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第4話

ギルガメッシュは木と木の間にロープを張っていた。
ロープの持ち主はファリス。
海水で濡れた服を乾かすのに、丁度いい物が無いか探していた所、「ロープならある」と、手渡されたのだ。

「よし、これでいいだろ」

ロープの張りを確認し、満足したギルガメッシュは自分の服を脱ぎ衣服を絞ると、ジャバジャバと音を立てて海水が絞り出された。それが出なくなるまで絞りきると、ロープに干しシワ伸ばしをする。
それを繰り返し、全ての衣類を干し終え、褌姿になった時

「おーい、良い物見つけたぜ!!」

と、周囲を散策していたファリスが戻ってきた。

「何を見つけたんだ??」
「テントだ。流れ着いた木箱の中に入ってた。それも、寝袋付き」
「それは良いな!!これでファリスも服を乾かせるな!!」

その言葉に、ファリスは首を傾げた。

「なんでテントがあると俺の服が乾かせるんだ??」
「おいおい、乾かすのに服を脱がないとなんねぇだろ??お前さん、男の前で下着姿のまま彷徨くつもりか??」

その言葉に、ファリスはハッとした表情をした。

「テント張って、中で脱いだら服だけ外に出しとけば干しといてやる。服が乾くまでの間は寝袋に入って体温温存しとけ」
「……わかった」

言って、ファリスは手際よくテントを張り始めた。
ギルガメッシュもそれを手伝う。
テントが出来上がると、ファリスはそそくさと中に入り、脱いだ服を外に投げていった。

「服が乾くまで、俺行動出来ねぇじゃん」

彼女の服を回収していたギルガメッシュは、テントの中から聞こえた言葉に思わず笑った。

「はははっ!!それは仕方ないだろ。確かに分担して何かをやった方が効率はいいが、さすがに下着姿のままの女にそれはさせられねぇよ」
「…………」
「こういう時ぐらいはな、男に甘えておけよ。女に頼られる為に男は居るんだからよ!!」
「…そういう…モンなのか……」

考え込んでいるような彼女の声に、ギルガメッシュは答えた。

「とくに、惚れた女には頼られたいもんだぜ??男ってのはよ」
「…まだ惚れたとか言ってんのかよ、お前…」
「はぁ…、まぁ~だ信じてねぇのか、俺がお前さんに惚れてること…」

ファリスの呆れた声に、同じように呆れた声で返すギルガメッシュ。
それが何だかおかしくて、2人して笑い出した。
一頻り笑った後、ファリスが口を開いた。

「まぁいいや、服が乾いたら声掛けてくれよ。そしたら、俺も着替えて手伝うから」
「おう!!わかったぜ!!」

その言葉を聞いて、ファリスは大人しく寝袋に入った。
テントの外からは、海水が絞り出される音が聞こえる。
寝袋の温かさに目を閉じると、ギルガメッシュに頭を撫でられた時のことが頭に浮かんだ。

(あの時感じた安心感はなんだったんだ?)

海賊の下積み時代に頭を撫でられた事はあったが、いつもなら子供扱いされている気がして、腹を立ててその手を払っていた。
でも、今回は違った。
感傷的になっていたからだろうか??
それとも、父親の事を思い出したからだろうか??
あの大きな温かい手に、物凄くホッとして、完全に心を許していた。

(なんで………)

答えは出ぬまま、ファリスの意識は微睡んでいった。


*********


「よし、これだけ取れれば充分か」

波打ち際で、取った魚の入ったアイテム袋を持ったギルガメッシュは言った。
食料調達の為に、海に潜っていたのだ。
本来なら、漁に適した道具ではない武器を海で使う事はしないのだが、今はそんなことは言っていられなかった。
テントの近くまで歩き、解体して乾かしておいた木箱の残骸に火を起こす。
木材を削って作った串に、取ってきた魚を刺し、地面に柄の部分を刺して焼き始める。
焼ける間に干した服の様子を見に行くと、しっかりと乾いていたのでそれを取って身に着けた。
ファリスの服も乾いていたので、畳んで持っていくことにした。
テントの前に来た彼は、声をかけた。

「ファリス、服乾いたぞ。」

だが、待てど暮らせど返事がない。

「ファリスー??入るぞ??」

相手は下着姿と言えど、寝袋に入っているはずだと自分に言い聞かせ、テントの入口から顔を覗かせた。
そこにはしっかりと寝袋に入っているファリスの姿があった。
目を閉じているのを見て、一瞬眠っているのかと思ったが、様子がおかしい。
呼吸が荒く、額にうっすらと汗が滲み出ている。
中に入り、彼女の額に触ると熱を帯びていた。

「熱が出たのか!!」

慌ててテントから這い出し、ファリスの持っていた道具袋の中を漁る。
中からナイフを見つけ、迷わず自分の身につけて衣服を裂き、布切れを作った。
周辺で見つけた溜め池にそれを突っ込み、軽く絞ってテントへと戻り、彼女の額に乗せた。
心做しか少し表情が和らいだ気がし、ホッと胸をなで下ろす。
すると、ファリスの口からか細い声が漏れた。
聞き取れずに耳を口元に近づけると、「…おとうさま…」と聞き取れた。

(お父様??船から落ちる前の夢を見てるのか??)

