君が知らなくとも
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ついにこの日が来てしまった。なんだか学校中の女子がざわついている気がする。
そして、学校中の男子が変な風にそわそわしている気がする。
今日はそう、2月14日、その日なのです。
投稿して早々、校門前では女子生徒から半ば押し付け気味にチョコレートを渡されている冨岡先生がいた。
「チョコは校則違反だぞ!」
と竹刀を右手にして言っているものの、もう片方の手には女子生徒から押し付けられたであろう、手提げ袋に入ったチョコらしき物があって、なんなら既に重そうだった。
「おはようございます。冨岡先生、説得力ないですよ。」
「うるさい。それより、あいつを何とかしろ。お前の彼氏だろう。」
冨岡先生にそう言われて、先生の視線の先を見ると、そこには恐ろしい顔をした善逸くんがいた。
「すごい顔してますね…。」
「ここに来てからずっとあの顔で俺を見ている。もう疲れた。」
「説得してきますね。」
「頼んだ。」
私は善逸くんの元へ行って、話しかけた。
「善逸くん、おはよう。」
「あ!舞智華ちゃん、おはよう!」
さっきまでの恐ろしい形相はどこへやら、まるで花が咲いたかのような笑顔で私に挨拶をしてくれた。
「さっきすごい顔してたけど、どうしたの?」
「校則違反とか言いながら、左手に大量にチョコを持っている冨岡先生のことが恨めしくて。」
「恨めしい…。」
「俺はいつまであれを見てればいいわけ?」
「挨拶運動が終わるまでだよ。」
「えー、まだ5分もあるよ。俺つらいよ、舞智華ちゃん…。」
「がんばって!」
「待ってよぉおお、舞智華ちゃぁああん!!」
喚く善逸くんを校門に置き去りにして、私は教室へと向かった。
教室に着くと、そこではすでに女子同士のチョコレート交換会が催されていて、私も仲のいい友達といくつか交換した。
教室中にいつもより甘い香りがただよっている。
「チョコレートのいいにおいがするな。」
と、さわやかな笑顔で炭治郎くんが話しかけてきた。
「うん、そうだね。におい、きつくないの?」
「今のところは大丈夫だよ。全部おいしそうなにおいだし、カカオが強めなのも弱めなのもあって、いい香りだな、って思ってる。」
「そうなんだね。あ、炭治郎くん、これどうぞ。」
「え、俺に?」
「うん。いつも善逸くんとのことで話を聞いてもらってるし。そのお礼。」
「ありがとう!でも、善逸にばれたら怒られそうだ。」
「うん、だから早めにしまっておいて。」
「わかった。舞智華、ありがとう。」
「いえいえ。」
「おい、俺様にはねえのか、舞智華。」
「あ、おはよう、伊之助くん。はい、これが伊之助くんの分ね。」
「ありがとよ。」
「自分から請求しておいて、よく言うわよ。」
「伊之助、自分からよこせって言ったのか?」
「あ?だってこいつが紋逸に何あげたらいいかって聞いてきたからよ。」
「でも、あんまりいい答えはくれなかったよね。」
「あー、確かにあの日はいろいろあった気がする。」
「伊之助くん、私に善逸くんがモテるってことだけ教えてくれたのに、チョコ請求してくるんだもん。」
「伊之助…。ちょっとひどいぞ。」
「いいだろ、別に。あとでありがたくいただくぜ。」
伊之助くんがそう言ったところで、チャイムが鳴った。
校門から大急ぎで走ってきた善逸くんが大汗をかきながら、教室に入ってきた。
「なんか、みんなすっごく楽しそうな音がしてる…!!ねえ、どういうこと!!!」
開口一番そう言うと同時に、悲鳴嶼先生に「座りなさい」と諭されていた。なんだか私もちょっと恥ずかしかった。
そんな善逸くんの手元を見ると、小さな子袋を2つほど手にしていて、私は少しもやっとした。
授業が終わるとすぐに、善逸くんは誰かしらに教室の外に呼び出されていて、戻ってくると小さな子袋を持っているというのが休み時間ごとに繰り返された。
炭治郎くんと伊之助くんにチョコレートをあげておきながら言うのもなんだけど、なんだかもやもやしてしまった。
前々から、今日の帰りは善逸くんと一緒に帰るという約束をしていたから、私は一緒に帰ることを楽しみにしていた。
