抑えきれぬ想い[前編]
「恋でもして、ちったあ女らしくなりなっ!!」
そう言って俺の目の前から消えた奴がいる。
これから消えるって言うのに、普段と変わらない笑顔を俺に向けて……
爆音と共に……
世界が平和になり1年半もの月日が過ぎた。
俺は、タイクーン城で毎日お姫様をさせられていた。
だが、ずっとここに留まっているつもりは無かった。
本当は1年を目処にアジトに戻ろうと思っていた。
だけど…
なんとなく、まだここから離れてはいけない…、そんな気がしたからだ。
飛竜の塔に上り、ビッグブリッヂに目を向ける。
吹き抜ける風が、俺の髪とドレスの裾を揺らす。
ここに足を向けるのは何度目だろう。
毎日では無いが、何も無い時間は大抵ここにいる。
それ以外は王族としての教養、ダンスのレッスン、そして時々こっそり城を抜け出しアジトに行ったりしている。
正直言って、退屈だ。
なんの代わり映えのしない、束縛された日々。
なんで、離れられないんだろう。
自由な海賊家業に戻りたくて仕方ないのに…
俺は、待っているんだろうか??
死んでしまったアイツを…
アイツが簡単に死ぬわけないって、そんな勝手な思い込みで、くだらない期待をしてしまっているんだろうか??
分からない…
でも、これだけは言える。
欲しいと思ったモノが、手に入る前に消えた…
そうだ…
ビッグブリッヂでアイツと剣を交えた時、心を奪われた。
こんなすげぇ奴が居るのかって。
言動はふざけてるのに、戦いのウデはピカイチだった。
大柄な体に似合わず、割と素早く動いて、1人で俺達4人を一度に相手しながら、余裕の顔をして…
コイツを傍に置いておきたい
人(?)に対して初めてそう思った。
なのに…
アイツは…
溜め息を吐き、ビッグブリッヂに背を向ける。
そろそろダンスレッスンの時間だったはずだ。
憂鬱な気持ちで扉に向かい、ドアノブに手をかけた時だった。
ヴォンと聞き覚えのある音が響いた。
慌てて振り返り、空を見上げる。
そこには黒い穴がバリバリと奇っ怪な音を立てて開いていた。
「次元の狭間?!」
突然のことに唖然としていると、その黒い穴から紅い大きな塊が、さっきまで俺がいた所に物凄い音を立てて堕ちた。
「っ!?」
驚きのあまり、一瞬声が出なかった。
だって、そこには―――――
「ギルガメッシュ!!」
欲しくて堪らなかったアイツが倒れていたから―――
「ギルガメッシュ!!おい!!ギルガメッシュ!!」
俺は駆け寄り、生存確認をする。
意識はないが弱々しくも呼吸をしているのが確認できた。
溝落ち辺りの損傷が激しい。
恐らく自爆の時の怪我だろう。
俺は呪文を唱え、アレイズをかけた。
傷はみるみる塞がっていき、呼吸も正常に戻った。
それを見て安堵した直後。
「姉さん!!無事!?」
後方の扉が勢いよく開き、近衛兵を連れたレナが険しい形相で現れた。
「大丈夫だ。それよりコイツをベッドまで運んでやってくれ」
「え?」
そこで、レナは俺の前に横たわっている人物に気が付いた。
「ギルガメッシュ?!どうしてここに…」
「説明は後だ、頼むレナ」
俺の言葉に「そ、そうね」と戸惑いながら、レナは近衛兵達に指示を出しギルガメッシュを運ばせた。
近衛兵達の後を2人で歩きながら、俺は話し始めた。
「室内に戻ろうとしたら、空に次元の狭間の穴が空いたんだ。そしたら落ちてきた」
「落ちてきた??」
「あぁ、それで死にかけてたからアレイズをかけて、そしたらレナ達が来たってわけ」
「そうだったの」
レナは複雑な表情をしていた。
まぁ、無理もないだろう。命の恩人とはいえ、元々は敵だった奴が現れたのだから。
しかも、それを躊躇なく助けた俺に対しても疑問があるのだろう。
当然だ。
俺は、ギルガメッシュに対する気持ちを誰にも打ち明けてなかったから。
「それにしても、駆け付けるのが早かったけど、よくここで何か起こってるって分かったな」
「ちょうど公務が一区切りついたからバルコニーに出てたの、そしたら物凄い音が上から聞こえたから…」
「なるほどな、それでか」
バルコニーより上の階で外に出られるのは飛竜の塔しかないもんな、と納得した。
「姉さんに何も無くて良かった」
「心配してくれて、ありがとな。まぁ、あの時部屋に戻ろうとしてなかったら、今頃俺はアイツの下敷きになってたけどな」
俺がそう言って小さく笑うと、レナは「本当、何も無くて良かった」と安堵の溜息を吐いた。
