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七夕の願い事

茹だるような暑さを感じる夏。
そんな季節でも、洞窟の中のアジトはひんやりと過ごしやすい温度を保っていた。
海賊の頭ファリスは、次の航海の計画や、獲物の情報等を纏めていた。
一区切り付いて一休みをしようと部屋を出ると、アジトの入口から見慣れない植物を担いだギルガメッシュが向かってくるところだった。
「ギルガメッシュ、その植物はなんだ??」
「笹って言うんだ。この辺じゃあまり見ないだろ??見つけるのに苦労したぜ」
何故、彼が笹とか言う植物を探していたのか分からないと言った表情をするファリスを気にせず、ギルガメッシュは話を続けた。
「ところでよ、この笹を設置できるところを探してるんだけどよ、何処かいい所はないか??」
「どこでもいいのか??」
「んー、出来れば空が見えるところが良いんだよなぁ」
空が見えるところが良いなら、なんで外に生えてたもんをここに持ってきたんだよ!!と、心の中でツッコミながら、「なら、いい場所がある」と言ってギルガメッシュを案内した。
アジトから外に向かう洞窟の途中にある、唯一外に出られる場所。
そこに辿り着くと「おー!!なかなかいい場所だな!!」と、嬉しそうに笹を降ろした。
「その笹とか言う植物で何をするんだ??」
ずっと疑問に思っていたことを口にすると、ギルガメッシュはウキウキしながら答えた。
「俺の故郷の催し事をやろうと思ってな」
言いながら、笹に添え木をして立たせた。
「催し事??」
「あぁ、七夕っていう行事があってな。それをお前さんとやりてぇと思ってよ」
「ふーん」
いまいちピンと来ない彼女に、ギルガメッシュは苦笑いをした。
「ま、後で詳しく教えてやるから楽しみに待ってるんだな」
そう言って、彼はアジトの方へと帰っていったので、ファリスもアジトに戻ることにした。


************


1日のやる事を終え、自室に戻ったファリスは目を丸くした。
テーブルには色とりどりの四角い紙。その紙を使ってギルガメッシュが何かを作っていたのだ。
「お、ファリス。お疲れさん」
「な、何を作ってるんだ??」
その言葉に手を止め、彼女に顔を向ける。
「笹の飾りを作ってるんだ」
「へぇー、面白そうだな」
興味深そうに見ている彼女に、ギルガメッシュは「作ってみるか??」と聞くと、彼女は頷いた。
「じゃあ、こっちの端の方を頼む。こうやって繋げていって、鎖を作るんだ。長さが必要だから両端から一緒に作った方が早いだろ」
「わかった」
黙々と作業をし、鎖用の色紙が無くなるのはあっという間だった。
「やっぱ、2人で作ると早いな」
嬉しそうに言うギルガメッシュ。
「なぁ、これで終わりか??」
少し物足りなそうなファリスに、ギルガメッシュは首を横に振った。
「いいや、他にも作らなきゃいけない飾りが沢山あるぜ」
その言葉を聞いたファリスの目が輝いた。
「じゃあ、それも教えてくれよ!!」
「いいぜ、じゃあ次は…」
ギルガメッシュは様々な飾りの作り方を作りながら教え、ファリスはそれを真似る。
気がつくと、作った飾りはテーブルから溢れんばかりになっていた。
「これだけあれば充分、むしろ作りすぎたかな?はははっ」
「なぁ、早く飾りに行こうぜ!!どんな感じになるか見たい!!」
ファリスがワクワクした表情でいうと、ギルガメッシュは満面の笑みを浮かべ「そうだな、行くか!!」と飾りを持って立ち上がり、部屋を出た。ファリスはその後に続いた。
笹のところまで辿り着くと、ギルガメッシュが慣れた手つきで作ったものを飾っていく。
ファリスもそれを真似て飾り付けていく。
飾りを全てつけ終わるとファリスは「へぇ~!!」と声を漏らした。
「カラフルで綺麗だな!!」
「だろ??」
「なんか、夏版のクリスマスツリーみたいだな」
ファリスの言葉に「言われてみれば似てるな」と、ギルガメッシュは笑いながら答えた。
「でも、クリスマスと違うところもあるぜ」
「違うところ??」
「あぁ、実はなこの飾り付けた笹に、もう1つ必要なものがある」
彼の言葉に、ファリスはそれはなんだと言う顔を向けた。
「短冊っていう紙にな、願い事を書いて笹に吊るすと願いが叶うって言い伝えがあるんだよ」
「なんか、一気に胡散臭くなったな」
「まぁ、そう言うなよ。ただの言い伝えなんだから」
ギルガメッシュは苦笑いをした。
「それにしても、変わった文化だな。七夕って」
「そうか??俺は昔から馴染みのある行事だから変わってるとは思わんが、お前さんから見たらそう映るんだな」
そんな会話をしていると、ふとファリスに新たな疑問が生まれた。
「なぁ、ギルガメッシュ。行事って何か由来があって出来るものが多いと思うんだ。七夕にも何か由来があるのか??」
ファリスの問にギルガメッシュは「あるぜ、ちょっと話が長くなるけどいいか??」と答え、ファリスはそれに頷いた。

