここはね、さっきホルティスが言いかけていたように彼と私、それから多くの仲間たちと手によって作られたんだ。今はこんなだが最初はもっと小さかったんだよ?」
懐かしい、もう何百年も前のことだ…と呟いたリンメルはしみじみとすぎた時間を噛み締めているのか悲しそうな、それでも満足そうな顔をしている。
中に入ると職員らしきものが気づいたのか近づいてきた。細目が特徴的な人のように見える、しかし人間には絶対についていない犬耳を生やした男性だ。職員はこちらをちらりと見て僅かに目を開くがすぐに元の表情に戻ってリンクスと向き合う。
「お久しぶりです、チェインさん。今回はどのようなご用事で?」
「この子用のを作りたい。すでに王にはお目通りしておいたからそちらで発行してもらうだけなんだ」
何を作ろうとしているのか、説明が欲しくて何やら二人で話し込んでいるリンメルの袖をひっぱる。うまく注意を引けたようで苦笑しながら頭をポンポンと撫でられる。
「今から、君用の証明印を作るんだよ。あれがあればこの世界のどんなところにいたって誰も咎めない。むしろ妖精王の加護を賜っているとしてたいへん良くしてもらえるんだ」
仲間は大切にしなくちゃいけない、特に小さい仲間はね…小さく呟かれた言葉は恐らく誰にも聞こえていないだろう。誰にも聞こえてはいなかったが、その時のリンメルがひどく悲しそうな顔をしていてロランはなんだか酷く心がざわついていた。
「わかりました。それでは少々お待ちください。そうですね…明日、また同じく刻に来てください。受け取るだけなのでチェインさんだけでいいですよ」
「それじゃあよろしく頼むよ」
結局何を作るのかははっきりとは分からなかったがいいものではあるのだろう。なんとなくそう思った。そのまま彼のあとについて行こうとするがするとどうだろうか。建物から出てきたリンメルに気づいた十人が彼の周りに集まり途端に人の壁が出来上がってしまった。弾き出され、どうにも近ずけずに遠目から見ているとリンメルは若干の困り顔をしながらも一人ひとり丁寧に対応していてこれは時間がかかるだろうな、と思った。そうして、どうせ一本道らしいし少し歩いてもいいだろうと悪戯心が芽生えそのまま少し歩く事にした。てくてくと歩いている時、ふと気になって上を見上げてみた。いつの間にか日は傾いていて空には青の他に赤、オレンジ、黄、紫が混じり合いなんとも表現しずらい様相だった。ぼんやりと空を見上げたのはいつぶりだったか…いつから地面の茶色しか見ていないのか…ぼーっとそんなことを考えていたからだろうか、いつの間にかロランは知らない路地を歩いていた。あきらかに先程までいた大通りではない。建物が密集していて陽が射しにくいためか少し暗く翳っている。ここは、彼が言っていた裏路地だろうか?元来た道を戻ろうにもそんなもの憶えていなかったし憶えていたとしても戻ることなどできないだろう。大通りにいたときから10分もしないうちにもう自分がどこにいるのかわからなかった。
いや、そもそも来た道を見てすらいない。ロランは、ここで慌てても何もいいことは無い。できるだけ冷静になろうとしてリンメルの言葉を思い出す。確か裏路地とは迷路のようになっているのではなかったか。周りは似たような壁が続いていて分かれ道がそこかしこにある。なるほどこれではすぐに迷ってしまうだろう。複雑な作りの路地に思わず感心してしまったが今やるべき事はもっと違うことだ。何とかして大通りに出ないと…
とりあえず後ろに進めば間違いないだろうと踵を返したとき、背後から声がかかった。
「あなた、ここで何やってるの?」
びっくりして思いっきり肩がはねた。猫が驚いた時によく飛び跳ねるがあれぐらい大袈裟なほどの反応に背後の声が笑う。
「ふふっ、そんなに驚かなくてもいいじゃない。もしかして迷子かしら?ここじゃ見ない顔だし外から来たんでしょ。で、ここまで迷い込んだ」
恥ずかしながら言っていることはあっていたので赤面しながらしぶしぶ頷く。
まだ笑っている少女に渋顔をつくるとごめんごめんと軽く謝られた。
「この路地はね、地元の人でもたまに迷っちゃうくらい複雑だから、きみみたいなのはよくいるの。だから恥ずかしくないわ」
改めて声に出されるとさらに恥ずかしい。ロランはもうこれ以上ないほど真っ赤になってしまった。
「どうしたの?わたしなにかしちゃった?怒ってる?」
ロランの様子に慌ててわたわたしながら早口でまくし立てる。
「道案内してあげるから機嫌を直して、ね?」
その言葉にロランもなかなかに現金なもので聞いた途端目を光らせる。
「あっ!機嫌直してくれた?」
ホッとしている少女はニコニコしながら顔を覗き込んでくるとそのまま自然な流れで手を繋いでくる。
「じゃあ、行こっか」