客室にギルガメッシュを寝かせ、近衛兵達は持ち場へと戻って行った。
部屋に残ったのは意識のないギルガメッシュと、レナと俺。
レナの表情は未だ変わらない。
俺は覚悟を決めた。
「なぜギルガメッシュを助けたのか不思議に思ってるんだろ??」
「えぇ、姉さんにしては迷いがないのが不思議で…」
どこか申し訳なさそうな表情で答えるレナに、俺は頭を掻いた。
「元は敵とはいえ、命を助けられたからな。礼が言いたかった…、それに」
「それに??」
俺はレナを真っ直ぐに見つめ、今まで秘めていた想いを打ち明けた。
「俺、コイツに…ギルガメッシュに惚れてんだ」
その言葉に、レナは目を見開き唖然とした。
長い沈黙。
恐らく予想外の言葉に、理解が追いつかないのだろう。
目を泳がせながら考え込んでいる。
そして、困惑した表情でレナは沈黙を破った。
「い、いつから??」
レナの最もな質問に、俺はギルガメッシュの方に顔を向けた。
「ビッグブリッヂで戦った時から…、すげぇ奴だって思った。戦いを重ねる毎に惹かれていった。自分でも驚いたよ。男にこんな感情を持つなんてな」
ギルガメッシュの顔を見て、俺は目を細めた。
「だから、此奴が自爆した時、凄くショックだった。気持ちも伝えられずに、目の前から消えたのが………凄く………」
固く握りしめていた俺の拳をレナはそっと手で包んだ。
「そうだったのね。姉さんったら水臭いわ。早く打ち明けてくれれば良かったのに」
「レナ……」
レナの顔を見ると、いつもの優しい笑みを浮かべていた。
「いや、なんかさ。こんなの俺らしくない気がして、恥ずかしかったんだよ」
「ふふっ、そんなことないわよ。誰だって恋はするもの。恥ずかしくなんてないわ」
「そ、そうかな……」
嬉しそうに話すレナに、俺は少し照れくさくなった。
「でも、姉さんの育った環境を考えたら、ギルガメッシュに惹かれたのも納得できるわね」
まぁ、子分達も海の荒くれと言われるだけあって、決して弱いわけじゃない。
みんな筋肉質でガタイも良い奴ばかりだ。
そんな奴らに囲まれて生活してきたからか、街で女共がキャーキャー言うような優男は、どうもヒョロっちくて情けなく見えた。
バッツも最初は弱そうに見えたが、それは直ぐに間違いだと分かった。でも、男と女の身体能力の差があってもお互いに戦いのスタイルが違う為か、戦いの実力差はそんなになく、身長差もそんなになかったから仲間以上の感情を持つことはなかった。
でも、ギルガメッシュは違った。
今まで見てきた男達とは全然違う、初めて見るタイプの男だった。
「まぁな。ガタイのいい筋肉質な男達に囲まれて育ったから、貴族や王族は情けなく見えるのは否定しない」
俺の言葉にレナはクスッと笑った。
「姉さん、この後どうするの??ギルガメッシュに着いていたいなら、この後の予定キャンセルするけど」
レナの提案に俺は首を横に降った。
「いいよ、多分直ぐには目を覚まさないだろうから」
「そう、分かったわ」
そう言うと、侍女達にギルガメッシュの世話を頼む為にレナは部屋を出て行った。
俺はギルガメッシュの頬撫でた。
「ギルガメッシュ、早く目を覚ましてくれよ。お前に伝えたい事、話したい事があるんだ…」
そのまま奴の唇に自分の唇を重ねた後、少し遅くなってしまった予定をこなす為に部屋を後にした。
そう言って俺の目の前から消えた奴がいる。
これから消えるって言うのに、普段と変わらない笑顔を俺に向けて……
爆音と共に……
世界が平和になり1年半もの月日が過ぎた。
俺は、タイクーン城で毎日お姫様をさせられていた。
だが、ずっとここに留まっているつもりは無かった。
本当は1年を目処にアジトに戻ろうと思っていた。
だけど…
なんとなく、まだここから離れてはいけない…、そんな気がしたからだ。
飛竜の塔に上り、ビッグブリッヂに目を向ける。
吹き抜ける風が、俺の髪とドレスの裾を揺らす。
ここに足を向けるのは何度目だろう。
毎日では無いが、何も無い時間は大抵ここにいる。
それ以外は王族としての教養、ダンスのレッスン、そして時々こっそり城を抜け出しアジトに行ったりしている。
正直言って、退屈だ。
なんの代わり映えのしない、束縛された日々。
なんで、離れられないんだろう。
自由な海賊家業に戻りたくて仕方ないのに…
俺は、待っているんだろうか??
