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「うん、戸締りオッケー。じゃ、一緒に帰ろうね」
狛枝さんは鍵を鍵穴に差し込んでひねり、ドアノブを何度かガチャガチャと捻った。それでも扉があかないことを確認してから、狛枝さんは私に笑いかける。
「本当に、大変だったらお気遣い結構ですよ?」
「ううん、全然大変じゃないよ、それに、ボクとしてはドライブになって楽しいからさ。遠慮しないの」
二人並んで駐車場までの道を歩く。狭い道路で、人通りも車通りも、街灯も少ない。暗くて、今にも変質者が出てきそうなところだと思う。昨日のこともあってかとても怖い。でも、隣に狛枝さんがいるから、ちょっと安心だ。
狛枝さんは私のことを庇うように、ずっと狭い白線の外側を歩いていてくれた。
狛枝さんは本当に優しい人だ。
駐車場に着くと、沢山一般的な国内車が並んでいる中に、一つだけ明らかに浮いている車があった。もちろん、狛枝さんの所有車である。
狛枝さんの車は1980年代の外車だという。デザインが少し個性的で、レトロチックだ。車のライト(狛枝さん曰く、バンパーというらしい)部分の形が現代のものとはやや違う。けれど、そこが素敵だ。表面にはツヤツヤとした光沢があって、古くささは一切感じられなかった。狛枝さんらしい車だと思う。
「狛枝さんの愛車、レトロチックなのに、本当に綺麗ですよね」
「これも両親から受け継いだ遺産のひとつなんだ。だから大切にしたくてさ。あとボク綺麗好きだから、結構洗車とかこまめにやる方なんだよね」
「そうなんだ。それにしても凄いですね、狛枝さんの不運とかで壊れたりしないだなんて」
「ああ、本当に大切に思っているものは“ボクの幸運”によって不運を弾き返すんだ。凄いでしょう?」
「そんなのもあるんですね。さすがは超高校級」
「元、だけどね」
ふふ、と二人で顔を見合せながら笑う。
狛枝さんと共に車の中に乗り込む。もちろんのこと、狛枝さんが運転席で、私が助手席に座った(私はまだ高校生だから、運転免許証は持っていないのだ)。
狛枝さんはシートベルトを締めると、シリンダーにキーを差し込み、車のエンジンをかける。
「じゃあ、行こうか」
狛枝さんの店は、所謂繁華街の裏道にある。だから、店周辺は人通りが少なくて、なんだか怖い雰囲気がある。けれど、車に乗ると、数分もしないうちに沢山の人やビルや光が見えてくる。
「夜景、綺麗だな……。ビルがいっぱいある」
「本当だ、素敵だねぇ」
片手でハンドルを握りながら、狛枝さんは外の景色を眺めていた。
狛枝さんの横顔は、とても綺麗だ。鼻筋がツンと通っていて、まつ毛が長くて、唇も薄くてセクシー。そんな彼がうっとりと外を眺めている姿は、立派な絵になっていて、思わず見惚れてしまう。
「狛枝さん、本当に綺麗な顔立ちをしていますよね」
「……え、本当に? まさか、そんなこというのは名前ちゃんだけだよ、ボク母親にすら褒められたことなかったよ」
「いやあ嘘だ、私狛枝さんより綺麗な人、生まれてから見たことないや」
「ふふ、本当? お世辞でも嬉しいなあ」
(お世辞じゃないのになあ……)
狛枝さんはこちらに視線をやると、照れたように顔を赤らめ、はにかんだ。第一印象では、ミステリアスで人間的な部分を感じられない彼の言動は、意外と普通の人間らしい。私は狛枝さんのそんな所が好きだったりする。
外の景色やら、雑談やらを楽しんでいるうちに、あっという間に私の住むアパートへと到着していた。
「キミが家に入るまで、着いていくからね。万が一何かがあったら怖いから」
「わかった、ありがとう。狛枝さん」
狛枝さんは私の手荷物(といっても、小さなハンドバッグ一つだけだ)を持ってくれた。遠慮したら、「そんな、女の子と二人きりでボクが持たないなんておかしいでしょ」と言われてしまった。つくづく優しくて、女心を理解している人だ。そして、ドライブといい荷物を持ってくれたりといい、なんだかデートみたいだと心の隅で思う。
いけないいけない、私は高校生で、狛枝さんは成人した男性なのだから。それに、こんなに素敵な人に、彼女の一人や二人、いない訳がないじゃないか。
階段を登り、二階にある私の部屋へと二人で向かった。
そして私は、ドアの前で足を止める。
