長編夢小説
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「た・し・か・に、君が気になるであろうあの子たちの今を、僕が君に教えるというのは筋が通ってる。くしくも僕らふたり、同時に日本に降り立ったならなおさらだ」
ココはそういうところ気がまわってさすがだよね、とキャスパーは自らの妹を褒めたが、連れからの返事はなく車内は再び沈黙に包まれた。
車を運転しながら、バックミラー越しに後部座席をチラリと見る。
浅黒い肌に銀色の短髪がよく映える赤い瞳の少年は、頬杖をつきぼんやりと車窓を眺めたまま微動だにしない。
そのあまりにつれない態度にキャスパーは思わず苦笑いした。
「なあ、何か喋らないか? ヨナ、君が僕を嫌いなのはよーくわかってる。でもさ、眠くなっちゃうんだよ。音楽でもかけるかい?」
「…………話すことが思いつかないだけだ」
ヨナはしぶしぶといった風に口を開き運転席に視線をやると、それに、と続けた。
「僕はお前を信用したわけじゃない」
キャスパーはそっとため息をつく。
自分が彼にしたことを考えたら当然の反応だった。
キャスパーは武器商人で、紛争時、ヨナの村を狙う敵に最新の武器を流した。間接的ではあるが彼の両親の仇である。
孤児となったヨナがその後山岳少年兵となったことにより、西アジアの某国軍基地でふたりは出会った。数ヶ月前の話だ。
怒涛のように石油と軍人と武器が流れるようになる軍用道路を建設するにあたり、その基地は障害のひとつだった。キャスパーは部下を使って基地を籠絡しようとしていた。
ところが、その部下が地雷を処理するためとある孤児を利用し殺したことをきっかけに、基地は思わぬ形で消滅した。
孤児はヨナが実の家族のように大切にしていた子供達の一人で、激昂したヨナが基地中の大人を一人残らず殺したのだ。
罪のない子供が無惨に殺され、外道とも言える大人が生きていることが許せなかったという。
強く優しい少年兵を、キャスパーは私兵を使って制圧し、数日間コンテナに閉じ込めた。
その話を同じく武器商人である妹にしたところ、自分を護衛する私兵の一人としてヨナを雇いたいと申し出たのだった。
キャスパーはヨナと交渉するにあたり、残りの孤児達が安全な生活を送れるよう工面することを約束した。
その孤児達が現在どのような生活を送っているのか確認するため、ふたりは今学校及び宿舎へ向かっているのである。
このために日本を訪れた訳ではなかったが、時間には余裕があったので問題ない。
キャスパーは「こらこら、年上にお前なんて言わない」とヨナをたしなめながら標識を確認した。目的地までまだ少しあった。
フフーフ、と兄妹共通の口癖とも言える笑みが溢れる。
「君もこの国で暮らしたかったかい?」
「……別に」
バックミラーで盗み見ると、ヨナの視線は車窓へと戻っていた。代わり映えしない景色が続いていることもあり、その顔はつまらなさそうである。
「僕は興味があるよ」
恋人が日本で育ったんだ、とキャスパーは告げた。
「えっ」
ヨナの声が車内に響いた。
見ると真っ赤な瞳を溢れんばかりに見開き、口を半開きにしたまま固まっている。
いつもは表情に乏しいヨナが見せた意外な反応に、キャスパーはフフーフ、ともう一度笑った。
「僕に恋人がいるのは意外かい?」
ニヤニヤしながら聞くと、「ああ」とヨナは迷わず肯定した。
「驚きだ……」
こんな奴を選ぶ人がいるなんて、とブツブツ言うのが聞こえキャスパーは大笑いした。
「チェキータ、はレームの奥さん……いや、でも今は結婚してないから……」
チェキータはキャスパーお抱えの私兵で唯一の女性で、レームは妹の私兵の一人、つまりはヨナの上司である。
ふたりは結婚と離婚を繰り返しており、ヨナの言う通り現在は離別した状態だが、それはキャスパーと結ばれたからではない。
「相手はうちの子会社で働いてる女性だよ。航空エンジニアなんだ。今うちで沢山ロケットを打ち上げてるだろ? あれを作ってる」
「ふうん」
ヨナが恋愛の話に食いついたのは意外だったが、なんであれ話してくれる気になったのは素直に嬉しい。キャスパーは上機嫌で自分の恋人について語り始めた。
「名前はゆり子って言うんだ。出会ったのは僕がまだ独り立ちする前でーー」
つづく
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