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感謝の気持ち

遊郭での戦いで深い傷を負った宇髄さんは、柱を退いてしまった。
それでも鬼殺隊の柱としての功績は非常に大きく、退いてからもお館様から宇髄さんへのお遣いが時折あり、なぜかいつも私が指名される。
宇髄さんのお家へ着いた途端、お屋敷内からものすごい音が聞こえて、思わず肩をすくめた。
「お前ら、もうちょっとおとなしく…!」
「誰のせいで喧嘩してると思ってるんですか!!」
「そうですよ、天元様!」
「私は何とも思ってないんですけど……。」
3人の奥様方に押されている宇髄さんの声がどんどん私のほうへ近づいてきて、あの喧嘩には巻き込まれたくないと切に願ったが、全くの無意味だった。
「おい!入口で盗み聞きしてるぐらいなら、お前も俺に加勢しろ!派手に!!」
「お断りいたします!私は地味に生きていたいんです!!」
「あっそ。で?今日は何の用なわけ?」
「お館様から預かり物がございまして、お届けに参りました。」
「毎度毎度、ご苦労なこった。おい、須磨、まきを、雛鶴、あっちでやってろ。」
「はーい。」
3人の奥様は静かにお屋敷の奥へ戻ったかと思うと、また言い合いを始めた。
「…にぎやかなお家ですね。」
「まあな。女が3人揃ったらあんなもんだろ。毎日あんなだから退屈はしてねえ。それに、あいつらも幸せそうだしな。」
「宇髄さんは幸せですか?」
「ああ。あいつらが幸せなら、俺はそれで十分だ。」
宇髄さんは遊郭での戦いで左目と左手を失ったけれど、そんなことは関係なく、今の生活に満足しているようだった。
奥様方が幸せならそれでいいだなんて、なんと素晴らしいご主人なんだと思った。
「宇髄さんが幸せならよかったです。」
「お前、俺が元気ないんじゃないかって、心配してたんだろ?」
「どうしてそれを……。」
「お館様が教えてくださったんだ。気にかけてくれて、ありがとよ。」
「いえ…。あの戦いで失くしたものが多かったんじゃないかと思ったんです。」
「そうでもねえよ。左目も左手も失ったが、あいつらとの穏やかな暮らしが手に入ったしな。もう、隠れて暮らさなくていいだけ幸せだ。」
「そうですか。宇髄さんが大丈夫なら、安心ですね。」
「おう。ありがとよ。」
宇髄さんはそう言いながら、私の頭をぽんぽんと撫でた。宇髄さんの暖かい手に安堵した…のも束の間だった。
「あ!ちょっと!!天元様があの子の頭撫でてる!!」
「何してるんですか!私たちという妻がありながら!!」
「天元様は誰にでも優しいでしょう…。」
「そんなことない!」
またしても始まった奥様3人の言い合いの合間を縫って、宇髄さんは私に話しかけてくれた。
「……お前、早いとこ帰ったほうがいいぞ。」
「…はい、そうします。」
「お館様によろしく伝えてくれ。」
「承知しました。」
「また遊びに来いよ。みんなで待ってるぜ。」
「はい。」
「今日もありがとよ。」
宇髄さんはそう言って、にぎやかなお屋敷へと戻っていった。
幸せな雰囲気をまとっている宇髄さんを見て、私の心は少しだけ軽くなった。

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