また出処不明な怪しげな封筒が、ドアにガムテープで貼り付けられていたからだ。
「……どうしよう、どうしよう、どうしよう」
呼吸が乱れ、口を抑える。はあはあと浅い呼吸を繰り返す。心臓が大きく音を鳴らし頭の中で響いた。
狛枝さんは顎に手をやり、平常よりも潜めがちな声で呟く。
「名前ちゃん……、とりあえず封筒だけ取っておいて警察に行こうか。あと、やっぱり名前ちゃんはこの家にいたら危ないよ」
狛枝さんはスマホでドアの写真を撮ると、ガムテープごと封筒をドアから剥がし、狛枝さんの持つトートバッグの中に突っ込んだ。
「でも、私、親のところなんていけない。お金だってないから引っ越せないし、私の居場所が——」
私には居場所なんてないのだ。自分の家と、バイト先と、狛枝さんの元くらいにしか。
「だったら……、さっきも言ったけど、ボクの家に来るという選択肢も一応あるよ。嫌かもしれないけど……、でも、名前ちゃんがいいのなら、ボクは歓迎する」
狛枝さんはいつだって優しい。きっと無理しているのだろうな、と思う。だって、私が狛枝さんだったら、バイト先の小娘を家に迎えるのは、面倒だしプライバシーを侵害されそうで嫌だから。いくら彼がお人好しで優しい人間だからって、私は彼に迷惑をかけたくなかった。それ以上に、迷惑をかけることによって、彼に嫌われたくなかった。私は狛枝さんがいないと一人ぼっちだから。
「でも私、これ以上狛枝さんに負担をかけたくないの」
「大丈夫、何一つボクにとっては負担ではないから。ボクは、名前ちゃんのことを大切に思ってるから、ボク自身が心から名前ちゃんの助けになることを望んでいるんだ。わかる? だからお願い、ボクのことを頼って」
狛枝さんは私の肩を抱いた。軽くではあったが、人からかけられる体重というのは心地よかった。
私は、狛枝さんに頼るしかないのだ。彼に迷惑をかけたくはないけれど、これ以上今のアパートに住み続けるのはさすがに危険だ。だから、今回ばかりは仕方ない。
「……ありがとう、狛枝さん」
私は狛枝さんの目を見る。
「いや、全然だよ。じゃあまた車に乗って。今日はもう夜遅いし、警察はまた明日行こうね」
狛枝さんも私の目を見つめた。狛枝さんは柔らかく微笑を浮かべていた。
狛枝さんは鍵を鍵穴に差し込んでひねり、ドアノブを何度かガチャガチャと捻った。それでも扉があかないことを確認してから、狛枝さんは私に笑いかける。
「本当に、大変だったらお気遣い結構ですよ?」
「ううん、全然大変じゃないよ、それに、ボクとしてはドライブになって楽しいからさ。遠慮しないの」
二人並んで駐車場までの道を歩く。狭い道路で、人通りも車通りも、街灯も少ない。暗くて、今にも変質者が出てきそうなところだと思う。昨日のこともあってかとても怖い。でも、隣に狛枝さんがいるから、ちょっと安心だ。
狛枝さんは私のことを庇うように、ずっと狭い白線の外側を歩いていてくれた。
狛枝さんは本当に優しい人だ。
駐車場に着くと、沢山一般的な国内車が並んでいる中に、一つだけ明らかに浮いている車があった。もちろん、狛枝さんの所有車である。
狛枝さんの車は1980年代の外車だという。デザインが少し個性的で、レトロチックだ。車のライト(狛枝さん曰く、バンパーというらしい)部分の形が現代のものとはやや違う。けれど、そこが素敵だ。表面にはツヤツヤとした光沢があって、古くささは一切感じられなかった。狛枝さんらしい車だと思う。
「狛枝さんの愛車、レトロチックなのに、本当に綺麗ですよね」
「これも両親から受け継いだ遺産のひとつなんだ。だから大切にしたくてさ。あとボク綺麗好きだから、結構洗車とかこまめにやる方なんだよね」
「そうなんだ。それにしても凄いですね、狛枝さんの不運とかで壊れたりしないだなんて」
「ああ、本当に大切に思っているものは“ボクの幸運”によって不運を弾き返すんだ。凄いでしょう?」
「そんなのもあるんですね。さすがは超高校級」
「元、だけどね」
ふふ、と二人で顔を見合せながら笑う。
狛枝さんと共に車の中に乗り込む。もちろんのこと、狛枝さんが運転席で、私が助手席に座った(私はまだ高校生だから、運転免許証は持っていないのだ)。
狛枝さんはシートベルトを締めると、シリンダーにキーを差し込み、車のエンジンをかける。
「じゃあ、行こうか」