死んでしまったアイツを…
アイツが簡単に死ぬわけないって、そんな勝手な思い込みで、くだらない期待をしてしまっているんだろうか??
分からない…
でも、これだけは言える。
欲しいと思ったモノが、手に入る前に消えた…
そうだ…
ビッグブリッヂでアイツと剣を交えた時、心を奪われた。
こんなすげぇ奴が居るのかって。
言動はふざけてるのに、戦いのウデはピカイチだった。
大柄な体に似合わず、割と素早く動いて、1人で俺達4人を一度に相手しながら、余裕の顔をして…
コイツを傍に置いておきたい
人(?)に対して初めてそう思った。
なのに…
アイツは…
溜め息を吐き、ビッグブリッヂに背を向ける。
そろそろダンスレッスンの時間だったはずだ。
憂鬱な気持ちで扉に向かい、ドアノブに手をかけた時だった。
ヴォンと聞き覚えのある音が響いた。
慌てて振り返り、空を見上げる。
そこには黒い穴がバリバリと奇っ怪な音を立てて開いていた。
「次元の狭間?!」
突然のことに唖然としていると、その黒い穴から紅い大きな塊が、さっきまで俺がいた所に物凄い音を立てて堕ちた。
「っ!?」
驚きのあまり、一瞬声が出なかった。
だって、そこには―――――
「ギルガメッシュ!!」
欲しくて堪らなかったアイツが倒れていたから―――
「ギルガメッシュ!!おい!!ギルガメッシュ!!」
俺は駆け寄り、生存確認をする。
意識はないが弱々しくも呼吸をしているのが確認できた。
溝落ち辺りの損傷が激しい。
恐らく自爆の時の怪我だろう。
俺は呪文を唱え、アレイズをかけた。
傷はみるみる塞がっていき、呼吸も正常に戻った。
それを見て安堵した直後。
「姉さん!!無事!?」
後方の扉が勢いよく開き、近衛兵を連れたレナが険しい形相で現れた。
「大丈夫だ。それよりコイツをベッドまで運んでやってくれ」
「え?」
そこで、レナは俺の前に横たわっている人物に気が付いた。
「ギルガメッシュ?!どうしてここに…」
「説明は後だ、頼むレナ」
俺の言葉に「そ、そうね」と戸惑いながら、レナは近衛兵達に指示を出しギルガメッシュを運ばせた。
近衛兵達の後を2人で歩きながら、俺は話し始めた。
「室内に戻ろうとしたら、空に次元の狭間の穴が空いたんだ。そしたら落ちてきた」
「落ちてきた??」
「あぁ、それで死にかけてたからアレイズをかけて、そしたらレナ達が来たってわけ」
「そうだったの」
レナは複雑な表情をしていた。
まぁ、無理もないだろう。命の恩人とはいえ、元々は敵だった奴が現れたのだから。
しかも、それを躊躇なく助けた俺に対しても疑問があるのだろう。
当然だ。
俺は、ギルガメッシュに対する気持ちを誰にも打ち明けてなかったから。
「それにしても、駆け付けるのが早かったけど、よくここで何か起こってるって分かったな」
「ちょうど公務が一区切りついたからバルコニーに出てたの、そしたら物凄い音が上から聞こえたから…」
「なるほどな、それでか」
バルコニーより上の階で外に出られるのは飛竜の塔しかないもんな、と納得した。
「姉さんに何も無くて良かった」
「心配してくれて、ありがとな。まぁ、あの時部屋に戻ろうとしてなかったら、今頃俺はアイツの下敷きになってたけどな」
俺がそう言って小さく笑うと、レナは「本当、何も無くて良かった」と安堵の溜息を吐いた。
客室にギルガメッシュを寝かせ、近衛兵達は持ち場へと戻って行った。