普段の彼女の言葉遣いからは想像がつかない上品な言葉に思わず首を傾げる。
自分が彼女から聞き出したのは、父親と乗った船が嵐にあって自分が落ちて、海賊に拾われた時の話だけだ。
今後に差し支えがない情報しか話さなかった彼女。
海賊になる前の話は、何か差し支えがあるのだろうかと、思考を巡らす。
その時、ふとファリスと同じ瞳の色をしたレナの事を思い出した。
髪色はピンクと言えど、ファリスの髪に近い色であった。

(たしか、レナは別の世界のお姫さんって聞いたな)

「お父様」なんて父親を呼ぶのは貴族か王族ぐらいなものだ。
そして、戦闘の時にファリスが取っていた行動。
レナに攻撃が行きそうになると、必ず彼女を守るかのようにファリスが攻撃を受け止めていた。

「まさか……姉妹…なのか?」

そうであれば、話に合点がいった。
仲間に肉親がいる事が敵に分かれば、人質に取られる危険もある。

だが、あくまで憶測の話だ。
本人の口から聞いた訳では無い。
たとえ聞いたとしても、自分は報告するつもりもない。

そう結論を出したギルガメッシュは、ファリスの服を枕元に置き、そっとテントを後にした。


***********


ふと、ファリスは目を覚ました。
視界に入ってきたのは薄暗いテントの天井。寝袋を開けて体を起こすと、額に乗っていた布切れがボトリと落ち、頭がずんと重い感覚に襲われた。
そして、辺りを見渡すと枕元には自分の服が畳んで置いてあった。
それを見て自分が下着姿だったことを思い出すと、寒気で身体が一瞬震えた。
衣服を身に着けテントを出ると、辺りは夜の帳が降りており、テントから少し離れた所で焚き火をしているギルガメッシュを見つけた。

「悪いな。寝ちまってて…」

申し訳なさから素直にそう言うと、ギルガメッシュは笑顔で振り返り「気にすんな」と手を振った。

「お前さん、体調はどうだ??」
「少し頭が重い…」

ファリスがそう答えると、ギルガメッシュは彼女の額に手を当てた。

「熱はさっきよりは下がったみたいだな」
「熱??……あぁ、だから額に布切れが置いてあったのか…」

まだ、ぼんやりとする頭で理解すると、ギルガメッシュの隣に腰を降ろす。

「食欲はどうだ??魚焼いてあるが食えるか??」

少し心配そうな表情で聞くギルガメッシュに、彼女は「食う」と一言返すと、彼は串焼きにされた魚を差し出す。
それを受け取り、魚の腹の部分にかぶりついた。

「食欲があるなら大丈夫そうだな。ほんとなら粥とかが良いんだけどな」

と苦笑しながら言うギルガメッシュの横顔を、ジッと見つめる。
視線に気がついた彼は、照れくさそうに言った。

「そんなに見つめるな。我慢できなくなるだろ」
「我慢??なんの??」

言葉の意味が理解出来ず首を傾げると、「こう言う事だ」と一言あってからギルガメッシュの顔が近づいた。
突然のことに何が起こったか理解が出来なかったが、少しずつ冷静になってくると状況が鮮明になる。
自分の唇に柔らかい感触、目の前にある相手の顔。
顔と耳が一気に熱くなるのが分かると、咄嗟に相手の横っ面をグーで殴った。

「いってーーーーーっ!!」
「なっ!!何しやがんだテメェはっ!!」

ファリスは思わず立ち上がって怒鳴り散らした。
すると、ギルガメッシュは殴られた所を擦りながら笑い出した。

「はははっ!!それだけ元気があれば、そんなに心配はしなくて良さそうだな」
「~~~~っ!!」

尚も拳を振りあげようとする彼女に、ギルガメッシュは慌てながら言った。

「待て待てっ!!あまり暴れたら、また熱が上がるぞ!!」
「誰のせいだとっ……!!」
「悪かったって!!可愛かったから、つい、な」

ギルガメッシュの「可愛い」の言葉にイラッとしたが、熱が上がったら面倒だと思い、後ろを向いてその場にドカッと座り直すと、食べかけだった魚を食べ始める。
食べ終えると彼女はそそくさとテントに向かい、入口付近で立ち止まると、チラッとギルガメッシュの方を見て「ご馳走様」とぶっきらぼうに言い放ち、テントの中へと戻って行った。
それを見たギルガメッシュは「くくくっ」と笑いを堪えるのであった。


