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出会い

目の前に見えるのは赤レンガの家。隣は白い大理石の家。石畳の大通りには馬以外の何かが引いている馬車が駆けていく。一見中世のヨーロッパかと思えば道行くもの達は古代ギリシャのような格好だったり中華風だったりと混沌としている。
いきなり目に飛び込んできた情報量の多さにロランは目を白黒させる。
「久しぶりに来たけど、ここはまったく変わってないようだね」
この場所がごく当たり前のようにリンメルは言うがこんな所は元いた世界ではありえない光景だ。その発言だけでも彼がどれほど自分との認識がズレているかがわかってしまう。そして彼がどれほど遠いものなのかも。
今歩いているのは大きな一本道なのだが先程から彼がいることに気づいた者達がいっせいに声をかけてきていた。そのすべてに笑顔で答え、短くも返事をしている。
「皆気のいい奴らだから君のことも気に入ってくれると思うよ。少しばかり遅くなってしまったから後になるが、この街を案内しよう」
楽しみにしておくといいと、そう語る彼の顔は嬉しそうで楽しそうで本当にこの街が好きなのだと気がついた。
「この街は真っ直ぐな大通りが1本とその脇を通る馬道、裏路地からなっていてね。大通りまでは簡単だがとくに裏路地は迷路のようになってるからはぐれないようにね。慣れないと必ず迷子になってしまうんだ」
「…はい」
少しためらってからリンメルの袖を少しばかり握るロランのおずおずとしたその仕草は小動物を思わせ、リンメルの表情がついつい緩んでしまう。リンメルはロランの袖を握っている手の上に自らの手を重ね握り返す。
「さて、この大通りをまっ直ぐ行くと私たちの目的地精命樹の城だ。あの大きい木のことさ」
視線をリンメルから前にやり真っ直ぐ見つめた先にあるのは石と木が複雑に絡み合った奇妙な城と呼べるかもしれない建物だ。
その建物は大樹に沿うようにして溶け合うかのように建てられており、壁には樹が根を張り巡らせそれと同調する装飾で飾られた見事なものだった。正しく城と言えるだろう。門のところには門番と思わしきものがいるがリンクスはお構いなしに入っていってしまう。顔パスが許されるなぞどのぐらいの権力者と知り合いなのか。これから会うものに想像を巡らせ戦々恐々としてしまうロラン。彼の顔が僅かに青ざめたことに気づいたのかリンメルがその歩みを止めて身を屈め顔を覗き込んでくる。
「大丈夫かい?顔色が優れないようだけれど…」
心からの心配そうな表情に胸が痛む。この人はなぜこんなにも優しいのだろうか。
「だ、大丈夫です。あの、僕たちが今から会うのってどんな…」
方なんですか、と最後まで言い切る前にその声は響いた。
「やあ!チェインじゃないか!久し振りだね何百年ぶりかな?」
ビクリと肩が跳ね、突然降ってきた男を呆然と見上げる。何を言ってるか自分でもわからないが降ってきた、そう表現するしかない。まさしくこの男は降ってきた。ここは廊下の真ん中で隠れられるような場所などないのに。
(いったいどこから…これも魔法なのだろうか…?)
「相変わらず元気にしていたようだね、ホルティス。」
リンメルもリンメルで普通に挨拶をしているしこれがここでの常識なのか、なんて一瞬でも疑ってしまうロランだったが眼の前の人物には分からないようにそっと吐かれた溜息にこのホルティスという人はこの世界でもおかしい人として分類されることを悟った。
「……ロラン、彼が私達が会おうとしていたものだよ」
感情が込められていない抑揚のない声で仕方なさそうに紹介されたものは何が面白いのかこちらを見てニコニコとしている。そこにいたのはまさしく妖精王にふさわしい、けれども残念な美形だった。
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