隴を得て蜀を望む
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「真那お姉ちゃんっ!!早く早く」
「ちょっと待ってよ。タケル」
繋いだ小さな手が信じられない程の力で私の身体を引く。
空には澄み渡る青が広がり、すれ違う人達の装いも随分と薄くなった。
春めいた陽気に釣られたかの様に、私達の足取りは軽い。
それというのも、今日は待ちに待ったタケルとのお出かけの日だったから。
出所は勿論、先日の任務で五条さんに貰ったお小遣いだ。
後味の悪い任務ではあったものの、五条さんは約束を反故にする事はなく、私の今の懐事情はタケルの欲しがるものを全て買ってあげても余裕がある。
それは到底、子供に与えて良いと思える金額ではないのだけれど、五条さんに関してはその辺りな常識が常軌を逸して居る事は既に周知の事実。
初めこそ任務の凄惨さに気落ちもしたし、五条さんの金銭感覚に度肝を抜かれたりもしたけれど、此処に来てからというもの、私もある程度の割り切りは出来る様になったのだろう。
「タケル。そんなに急いだら真那ちゃんまで一緒に転んじゃうわよ。お店は逃げないから、ゆっくり歩いていきましょう」
「そうだよ。タケル。人がたくさん居るから、ぶつかったら大変。私もタケルが怪我したら悲しくなっちゃうから、ね?」
私とお姉ちゃんが顔を見合わせると、嗜められた事にタケルが肩を落とす。
しかし、その表情は決して怒って居る訳では無いのだと頭を一度撫でてやるとあっという間に元に戻り、私達は互いに肩を竦めた。
目的のお店までは目前。
先に別件の用事を済ませたいからと私の我儘を優先させた事で、幼い心は待ち遠しい気持ちを持て余し、今にも暴発寸前と言っても良い。
その間、大人しく待ってくれて居た事にも感謝しかなかった。
買った荷物は、今はお姉ちゃんが大事に抱えてくれており、これは日頃の感謝の気持ちを込めて選んだ篤也さんへの贈り物だった。
篤也さんの好みを誰よりも理解して居るであろうお姉ちゃんと共に選んだネクタイ。
そして、お姉ちゃんには内緒で篤也さんに相談しながら彼女にも私はこっそりと贈り物を準備して居る。
お姉ちゃんにも、タケルにも呪術師としての才能は無い。
しかし、呪術界の事情には明るく無いとは言え、私と篤也さんが特殊な仕事をして居る事には理解を示してくれて居るし、それによって報酬が与えられる事も知って居る。
この事を伝えた当初は、勿論私の事を憂い、心配してくれた。
今回に関しては私の申し出に気を使わせてしまって居るのではないかと眉尻を下げたお姉ちゃんも、はにかみながら喜んでもらえる事がしたいと告げた好意を受け取ってくれた。
今は置いていかれない様に、しかし私達と少し距離を置きながら様子を見守ってくれて。
その表情も明るく、側から見れば私達は仲睦まじい家族に見えてもおかしくはないだろう。
欲しがるものを買い与え、甘やかすことばかりがタケルの為になるのかと問われたら回答には悩むものの、喜んでもらえるのならばそれに越した事はない。
何より、このタケルの満面の笑みに変えられるものなど有りはしない。
「ほら、タケル。お店、着いたよ」
「やったぁ!!ねぇ、お母さん。見て来ても良い?」
「良いわよ。でも、一つだけお約束。お店の中は?」
「走らないっ!!行って来ます!!」
「あっ!こら。タケル」
弾む気持ちの前では、普段ならばちゃんと守ってくれる約束も右から左。
一層力強く引かれた手に、私達は店内へと吸い込まれ、タケルは目的地に向けて一目散に進んで行く。
最近お気に入りのキャラクターに目を輝かせ、好きなものを選んで良いと告げるとその瞳には熱が籠り、熱心に陳列棚に注がれる。
