花簪―HANAKANZASHI―
「よっ……と」
少し重いボストンバッグを持って、絢藤 えりなは14年間過ごした家を出る。
最低限必要な荷物は既に送っているから、このボストンバッグだけで十分だ。
さようなら。ママ。
目を閉じて黙祷を捧げると、振り返って歩き出す。
今度過ごす「家」はえりなの住むS市では都市部から離れた良く言えば周囲が自然いっぱいの、悪く言えば交通アクセスが非常に不便な場所だった。
今はお昼を過ぎたところだが、地下鉄を乗り継ぎバスを乗り継ぎ、着くのは夕方――下手をしたら夜になってしまうかもしれない。
「さぁ、急がなきゃ」
まずは最寄り駅まで歩かなきゃ行けない。
といっても10分もあれば着く。
地下鉄も乗り換えはあるが5、6分に1本は出ている。
問題はその先だ。
学校の最寄り駅から出るバスは2時間に1本。
しかも学校前のバス停までは1時間掛かる。
これは逃したくない。
そう思いボストンバッグを持ち直し、少し早足で歩き始める。
しかし、こういう時に限って、予想外のことが起きるものだ。
地下鉄は順調。
予定のバスにも乗れた。
しかしバス通りで交通事故が起き、大渋滞が発生してしまったのだ。
おかげで学校前に着いたのが17時を超えてしまった。
「はぁ……」
溜め息をつきながら寮の方角へ向かう。
案内の看板によれば、寮は校舎の先らしい。
「もー、この上まだ歩かなきゃいけないのかぁ」
長時間バスに座っていたせいでお尻が痛い。
それでも何とか気を取り直してまだ少し雪の残る桜並木へと足を踏み入れた瞬間 だった。
少し重いボストンバッグを持って、
最低限必要な荷物は既に送っているから、このボストンバッグだけで十分だ。
さようなら。ママ。
目を閉じて黙祷を捧げると、振り返って歩き出す。
今度過ごす「家」はえりなの住むS市では都市部から離れた良く言えば周囲が自然いっぱいの、悪く言えば交通アクセスが非常に不便な場所だった。
今はお昼を過ぎたところだが、地下鉄を乗り継ぎバスを乗り継ぎ、着くのは夕方――下手をしたら夜になってしまうかもしれない。
「さぁ、急がなきゃ」
まずは最寄り駅まで歩かなきゃ行けない。
といっても10分もあれば着く。
地下鉄も乗り換えはあるが5、6分に1本は出ている。
問題はその先だ。
学校の最寄り駅から出るバスは2時間に1本。
しかも学校前のバス停までは1時間掛かる。
これは逃したくない。
そう思いボストンバッグを持ち直し、少し早足で歩き始める。
しかし、こういう時に限って、予想外のことが起きるものだ。
地下鉄は順調。
予定のバスにも乗れた。
しかしバス通りで交通事故が起き、大渋滞が発生してしまったのだ。
おかげで学校前に着いたのが17時を超えてしまった。
「はぁ……」
溜め息をつきながら寮の方角へ向かう。
案内の看板によれば、寮は校舎の先らしい。
「もー、この上まだ歩かなきゃいけないのかぁ」
長時間バスに座っていたせいでお尻が痛い。
それでも何とか気を取り直してまだ少し雪の残る桜並木へと足を踏み入れた