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1.緋き桜の咲く頃に

とある屋敷のロビーにて。
「お姉様、本当にここを出て行くの?」
「ああ、決めた。もうお母様との契約も解いた。すまないね」
そう言って緋い少女人形は背を向ける。
「じゃあ……次会ったら、敵……」
「姉さんになんて適うわけないよ」
「そうですぅ」
妹達が口々に不安を洩らすのを聞くと胸がきゅっと痛んだ気がした。
でももうそれは仕方がないことで、決定事項だった。
妹達には申し訳なかったが、自分には母の言いつけなどとてもじゃないが守れそうにない。
「姉ちゃんがそこまで気にかけるなんて、妹からしたら嫉妬っすよ」
「そうですわん。あたくし達より大切なんですのん?」
その問いに少しだけ迷った後、背を向けたままきっぱりと答えた。
「ああ。少なくとも今のキミ達より、ね。キミ達も、彼女達と接していればわかるはずだ。お母様の間違いに」
「わかりたくなんかないわ、お姉様。だってお姉様を私達から奪うのよ」
「それにお母様の命は絶対ですぅ。何の為にこんな力を貰って生まれたと言うですか」
「そう言うと思ったよ。だからボクは今日、出て行くんだ」
「行かないでよ、姉さん。貴女がいないと私達はバランスが取れない」
「キミ達を置いて行くボクをまだ姉と呼んでくれるのかい。ありがとう」
礼を言って少しだけ寂しそうに微笑んで振り返る。
そこに見えたのは妹達の不安そうな顔だった。
「そんな顔をしないでよ、ボクの可愛い妹達。いつかまた、一緒に……」
「もうっ、知りませんわん!あなたなんて、あなたなんて……」
姉なんかじゃありませんわん、とそう泣き叫んで末っ子は奥に引っ込んでしまった。
それを見送って、改めて妹達に向き合って言う。
「さよなら、みんな。次に会えるのがいつかわからないけれど、元気で」
そう言うと、再び背を向けてドアを開ける。
ポーチを抜けて階段を降りていく姿にすがりつきたかったが、それは出来ない。
彼女達は先程、決別したのだから。
扉が閉まる。
それをきっかけに玄関にいた少女人形達はそれぞれ自室に戻っていった。

外の庭園では百合の花が咲き誇っていた。
その香りを深く吸い込むようにしながら、緋い少女人形はnのフィールドに旅立っていった。
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