その様を可愛らしいと思うのはタケルが弟の様な存在だからか。
はたまた、私自身にこう言った経験がないからなのか。
小学校に通う様になり、集団の中に身を置くようになった。
少なからず友達と呼べる子も出来たというのに、私はこう言った流行物には心を惹かれる事がなく、元より物欲そのものが余りない。
思い返してみても、これまで欲しいと渇望したものは誰もが当たり前に手にして居るものばかりだ。
時折耳にする両親に向けた不満ですら、私にとっては贅沢しか思えなくて。
そんな会話がなされる教室で、幾度取り繕った笑みを浮かべたかは数える方が難しい。
好きものを選んで良い。
私自身、今日はタケルになんでも買ってあげるつもりで居たし、お姉ちゃんにもその許可は得て居た。
しかし、同じと思われる品物の一つ一つを吟味し、自身が一番気に入った物を選び抜こうとするタケルは普段からお姉ちゃんにしっかりと教育をされて居るのだろう。
「決まった?」
「うん!これにする。……あとね、これもダメ?」
その背中を見守って居ると、やっと選び抜いた品物を抱えたタケルが満面の笑みで戻って来る。
しかし、その手にはタケルの欲しがって居たものとは別に小さなキーホルダーが握りしめられて居た。
何処にでもあるような動物をモチーフとした手のひらサイズのそれは、普段ならばタケルが選ぶものとは程遠く、自身も一つだけと決めて居たのか。
言葉も尻すぼみなものへと変わって行く。
「これが欲しいの?二つも?」
「うんっ!!一個は真那お姉ちゃんので、一個は僕の。こういうの、お揃いっていうんだろ?」
「よく知ってるね」
「へへへ。天才だろ?」
胸を張り、得意気に親指を自身に向けたタケルが満面の笑みで口癖を紡ぐ。
これから使う事になるランドセルに共に付けたいのだと告げられ、何か与えてもらう喜びを私と共有したいと言う幼心に私は思わず目を剥いた。
それは、私の献身とは少し違う。
私には思いつく事すら無かった発想と言っても過言ではなくて、屈んだ視界の中でタケルの目が輝いて見える。
改めて陳列棚を眺めると、そのラインナップは実に豊富だった。
その中から揃いにしたいと選んだものは、きっとタケル自身が好きな動物だったに違いなくて。
私もまた、引き寄せられる様に商品に手を伸ばした。
「じゃあ、もう二つ買おっか」
「なんで?」
「これはね。お姉ちゃんと篤也さんの分。そうしたら、みんなでお揃いになれるよ」
「真那お姉ちゃんすげぇ!!天才だ」
「お家に帰るまで、内緒ね?」
「うんっ!!」
店内で私達の買い物を待つお姉ちゃんの目を掻い潜りながら私達はレジへと向かった。
わざとタケルにお金を渡し、買い物と言うものを体験させ、商品を受け取る頃にはその顔はいっそう輝きに満ちて行く。
忖度など知りもしない純粋な感謝の言葉は聞いているだけでも心地いい。
そして私自身もまた、思いもよらない贈り物を貰うことになり、手を繋いで店員さんに手を振る姿を遠目にお姉ちゃんが微笑ましく眺めて居た。
「お母さんっ!僕、買い物出来たよ」
「凄いわね。ちゃんと真那ちゃんにお礼は言った?」
「うん!お店の人にもバイバイってしたんだぜ。それでね、僕たちねっ」
「あっ!タケル。それはまだ内緒だよ」
勢い余って自宅に着いてからの楽しみまで口走りそうになるタケルに、私は人差し指を口元に押し当て制止する。
慌てた様子で自身の口を押さえたタケルはお姉ちゃんの様子を伺う。
知らぬ存ぜぬを貫いてくれたものの、私達が何かしら企んでいる事はバレてしまった。
そうは言っても、子供の浅知恵に付き合ってくれるお姉ちゃんは、それ以上言及する事もなく。
