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聖夜の誓い

雪がチラつく12月25日。俺はレナとバッツはタイクーン城のエントランスで子供たちに囲まれていた。
今日は聖夜祭。この日タイクーンでは毎年恒例で城の1部を解放し、子供たちにオモチャとパンを配る風習がある。
俺がこれに参加するのは2回目、2年前に城に戻って始めて知った。
子供たちオモチャとパンを配るの始めたのは17年前、父さんが行方不明になった俺を探す為に始めたらしい。
最初の目的はそれだったが、実際にそれを行ってみて貧しい子供や孤児達の姿を目の当たりにした父さんは、俺が見つからなくてもこの行事は続けていこうと決め、毎年の恒例行事になったとか。
一人一人にパンとオモチャを手渡しで配る。
城から離れたトゥールには兵士を派遣して、兵士が配っている。

「姉さん、バッツ、お疲れ様」

子供達がいなくなり、ライトグリーンのドレスを着たレナが労いの言葉をかける。

「ありがとうレナ。にしても結構疲れるもんだな。物を渡すだけなのにさ」

赤い色の正装をしたバッツが体を伸ばしながら言う。
なぜ、この行事にバッツが参加しているかと言うと、今年に入ってレナと婚約したからだった。

「姉さん、その、ごめんなさい。ギルガメッシュと一緒にさせてあげられなくて…」
「いや、仕方ないよ。レナのせいじゃないだろ??」

申し訳なさそうに言うレナに、俺は笑顔で答えた。
レナとバッツが婚約した後、死んだと思っていたギルガメッシュが現れた。
そして、城で雇ってくれと申し出てきたので、なんとか掛け合って小隊の隊長としてタイクーンにいる。
そして、そのギルガメッシュは今、トゥールに物を配る為に派遣されている。
俺は婚約はしてないが奴とは恋仲で、レナは最初その事に驚いたが、関係を受け入れてくれている。
それだけでも有難いことだ。
だが、周囲にはその事を公表してない。まぁ、レナの話だと1部の人間は勘づいているみたいではあるらしいが……

「さ、この後はパーティだろ??主役2人が居ないことには始まらないぜ??」

俺は2人を促し、エントランスから追い出した。
ガラじゃないのは分かっているが、本当は2人が羨ましくて仕方なかった。
物を配りながら時々見つめあって幸せそうな笑顔をしてる2人を見て、何度アイツの顔を思い浮かべたか…。

ため息を吐き、ふとエントランスの入口を見ると、女の子が2人こちらの様子を伺っている。
俺は、片付けを始めた兵士を止めて、子供たちの元に歩み寄った。

「おいで」
「で、でも、もう終わっちゃったんでしょ??」

悲しそうな顔で言う姉と思われる子が言った。

「まだあるから大丈夫、おいで」

ニッコリ微笑んでそう言ってやると、女の子2人は本当に嬉しそうな顔になった。
そして、2人にパンとオモチャを渡すと「ありがとう!!お姫様!!」と言って元気に走って帰った。
それを見送った後から、俺はその子達の笑顔が頭から離れなくなった。

メイクとヘアーを直す為、部屋に戻りながら「笑顔、可愛かったなぁ」とずっと頭の中で思っていた。
そして、ふとギルガメッシュを思い出す。

「アイツ、戻ってくるの、きっと遅いよな…」

ギルガメッシュが来てから初めてのパーティ。そこに奴が居ないのも寂しかった。

「はぁ…ほんと、らしくねぇな…」

自分がこんなに女々しくなるなんて、思ってもみなかった。
たった1日、顔が見られないだけで、こんなにもアイツが恋しくなるなんて…

部屋に入り、メイクとヘアーを直してもらい、パーティ会場である玉座の間に向かった。
会場には赤い服の紳士と、緑のドレスを着た淑女達で溢れかえっていた。
聖夜祭では、男は赤、女は緑の服を着て祝うらしく、俺も深いグリーンのドレスを着せられている。
レナが聖夜祭の始まりの音頭をとり、乾杯をする。
それからしばらくは立食しながら、各々雑談を始める。
この時間が俺にとって1番憂鬱だった。
並居る貴族達の挨拶を無下には出来ないのでそれに応じ、俺に気のある奴から話しかけられた時はのらりくらりとはぐらかす。
そうこうしていると、ダンスの時間が近づいてきていた。
辺りを見渡すと、1番厄介な大臣の姿が見えない。
このチャンスを逃さず、俺は人知れず会場を抜け出し、飛龍の塔へ足を運んだ。