狛枝さんの店は、所謂繁華街の裏道にある。だから、店周辺は人通りが少なくて、なんだか怖い雰囲気がある。けれど、車に乗ると、数分もしないうちに沢山の人やビルや光が見えてくる。
「夜景、綺麗だな……。ビルがいっぱいある」
「本当だ、素敵だねぇ」
片手でハンドルを握りながら、狛枝さんは外の景色を眺めていた。
狛枝さんの横顔は、とても綺麗だ。鼻筋がツンと通っていて、まつ毛が長くて、唇も薄くてセクシー。そんな彼がうっとりと外を眺めている姿は、立派な絵になっていて、思わず見惚れてしまう。
「狛枝さん、本当に綺麗な顔立ちをしていますよね」
「……え、本当に? まさか、そんなこというのは名前ちゃんだけだよ、ボク母親にすら褒められたことなかったよ」
「いやあ嘘だ、私狛枝さんより綺麗な人、生まれてから見たことないや」
「ふふ、本当? お世辞でも嬉しいなあ」
(お世辞じゃないのになあ……)
狛枝さんはこちらに視線をやると、照れたように顔を赤らめ、はにかんだ。第一印象では、ミステリアスで人間的な部分を感じられない彼の言動は、意外と普通の人間らしい。私は狛枝さんのそんな所が好きだったりする。
外の景色やら、雑談やらを楽しんでいるうちに、あっという間に私の住むアパートへと到着していた。
「キミが家に入るまで、着いていくからね。万が一何かがあったら怖いから」
「わかった、ありがとう。狛枝さん」
狛枝さんは私の手荷物(といっても、小さなハンドバッグ一つだけだ)を持ってくれた。遠慮したら、「そんな、女の子と二人きりでボクが持たないなんておかしいでしょ」と言われてしまった。つくづく優しくて、女心を理解している人だ。そして、ドライブといい荷物を持ってくれたりといい、なんだかデートみたいだと心の隅で思う。
いけないいけない、私は高校生で、狛枝さんは成人した男性なのだから。それに、こんなに素敵な人に、彼女の一人や二人、いない訳がないじゃないか。
階段を登り、二階にある私の部屋へと二人で向かった。
そして私は、ドアの前で足を止める。
また出処不明な怪しげな封筒が、ドアにガムテープで貼り付けられていたからだ。
「……どうしよう、どうしよう、どうしよう」
呼吸が乱れ、口を抑える。はあはあと浅い呼吸を繰り返す。心臓が大きく音を鳴らし頭の中で響いた。
狛枝さんは顎に手をやり、平常よりも潜めがちな声で呟く。
「名前ちゃん……、とりあえず封筒だけ取っておいて警察に行こうか。あと、やっぱり名前ちゃんはこの家にいたら危ないよ」
狛枝さんはスマホでドアの写真を撮ると、ガムテープごと封筒をドアから剥がし、狛枝さんの持つトートバッグの中に突っ込んだ。
「でも、私、親のところなんていけない。お金だってないから引っ越せないし、私の居場所が——」
私には居場所なんてないのだ。自分の家と、バイト先と、狛枝さんの元くらいにしか。
「だったら……、さっきも言ったけど、ボクの家に来るという選択肢も一応あるよ。嫌かもしれないけど……、でも、名前ちゃんがいいのなら、ボクは歓迎する」
狛枝さんはいつだって優しい。きっと無理しているのだろうな、と思う。だって、私が狛枝さんだったら、バイト先の小娘を家に迎えるのは、面倒だしプライバシーを侵害されそうで嫌だから。いくら彼がお人好しで優しい人間だからって、私は彼に迷惑をかけたくなかった。それ以上に、迷惑をかけることによって、彼に嫌われたくなかった。私は狛枝さんがいないと一人ぼっちだから。
「でも私、これ以上狛枝さんに負担をかけたくないの」
「大丈夫、何一つボクにとっては負担ではないから。ボクは、名前ちゃんのことを大切に思ってるから、ボク自身が心から名前ちゃんの助けになることを望んでいるんだ。わかる? だからお願い、ボクのことを頼って」
狛枝さんは私の肩を抱いた。軽くではあったが、人からかけられる体重というのは心地よかった。
私は、狛枝さんに頼るしかないのだ。彼に迷惑をかけたくはないけれど、これ以上今のアパートに住み続けるのはさすがに危険だ。だから、今回ばかりは仕方ない。
「……ありがとう、狛枝さん」
私は狛枝さんの目を見る。
「いや、全然だよ。じゃあまた車に乗って。今日はもう夜遅いし、警察はまた明日行こうね」
狛枝さんも私の目を見つめた。狛枝さんは柔らかく微笑を浮かべていた。