私達は横並びとなって店を後にした。
「ちょっと待ってよ。タケル」
繋いだ小さな手が信じられない程の力で私の身体を引く。
空には澄み渡る青が広がり、すれ違う人達の装いも随分と薄くなった。
春めいた陽気に釣られたかの様に、私達の足取りは軽い。
それというのも、今日は待ちに待ったタケルとのお出かけの日だったから。
出所は勿論、先日の任務で五条さんに貰ったお小遣いだ。
後味の悪い任務ではあったものの、五条さんは約束を反故にする事はなく、私の今の懐事情はタケルの欲しがるものを全て買ってあげても余裕がある。
それは到底、子供に与えて良いと思える金額ではないのだけれど、五条さんに関してはその辺りな常識が常軌を逸して居る事は既に周知の事実。
初めこそ任務の凄惨さに気落ちもしたし、五条さんの金銭感覚に度肝を抜かれたりもしたけれど、此処に来てからというもの、私もある程度の割り切りは出来る様になったのだろう。
「タケル。そんなに急いだら真那ちゃんまで一緒に転んじゃうわよ。お店は逃げないから、ゆっくり歩いていきましょう」
「そうだよ。タケル。人がたくさん居るから、ぶつかったら大変。私もタケルが怪我したら悲しくなっちゃうから、ね?」
私とお姉ちゃんが顔を見合わせると、嗜められた事にタケルが肩を落とす。
しかし、その表情は決して怒って居る訳では無いのだと頭を一度撫でてやるとあっという間に元に戻り、私達は互いに肩を竦めた。
目的のお店までは目前。
先に別件の用事を済ませたいからと私の我儘を優先させた事で、幼い心は待ち遠しい気持ちを持て余し、今にも暴発寸前と言っても良い。
その間、大人しく待ってくれて居た事にも感謝しかなかった。
買った荷物は、今はお姉ちゃんが大事に抱えてくれており、これは日頃の感謝の気持ちを込めて選んだ篤也さんへの贈り物だった。
篤也さんの好みを誰よりも理解して居るであろうお姉ちゃんと共に選んだネクタイ。
そして、お姉ちゃんには内緒で篤也さんに相談しながら彼女にも私はこっそりと贈り物を準備して居る。
お姉ちゃんにも、タケルにも呪術師としての才能は無い。
しかし、呪術界の事情には明るく無いとは言え、私と篤也さんが特殊な仕事をして居る事には理解を示してくれて居るし、それによって報酬が与えられる事も知って居る。
この事を伝えた当初は、勿論私の事を憂い、心配してくれた。
今回に関しては私の申し出に気を使わせてしまって居るのではないかと眉尻を下げたお姉ちゃんも、はにかみながら喜んでもらえる事がしたいと告げた好意を受け取ってくれた。
今は置いていかれない様に、しかし私達と少し距離を置きながら様子を見守ってくれて。
その表情も明るく、側から見れば私達は仲睦まじい家族に見えてもおかしくはないだろう。
欲しがるものを買い与え、甘やかすことばかりがタケルの為になるのかと問われたら回答には悩むものの、喜んでもらえるのならばそれに越した事はない。
何より、このタケルの満面の笑みに変えられるものなど有りはしない。
「ほら、タケル。お店、着いたよ」
「やったぁ!!ねぇ、お母さん。見て来ても良い?」
「良いわよ。でも、一つだけお約束。お店の中は?」
「走らないっ!!行って来ます!!」
「あっ!こら。タケル」
弾む気持ちの前では、普段ならばちゃんと守ってくれる約束も右から左。
一層力強く引かれた手に、私達は店内へと吸い込まれ、タケルは目的地に向けて一目散に進んで行く。
最近お気に入りのキャラクターに目を輝かせ、好きなものを選んで良いと告げるとその瞳には熱が籠り、熱心に陳列棚に注がれる。
その様を可愛らしいと思うのはタケルが弟の様な存在だからか。
はたまた、私自身にこう言った経験がないからなのか。
