オカンとストーカー王子
ドアの向こうには早朝にも関わらず、シワひとつないスーツをビシッと着た青年が立っていた。
もちろん寝癖もない。
「いづくんうるさい……」
いづくんこと丘野 偉月。
夢音の幼なじみにして同僚。高校時代のあだ名はオカン……
もちろん本人は呼ばれる事を嫌がっていた。
「……うるさい、じゃない!!
お前が早く家出なきゃいけないから起こしに来いって昨日言ったんだろうが!
そして、確認もせずにドア開けるなって何回も言ってるだろ!!」
そう、夢音を叱りつけるとずかずかと家に上がり込み冷蔵庫を開ける。
「また何にも入ってねーじゃん。
お、ウインナーと卵はあるな…」
ゴソゴソとひとしきり冷蔵庫を漁って、ウインナーと卵を取り出すと勝手知ったる風にキッチンでフライパンやらなんやらを出し始めた。
「朝メシ作ってやるからその間に着替えて準備して来い。」
あと洗濯機も回せよと言って夢音の頭をワシワシと乱暴に撫でる。
「うるせーオカン」
ボソッと呟くと偉月が「あ"っ?」っと怖い顔をしたのでそそくさとその場を退散した。
寝室に戻り、クローゼットから仕事に来ていく服を取り出し洗面所に向かう。
途中、キッチンを通るとウインナーの焼けるいい匂いがした。
洗面所に着くと言われた通りに洗濯物を洗濯機に詰め込みスイッチを入れる。
そして洗顔を済ませ、服を着替えると化粧をしてヘアセットもバッチリ決めた。
この姿だけ見ると仕事の出来そうなキャリアウーマンだなぁ…と夢音は自分で思った。