部屋に残ったのは意識のないギルガメッシュと、レナと俺。
レナの表情は未だ変わらない。
俺は覚悟を決めた。
「なぜギルガメッシュを助けたのか不思議に思ってるんだろ??」
「えぇ、姉さんにしては迷いがないのが不思議で…」
どこか申し訳なさそうな表情で答えるレナに、俺は頭を掻いた。
「元は敵とはいえ、命を助けられたからな。礼が言いたかった…、それに」
「それに??」
俺はレナを真っ直ぐに見つめ、今まで秘めていた想いを打ち明けた。
「俺、コイツに…ギルガメッシュに惚れてんだ」
その言葉に、レナは目を見開き唖然とした。
長い沈黙。
恐らく予想外の言葉に、理解が追いつかないのだろう。
目を泳がせながら考え込んでいる。
そして、困惑した表情でレナは沈黙を破った。
「い、いつから??」
レナの最もな質問に、俺はギルガメッシュの方に顔を向けた。
「ビッグブリッヂで戦った時から…、すげぇ奴だって思った。戦いを重ねる毎に惹かれていった。自分でも驚いたよ。男にこんな感情を持つなんてな」
ギルガメッシュの顔を見て、俺は目を細めた。
「だから、此奴が自爆した時、凄くショックだった。気持ちも伝えられずに、目の前から消えたのが………凄く………」
固く握りしめていた俺の拳をレナはそっと手で包んだ。
「そうだったのね。姉さんったら水臭いわ。早く打ち明けてくれれば良かったのに」
「レナ……」
レナの顔を見ると、いつもの優しい笑みを浮かべていた。
「いや、なんかさ。こんなの俺らしくない気がして、恥ずかしかったんだよ」
「ふふっ、そんなことないわよ。誰だって恋はするもの。恥ずかしくなんてないわ」
「そ、そうかな……」
嬉しそうに話すレナに、俺は少し照れくさくなった。
「でも、姉さんの育った環境を考えたら、ギルガメッシュに惹かれたのも納得できるわね」
まぁ、子分達も海の荒くれと言われるだけあって、決して弱いわけじゃない。
みんな筋肉質でガタイも良い奴ばかりだ。
そんな奴らに囲まれて生活してきたからか、街で女共がキャーキャー言うような優男は、どうもヒョロっちくて情けなく見えた。
バッツも最初は弱そうに見えたが、それは直ぐに間違いだと分かった。でも、男と女の身体能力の差があってもお互いに戦いのスタイルが違う為か、戦いの実力差はそんなになく、身長差もそんなになかったから仲間以上の感情を持つことはなかった。
でも、ギルガメッシュは違った。
今まで見てきた男達とは全然違う、初めて見るタイプの男だった。
「まぁな。ガタイのいい筋肉質な男達に囲まれて育ったから、貴族や王族は情けなく見えるのは否定しない」
俺の言葉にレナはクスッと笑った。
「姉さん、この後どうするの??ギルガメッシュに着いていたいなら、この後の予定キャンセルするけど」
レナの提案に俺は首を横に降った。
「いいよ、多分直ぐには目を覚まさないだろうから」
「そう、分かったわ」
そう言うと、侍女達にギルガメッシュの世話を頼む為にレナは部屋を出て行った。
俺はギルガメッシュの頬撫でた。
「ギルガメッシュ、早く目を覚ましてくれよ。お前に伝えたい事、話したい事があるんだ…」
そのまま奴の唇に自分の唇を重ねた後、少し遅くなってしまった予定をこなす為に部屋を後にした。
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