「ここはね、さっきホルティスが言いかけていたように彼と私、それから多くの仲間たちと手によって作られたんだ。今はこんなだが最初はもっと小さかったんだよ?」
懐かしい、もう何百年も前のことだ…と呟いたリンメルはしみじみとすぎた時間を噛み締めているのか悲しそうな、それでも満足そうな顔をしている。
中に入ると職員らしきものが気づいたのか近づいてきた。細目が特徴的な人のように見える、しかし人間には絶対についていない犬耳を生やした男性だ。職員はこちらをちらりと見て僅かに目を開くがすぐに元の表情に戻ってリンクスと向き合う。
「お久しぶりです、チェインさん。今回はどのようなご用事で?」
「この子用のを作りたい。すでに王にはお目通りしておいたからそちらで発行してもらうだけなんだ」
何を作ろうとしているのか、説明が欲しくて何やら二人で話し込んでいるリンメルの袖をひっぱる。うまく注意を引けたようで苦笑しながら頭をポンポンと撫でられる。
「今から、君用の証明印を作るんだよ。あれがあればこの世界のどんなところにいたって誰も咎めない。むしろ妖精王の加護を賜っているとしてたいへん良くしてもらえるんだ」
仲間は大切にしなくちゃいけない、特に小さい仲間はね…小さく呟かれた言葉は恐らく誰にも聞こえていないだろう。誰にも聞こえてはいなかったが、その時のリンメルがひどく悲しそうな顔をしていてロランはなんだか酷く心がざわついていた。
「わかりました。それでは少々お待ちください。そうですね…明日、また同じく刻に来てください。受け取るだけなのでチェインさんだけでいいですよ」
「それじゃあよろしく頼むよ」
結局何を作るのかははっきりとは分からなかったがいいものではあるのだろう。なんとなくそう思った。そのまま彼のあとについて行こうとするがするとどうだろうか。建物から出てきたリンメルに気づいた十人が彼の周りに集まり途端に人の壁が出来上がってしまった。弾き出され、どうにも近ずけずに遠目から見ているとリンメルは若干の困り顔をしながらも一人ひとり丁寧に対応していてこれは時間がかかるだろうな、と思った。そうして、どうせ一本道らしいし少し歩いてもいいだろうと悪戯心が芽生えそのまま少し歩く事にした。てくてくと歩いている時、ふと気になって上を見上げてみた。いつの間にか日は傾いていて空には青の他に赤、オレンジ、黄、紫が混じり合いなんとも表現しずらい様相だった。ぼんやりと空を見上げたのはいつぶりだったか…いつから地面の茶色しか見ていないのか…ぼーっとそんなことを考えていたからだろうか、いつの間にかロランは知らない路地を歩いていた。あきらかに先程までいた大通りではない。建物が密集していて陽が射しにくいためか少し暗く翳っている。ここは、彼が言っていた裏路地だろうか?元来た道を戻ろうにもそんなもの憶えていなかったし憶えていたとしても戻ることなどできないだろう。大通りにいたときから10分もしないうちにもう自分がどこにいるのかわからなかった。
いや、そもそも来た道を見てすらいない。ロランは、ここで慌てても何もいいことは無い。できるだけ冷静になろうとしてリンメルの言葉を思い出す。確か裏路地とは迷路のようになっているのではなかったか。周りは似たような壁が続いていて分かれ道がそこかしこにある。なるほどこれではすぐに迷ってしまうだろう。複雑な作りの路地に思わず感心してしまったが今やるべき事はもっと違うことだ。何とかして大通りに出ないと…
とりあえず後ろに進めば間違いないだろうと踵を返したとき、背後から声がかかった。
「あなた、ここで何やってるの?」
びっくりして思いっきり肩がはねた。猫が驚いた時によく飛び跳ねるがあれぐらい大袈裟なほどの反応に背後の声が笑う。
「ふふっ、そんなに驚かなくてもいいじゃない。もしかして迷子かしら?ここじゃ見ない顔だし外から来たんでしょ。で、ここまで迷い込んだ」
恥ずかしながら言っていることはあっていたので赤面しながらしぶしぶ頷く。
まだ笑っている少女に渋顔をつくるとごめんごめんと軽く謝られた。
「この路地はね、地元の人でもたまに迷っちゃうくらい複雑だから、きみみたいなのはよくいるの。だから恥ずかしくないわ」
改めて声に出されるとさらに恥ずかしい。ロランはもうこれ以上ないほど真っ赤になってしまった。
「どうしたの?わたしなにかしちゃった?怒ってる?」
ロランの様子に慌ててわたわたしながら早口でまくし立てる。
「道案内してあげるから機嫌を直して、ね?」
その言葉にロランもなかなかに現金なもので聞いた途端目を光らせる。
「あっ!機嫌直してくれた?」
ホッとしている少女はニコニコしながら顔を覗き込んでくるとそのまま自然な流れで手を繋いでくる。
「じゃあ、行こっか」