********


夜も更け、辺りには波の音だけが響く。
時折、焚き火の爆ぜる音が交じる中、ギルガメッシュはこれからの事を考えていた。
食料は魚を取れば事足りるが、焚き火に必要な木材は無限ではない。
それに、1番の問題は水分。
溜め池はあるが、濁っており飲めたものでは無い。
早く救助が来ないと、共倒れになるのは目に見えていた。

「どうしたもんかな……」

何が良い手は無いものかと考えていると、何処からか声が聞こえた。
ファリスの声ではない。聞き慣れた声。
ギルガメッシュは立ち上がり、辺りを見渡す。
すると、月に浮かぶシルエットを見つけた。

「おーい!!ギルガメッシュ!!」
「エンキドゥ!!ここだー!!」

大声で戦友の名を呼ぶと、エンキドゥは彼の前に降り立った。

「全く!!お前さん、人使いが荒いんじゃ!!」
「すまんな!!ところでエンキドゥ、ここに来るまでに船を見なかったか??」
「船??」

エンキドゥは少し考える仕草をした後、何か思い当たった表情をした。

「そう言えば、小型船が一隻、光の戦士達を乗せて浮かんでたな…」
「本当か!?俺をそこに連れてってくれ!!」

ギルガメッシュの申し出に、エンキドゥは驚いた。

「実はよ、光の戦士の1人がテントの中に居るんだ。あまり体調が良くねぇから、早く仲間の元に戻してやりてぇんだ」
「はぁ!?お前さん、敵を助けたんか!?」

ギルガメッシュの言葉に、呆れかえるエンキドゥ。
苦笑しながらギルガメッシュは言った。

「久しぶりに戦いが楽しめる相手だからよ、こんな事で失っちまうのは勿体無くてよ」
「はぁ~…、エクスデス様に大目玉食らっても知らんからな…」
「なーに、黙ってれば問題ねぇだろ」

エンキドゥは溜め息を吐きながら、ギルガメッシュを連れて飛び上がった。


**********


月明かりに浮かび上がる1隻の小型船。甲板にレナの姿を見つけたギルガメッシュは、彼女の前に降り立った。

「ギルガメッシュ!?」

突如現れた敵の姿を見て、咄嗟に戦闘態勢に入った。

「待て待て待てっ!!戦いに来たんじゃない!!話を聞いてくれ!!」

慌てて静止するギルガメッシュに、警戒をしたままレナは言った。

「何の用??今は貴方に構ってる暇は無いのだけど」
「姉のファリスを探しているからか??」

その言葉に、レナは驚きを隠せなかった。

「やっぱりか、過去の話をぼかして話す訳だぜ」
「…姉さんはどこっ!?」

レナの叫びに近い言葉に、ギルガメッシュはニィッと笑みを浮かべ、自分たちが来た方角を指さした。

「あっちの方に無人島がある。そこにファリスはいる。体調が良くねぇから、早く行ってやんな」
「その言葉が真実だと言う証拠は??」

ギルガメッシュを睨み付けたまま、レナが言う。
ギルガメッシュはやれやれと言った表情をした。

「証拠なんかねぇ。行って見りゃ分かる。ま、罠だと思うなら行かなきゃいい。ただ、ほとんど何も無い島だ。行くのが遅くなればなるほど、ファリスの命に関わると思うがな」
「っ!!」

頭の中で葛藤をしているレナに、ギルガメッシュは「たしかに伝えたぞ、じゃあな」と言って、エンキドゥと共に飛び去った。
レナは呆然と立ち尽くしていた。


**********


外の騒がしさでファリスは目を覚ました。
ここにはギルガメッシュと自分しか居ないはず、なのに大勢の声がする。
その声の中に、大事な肉親の声がして慌ててテントから顔を出すと、そこには必死な表情をした妹のレナがいた。

「姉さんっ!!」

みるみる表情が崩れ、大きな瞳に涙を浮かべ、ファリスに抱きついた。

「レナ、どうしてここが??」
「ギルガメッシュが教えてくれたのっ」
「アイツが??」

辺りを見渡すがギルガメッシュの姿が無い。
一体どうやってここから脱出して、レナ達に場所を伝えたのか疑問に思っていると、レナが言った。

「船で戦った羽の生えた魔物と一緒にギルガメッシュが現れて、場所を伝えて去っていったわ」
「そうか…」
「良かった、姉さんが無事で……体調が良くないって聞いたから、半信半疑だったけど、急いでここに来たの…」

ファリスはレナの背中に手を回し、優しく抱きしめ返す。

「ごめんな、心配かけた…」
「ううん、いいの。姉さんが無事ならそれで」

レナは顔を上げ涙を拭って笑顔で言った。

「さ、行きましょう!!そろそろバリアの塔への道が出来る頃だと思うから」
「あぁ」

レナの後をついて行きながら、ファリスは紅い布切れを見つめた。

(でかい借りが2つも出来ちまったな…)

紅い布切れをグッと握り、ポケットへ仕舞うと、ファリスは無人島を後にした。
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