昔、神様の子供に織姫と呼ばれる娘が居た。
彼女は働き者で自分の身なりを気にすることなく、毎日機を織っていた。
その姿を不憫に思った神様は、彼女の結婚相手を探すことにした。
そして、働き者の牛飼の青年彦星を見つけた神様は、「彼だったら織姫を幸せにしてくれるだろう」と彼を織姫と結婚させた。
ところが、2人は結婚した途端、仕事をせずに遊び呆け始めた。
神様は何度も仕事をするように注意したが、返事だけで一向に仕事をしない2人。
そのせいで、牛はやせ細り、周りの皆は着るものが無くなり困り果ててしまった。
流石に怒った神様は、天の川で2人を隔てて会えない様にした。
だが、今度は悲しみに暮れ続け仕事をしない2人。
周りの状況はどんどん悪化していくばかり。
見かねた神様は「真面目に働くなら年に1度、2人を合わせてやる」と約束。
すると、2人は真面目に働くようになり、7月7日の1日だけ会えるようになった。

「で、その2人が会える日に願い事を書いた短冊を吊るすと、願いが叶うって話らしい」
「ふーん。まぁ、離れ離れになったのは自業自得だよな」
「それを言うなよ。でもよ、気持ちは分からなくないだろ。仕事一筋だった所に別の幸せが転がり込んできたら、そっちに夢中になっちまうのは」
そう言われて、ファリスは「そう言われてみれば、確かに…」と呟いた。
自分にも経験がある。
敵だと分かっていても、一緒に酒を飲む楽しさを抑えられなかった。そこから男女の関係になったら、更に抗えなかった。
「ははっ、俺も人の事は言えねぇや」
「何がだ??」
突然笑い出したファリスに、ギルガメッシュが不思議そうに聞いた。
「いや、俺達の事を思い出してさ」
「はははっ、確かにな!!」
それを聞いてギルガメッシュも笑って言った。


**********


翌日、短冊の願い事は大勢でも大丈夫と言うのを聞いたファリスは、子分達にも七夕の話をした。
全員に短冊を渡し、願かけ程度でも参加したい奴は願い事を書いて笹に吊るしてくれと伝えた。
そして七夕当日、夜、ファリスは1人短冊を持って笹のある場所に向かうと、予想以上に色んな短冊が吊るされていた。
「あいつら、参加してくれたんだな」
少し嬉しさを感じながら、どこに自分の短冊を吊るそうかと笹を眺めていると、1つの短冊に目が行った。
短冊にはプライバシーを守るため、名前の記載がなくても良いと伝えたが、その短冊は名前が無くても誰が書いたか一目で分かった。
その短冊には「バッツと一対一で勝負がしたい」と書かれていた。
「ギルガメッシュの奴…」
ファリスはそれを見て呆れ返った。
だが、よく考えてみると自分の書いた願い事も名前がなくても特定されてしまう事に気がついた彼女は、なるべく書かれた内容が見えない場所がいいと、レビテトを唱えて笹のてっぺんに短冊を吊るした。
レビテトを解除して地面に降り立つと、ギルガメッシュが洞窟から出てくるところだった。
「ファリスはもう短冊吊るしたのか??」
「あぁ」
ギルガメッシュは彼女の隣に来ると、そのまま地面に腰を下ろし、空を見上げた。
「晴れて良かったな。天気悪いと織姫と彦星が会えねぇから」
「え、そうなのか??」
「ま、それも諸説あるけどな」
「ふーん」
ファリスも地面に腰を下ろし、空を見上げた。
夜空には宝石箱をひっくり返した様なミルキーウェイ。
その綺麗な輝きに、ファリスは思わず溜息を洩らした。
「綺麗だな」
「そうだな」
ファリスの言葉にギルガメッシュが応える。
「今頃、織姫と彦星は幸せな時間を過ごしてんのかな…」
ファリスは天の川を見ながら呟く。
「たぶんな」
言って彼女の方に顔を向ける。
「ファリス」
呼ばれて、ファリスも彼に顔を向ける。
すると、突然唇を奪われた。
ファリスは抵抗することなく、それを受け入れる。
微かに香るアルコールの匂い。

(そういや、ここに来る前に子分達が飲んでたな。こいつ、一緒に飲んでたのか)

キスをされながらそんな事を考えていると、
「何考えてる??」
唇が離れた途端、ギルガメッシュが言った。
「別に、大したことじゃねぇよ」
少し笑って答えると、それ以上は追求されなかった、が
「じゃあ、今から何も考えられなくしてやる」
そう言い、ギルガメッシュはファリスに口付けをし、そのまま地面に押し倒した。
「お、おい!!ちょっと待て!!」
「待たねぇ」
「まずいって!!子分達が来たらっ」
「酔い潰れてるから来ねぇよ」
「はぁ?!」
予想外の言葉に、ファリスは思わず驚きの声を上げた。

(まさか、こいつが子分達と一緒に飲んでたのって…)

彼の用意周到さに声も出なかった。
ただ目を見開いて、唖然とギルガメッシュを見た。
「そんなことよりよ」
ギルガメッシュが愛おしそうな表情でファリスの頬を撫でた。
「織姫と彦星に負けないぐらい、幸せな時間を満喫しようぜ」
そう言うと、彼は深い口付けをした。
それだけでファリスの頭はボーっとした。
ファリスは観念してギルガメッシュの背中に両手を回したのだった。


**********


翌朝、ギルガメッシュは笹を片付けに来た。
添え木から笹を外し、笹を地面に横たえさせた。
すると、笹から1枚の短冊が外れ、ヒラヒラと舞い、ギルガメッシュの顔に貼り付いた。
「うおっ!!」
一瞬驚いて顔から短冊を剥がす。
その短冊の願い事を見て、ギルガメッシュの顔が綻んだ。
名前は無かったものの、短冊には「これからもずっと、ギルガメッシュと一緒にいられますように」と書かれていた。
「ファリスの奴、可愛いじゃねえか」
思わぬ形でファリスの愛情を再確認したギルガメッシュは、急いで笹を片付け、愛しい彼女の元へと向かったのだった。
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