小学校に通う様になり、集団の中に身を置くようになった。
少なからず友達と呼べる子も出来たというのに、私はこう言った流行物には心を惹かれる事がなく、元より物欲そのものが余りない。
思い返してみても、これまで欲しいと渇望したものは誰もが当たり前に手にして居るものばかりだ。
時折耳にする両親に向けた不満ですら、私にとっては贅沢しか思えなくて。
そんな会話がなされる教室で、幾度取り繕った笑みを浮かべたかは数える方が難しい。
好きものを選んで良い。
私自身、今日はタケルになんでも買ってあげるつもりで居たし、お姉ちゃんにもその許可は得て居た。
しかし、同じと思われる品物の一つ一つを吟味し、自身が一番気に入った物を選び抜こうとするタケルは普段からお姉ちゃんにしっかりと教育をされて居るのだろう。
「決まった?」
「うん!これにする。……あとね、これもダメ?」
その背中を見守って居ると、やっと選び抜いた品物を抱えたタケルが満面の笑みで戻って来る。
しかし、その手にはタケルの欲しがって居たものとは別に小さなキーホルダーが握りしめられて居た。
何処にでもあるような動物をモチーフとした手のひらサイズのそれは、普段ならばタケルが選ぶものとは程遠く、自身も一つだけと決めて居たのか。
言葉も尻すぼみなものへと変わって行く。
「これが欲しいの?二つも?」
「うんっ!!一個は真那お姉ちゃんので、一個は僕の。こういうの、お揃いっていうんだろ?」
「よく知ってるね」
「へへへ。天才だろ?」
胸を張り、得意気に親指を自身に向けたタケルが満面の笑みで口癖を紡ぐ。
これから使う事になるランドセルに共に付けたいのだと告げられ、何か与えてもらう喜びを私と共有したいと言う幼心に私は思わず目を剥いた。
それは、私の献身とは少し違う。
私には思いつく事すら無かった発想と言っても過言ではなくて、屈んだ視界の中でタケルの目が輝いて見える。
改めて陳列棚を眺めると、そのラインナップは実に豊富だった。
その中から揃いにしたいと選んだものは、きっとタケル自身が好きな動物だったに違いなくて。
私もまた、引き寄せられる様に商品に手を伸ばした。
「じゃあ、もう二つ買おっか」
「なんで?」
「これはね。お姉ちゃんと篤也さんの分。そうしたら、みんなでお揃いになれるよ」
「真那お姉ちゃんすげぇ!!天才だ」
「お家に帰るまで、内緒ね?」
「うんっ!!」
店内で私達の買い物を待つお姉ちゃんの目を掻い潜りながら私達はレジへと向かった。
わざとタケルにお金を渡し、買い物と言うものを体験させ、商品を受け取る頃にはその顔はいっそう輝きに満ちて行く。
忖度など知りもしない純粋な感謝の言葉は聞いているだけでも心地いい。
そして私自身もまた、思いもよらない贈り物を貰うことになり、手を繋いで店員さんに手を振る姿を遠目にお姉ちゃんが微笑ましく眺めて居た。
「お母さんっ!僕、買い物出来たよ」
「凄いわね。ちゃんと真那ちゃんにお礼は言った?」
「うん!お店の人にもバイバイってしたんだぜ。それでね、僕たちねっ」
「あっ!タケル。それはまだ内緒だよ」
勢い余って自宅に着いてからの楽しみまで口走りそうになるタケルに、私は人差し指を口元に押し当て制止する。
慌てた様子で自身の口を押さえたタケルはお姉ちゃんの様子を伺う。
知らぬ存ぜぬを貫いてくれたものの、私達が何かしら企んでいる事はバレてしまった。
そうは言っても、子供の浅知恵に付き合ってくれるお姉ちゃんは、それ以上言及する事もなく。
私達は横並びとなって店を後にした。
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