「さみぃー……」

扉を開くと肌を刺すような寒さに思わず声が出た。
上着の1つでも準備して置くべきだったと後悔し、両腕を擦りながら踊り場へと脚を進める。
そして、トゥールの方角へと身体を向けた。
今頃、アイツはこっちに向かっている途中だろうか??
それともまだ子供たちに囲まれているのだろうか??
ため息が白い息に変わる。
雪がチラチラと降り始め、寒さが痛みに変わる。
流石に長居は出来なさそうだ。

「はぁ…ギルガメッシュ、お前に逢いたいよ…」
「そんなに俺様に逢いたかったのか??嬉しいぜ!!」

突然返ってきた言葉に驚いて振り向くと、そこには何故か赤い正装をしたギルガメッシュの姿があった。
ギルガメッシュはそのまま俺に向かってくると、俺を包み込むように抱きしめた。

「いつからここに居たんだ??すげぇ冷え切ってるじゃねぇか」
「お前こそなんでここに??トゥールにいるはずじゃなかったのか??」

ギルガメッシュの温もりに包まれながら、俺はコイツの疑問に疑問で返した。

「いやな、大臣に早めに戻ってきてくれって言われててな。小隊の連中に話を通して戻ってきたんだよ」
「大臣が??」
「おう。で、帰ってきたらこれを着て、お前さんと踊ってやってくれって言われてな」
「はぁ?!」

驚く事だらけで思考がこんがらがってきた。

「ちょ。ちょっと待て!!えっと、その服はどうしたんだ??」
「あぁ、1ヶ月ぐらい前に採寸されたから、その時から作ってたみたいだな」
「踊るって、お前踊れるのか??」
「採寸された時期から大臣に時間を取らされて、ワルツを練習させられたから、それだけなら踊れるぜ」

なんだか、驚きの連続で開いた口が塞がらない。
何故、大臣がそんなことを……
俺の言わんとしてることを察したのか、ギルガメッシュが先に口を開いた。

「どうやら、お前さんの俺への気持ちに気づいてるみたいだったぜ??俺が来てから明るくなったってよ」
「!!」

言われてみれば確かに、コイツが来てから[俺らしく]振る舞うことが多くなったかも知れない。
それまでの生活は、ギルガメッシュを失った喪失感と、行動が制限された生活で息が詰まりそうで、よくこっそりとアジトに逃げ出したりしていた。

海賊に戻りたくて仕方なかった。

レナはその気持ちを察してくれていて、「行方が分からなくなる訳じゃないし大丈夫、無理しないで」と言ってくれてはいたが、どうしてもそれは出来なかった。
様々な感情で板挟みになっていた俺は、レナと二人きりの時間以外では無理矢理作ろった笑顔を貼り付けてはいたが、近寄り難いオーラを纏って居たのは事実。

そんな俺が周りを気にせずに昔のように振る舞い始めたら、気づかない方が難しい気もする。

「ま、あれだ。お前さんの気持ちに気が付いていて、それでも俺にお前さんのダンスの相手をさせてくれるってことはよ、認めてくれてるんだろ。俺たちのこと」

ニッと笑顔を向けられ、何だか恥ずかしくなって俺はそっぽを向いた。
ギルガメッシュは俺の頭を大きな手でポンポンとすると

「さ、行こうぜ。せっかく大勢の前で一緒に居られるんだし、いつまでもこんな所に居たら風邪ひいちまうぜ??」

と、俺の手を引いて歩き出す。
手から伝わるギルガメッシュの温もりだけで、こんなにも嬉しいと感じるなんて、今の俺はどうかしてるんじゃないかと思う。
階段を降り、会場に一歩踏み出すと、一斉に視線が俺に集まりざわざわとし始める。

