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目覚め

チュンチュン…チュチュン……

その日は、ロランがあの檻から助け出された日から数日がたった頃のこと。外から小鳥の鳴き声がする。太陽はすっかり昇り朝日が暖かく寝顔を照らしている。光に反応し半場まで意識が覚醒してくると、近くに知らない気配を感じロランは急いで目を開く。と、同時にまた目を固く閉じ毛布を頭からかぶってしまう。今見たものが信じられない。心の中は恐怖でいっぱいだった。今まで近づいてきたのは怖いものばかりだったから近づくものには無意識に固まってしまうのだが、しかし、はたと気がつく。そうだ、自分はもうあの怖いものしかない場所にはいない。リンメルがロランを連れ出してくれたのだから…
毛布の端を少しだけめくりそっとうかがい見たものは、長い長い髪が寝癖からか複雑に絡み合いこんがらかってある種の毛玉生物とかしているリンメルらしき物体だった。何ともおかしなものだったが怖くはなかった。ホッ、と息を吐き一安心すると今度は毛の塊とかしているリンクスに興味が湧く。ここ2、3日はこの家での生活になれるのに必死でリンメルの髪を気にする余裕などなかった。朝になると起こしに来たくれていたのだから毎日あの姿は見ていたはずなのにそれでもどうしてああなってしまったのか。長い髪だ。見ただけで膝裏ほどの長さがありふわふわと、それでいて芯がある綺麗な髪だ。それをどんな寝方をしたらあのように複雑怪奇な絡まり方をするのか皆目検討がつかない。ロランが無駄なことに頭を悩ませリビングに向かっていたその時、リンメルの方はというとまるでいつも通りですというように紅茶を飲んでいる。実際日常なのだろう。
「お、はようございます」
とりあえず朝の挨拶はきちんとする。根はいい子のロランなのだ。リンメルもロランの方を振り向き挨拶を返す。
「ああ、おはよう。朝食は出来てるのですきに食べなさい」
「あ、ありがとうございます」
………何もない。大人しく朝食を食べ始めても終わってもあの髪について何らリアクションがない。どころか食器を片付けるため少し目を離した隙に昨日と同じ髪型になっていた。どんな手を使ったのか。こんなくだらないもので彼が人とは大きくかけ離れている事実を突きつけられるとは思いもいていなかった。無心に手を動かしそろそろ食器を洗うのも終わる頃リンメルが唐突にいった。
「それが終わったら着替えを用意したから着るように。外に出るよ」
それは突然の申し出だったがロランからしたら願ってもないことだった。実は外がどうなっているのか、この前見た花畑はなんなのか気になっていた。その時、無断で外に出ることも、外に出る許可をとるために話しかける度胸も、ロランにはなかった。急いで洗い物を終わらせると部屋に戻りいつの間にか用意されていた着慣れない服に四苦八苦しながらなんとか見れるようにはし、また居間に舞い戻る。この時慌てていたからか若干髪が乱れているのはご愛嬌というものだろう。ちなみにこの時リンメルはリビングから1度も出ていない。いったいどうやって服を用意したというのか?
「おや、もう戻ってきたのかい?よほど楽しみなんだね」
クスクスと笑いながらリンメルが歩み寄る。先程までゆったりとした服装をしていたはずなのにまたもや自分の服より複雑な服を着てなお自分より早く来ているリンメルに疑問の眼差しを向ける。よほどじっと見つめていたからかリンクスに笑われてしまった。
「この服をどうやって着たのかということかい?」
コクコクと一生懸命首を降るロランの姿にまたもやクスリと笑いがもれる。クスクスと笑いながらゆっくりとした動作で手を上げるとロランの頭を撫でる。頭を撫でられた事にびっくりして固まるロランを優しく見つめながらリンメルは言う。
「私は魔法が使えるんだよ」
「魔法ですか?」
やや納得が言っていない様子のロランを見ながらリンメルはニコニコと微笑む。有無を言わせない微笑みだった。
「今日は行かなければならないところがあってね。これから森の奥に行くよ」
そう言ってリンメルは一本道を進んでいく。最初は物珍しさからキョロキョロと辺りを見渡していたロランだが周りには同じような木ばかりで少し飽きてきて、今度はリンメルをじっと観察し始めた。その視線に気づいたのかリンメルはこれから行くという場所の話をし始める。
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