無理もない。俺は今までパーティで異性の手に引かれたこともなければ、ダンスに参加したことも無い。
何かと理由をつけ、大臣の目を盗んで姿を消していたからだ。
そんな俺が、大男に手を引かれ開けたダンススペースに向かおうとしていれば、誰だって驚くだろう。
現に、レナですら驚いた顔をしている。
ふと、大臣と目が合った。
すると大臣は嬉しそうに微笑み演奏者達に指示を出した。

俺がギルガメッシュと向かい合うと、ギルガメッシュの手が俺の腰に回り、もう片方の手は俺の手を掴む。
俺は空いてる手を腰に回っている手の腕に添える。
それを確認した指揮者が指揮棒を振った。

音楽に合わせステップを踏み、オルゴール人形の様に踊る。

優しい笑みで俺を見つめるギルガメッシュ。
俺は今、どんな表情をしているんだろう。

曲が終わり、俺はギルガメッシュと2人でバルコニーに向かった。
途中で侍女を捕まえて上着を持ってきて貰い、バルコニーに出ると雪は止んでいた。

「上着着てても寒いな」
「はははっ、ドレスは上半身薄いだろうからなぁ」

白い息を吐きながらボヤく俺に、ギルガメッシュは笑いながら言った。
その笑顔が、あの時の姉妹の笑顔と重なる。

あぁ、そうか。
あの姉妹の笑顔が頭から離れなかったのは……

俺は、今気がついた気持ちをどう伝えようかと考え込んだ。

その様子に、ギルガメッシュは心配そうな顔をした。

「どうした??具合でも悪いのか??」

そう言って、俺の顔を覗き込む。

「いや、違うんだ。その、伝えたいことがあるんだ。それを、どう言葉にしていいか考えてた 」

ギルガメッシュはその言葉に納得したのか、それ以上追求せずに俺の言葉を待つ。

いや、どう言葉にしようか悩んでるなんて嘘だ。
いつもみたいにストレートに言えば良いだけだ。
でも、俺がこんな事を望むなんて、なんだか恥ずかしくて勇気が出なかっただけ…。

俺は、意を決した。

「ギルガメッシュ!!」
「なんだ?」
「俺さ……お前の子供が欲しい!!」
「そうか………って、えぇっ!?」

驚くギルガメッシュに、俺はさらに続ける。

「今日、最後に会った姉妹が居てな。その子達の笑顔が頭から離れなかったんだ。ずっと、可愛いかったなって思ってて。なんでこんなに頭から離れないのか不思議だったんだ」

俺はそこまで言うと、ギルガメッシュに抱きついた。

「でも、さっきのお前の笑顔を見て確信したんだ。俺はお前と家族を作りたいんだって」

ギルガメッシュの顔を見ると、ポカーンとした表情で固まっていた。

「だめ………か??女らしくない俺がそんな事言うなんて……」

そう言った途端、力強く抱きしめられた。

「うわっ!?」
「ファリスっ!!今日はなんて素晴らしい日なんだっ!!」
「くっ、苦しいっ!!」

ギルガメッシュは「すまん!!」と言って身体を離した。

「俺もな、子供達を見てて同じ事を思ったんだ」
「…ほ、ほんとに??」

顔を見上げると、本当に嬉しそうに微笑むギルガメッシュの顔。
それを見て、俺の視界がぼやける。
それと同時に頬を生暖かいモノが伝い、それをギルガメッシュの親指が拭う。

「俺様は嘘はつかねぇ」
「ギルガメッシュ………」

俺は嬉しくて嬉しくて、もう一度ギルガメッシュを抱きしめた。

「後で、後悔すんなよ?」
「後悔なんて、するわけないだろ」

俺の言葉に、ギルガメッシュが答えた。

また、雪がチラチラと降り始める。

俺がギルガメッシュの首に腕を回すと、ギルガメッシュは俺を抱き上げた。

そして、雪が降る中。
俺達は誓いの口付けを交わしたのだった。

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