帰るときに、善逸くんにチョコレートを渡そうと決めていた。でも、休み時間ごとに子袋が増える彼を見ていて、少しだけ不安になってしまった。
「善逸、忙しそうだな…。」
「ね。」
「ほかの女のチョコなんか断ればいいじゃねえか。」
「善逸も優しいから、そういうことはできないんだと思う。」
「はっ、彼女いんのにな。」
「伊之助くん…。」
「ま、関係ねえけど。」
「伊之助…。」
こんな会話を今日は休み時間ごとに繰り返していた。
そんなとある休み時間のことだった。
廊下から女子生徒の耳が割れそうになる黄色い歓声が聞こえてきたと同時に、「ありがとな。」という聞き慣れた声が聞こえてきた。
炭治郎くんと伊之助くんと3人で教室の入り口からそっと廊下を覗いてみると、案の定、そこには恋愛の神がいた。
「相変わらずド派手だな、あいつ。」
「宇髄先生、女子からすごく人気があるから、今日は忙しいだろうな。」
「そうだねー。」
「あ!あいつ!今、女子の頭撫でたぞ!」
「宇髄先生はよくやるよ。」
「え、炭治郎くん、見たことあるの?」
「うん、よく見るよ。子どもの頭を撫でてる感じなんだろうな、って思って見てるよ。」
「そうなんだ。」
遠くから覗いていると、ふと宇髄先生と目が合った気がした。
そういえば、私も宇髄先生にチョコを用意していたことを思い出した。
「私、あの輪の中に入ってくるね。」
「え?」
「お前、正気か?」
「善逸に怒られないか?」
「個別に渡すほうが怒る気がする。」
「確かに。」
「ちょっと行ってくるね。」
「気を付けて!」
炭治郎くんが「気を付けて!」と送り出してくれたけど、果たして何を気を付けたらいいのだろうか…?
と思いつつ、私は宇髄先生を囲んでいる女子生徒の輪の中にしれっと入った。
きゃあきゃあ言う女生徒の声に私の声がかき消されて、宇髄先生に話しかけられないんじゃないかと思っていると、「常野重、どうした?」と宇髄先生から声をかけてくれた。一斉に女生徒の視線が私に向けられた。
怖っ!女の変な嫉妬を感じるよ、この視線の威圧感…!こっわ!!炭治郎くんが言っていた「気を付けて」はこれかと思った。
その威圧的な視線に押しつぶされないように、勇気を出して宇髄先生にチョコレートを差し出した。
「先生、いつもありがとうございます。日頃のお礼です。少しですけど、どうぞ。」
私がそう言うと、いつもよりも優しい視線を送ってくれて、他の女生徒にもしていたように私の頭をポンポンとした。
「ありがたくいただくぜ。」
宇髄先生のそのセリフを聞いて、周りの女子がまた黄色い歓声をあげている。
耳が痛いので、私はチョコを渡してそそくさとその場を離れた。
「…舞智華ちゃん、なんであいつにチョコ渡してんの?」
「善逸くん!見てたの!?」
「あいつ…俺の舞智華ちゃんの頭、勝手に撫でてたし…!教師としてどうなの!?」
「みんなにやってるから…」
「だから教師としてどうなの、って言ってるんだよ!!」
「まあまあ、落ち着いて…。私はなんとも思ってないから。」
「本当?」
「本当だよ。私にとってのいちばんは善逸くんだよ。」
私がそういうと、顔を真っ赤にして喜ぶ善逸くん。…なんかちょろいぞ、私の彼氏?と思った。
そして一日の授業が全部終わって、帰りの時間になった。
「炭治郎、今日はチョコもらった?」
「うん、もらったよ。」
「いくつもらった?」
「数より、くれた人の気持ちが俺は嬉しいよ。」
「…あっそ。優等生の答えだな。」
「そんなことないぞ。」
「伊之助はもらってないんだろ、どうせ。」
「あ?もらったに決まってんだろ。」
「なんでだよ!なんでお前がもらえるんだよ!」
「お前、俺のことなんだと思ってんだ!?」
「お前みたいな野生児にチョコレートくれるなんて、その子は本当に女神だよね!」
「そうだな。」
「え、何急に冷静になってんの、気持ち悪っ。」
「うるせえな…。で?お前は何個もらったんだよ。」
「え、ええーっと…」
「お前こそ、今日の休み時間、全然いなかったじゃねえか。」
「そうだぞ、善逸。」
「戻ってくるたびに、手に小さな袋持ってるから…。モテるんだなって思ってみてたよ、善逸くん。」
「舞智華ちゃん…ごめんね。」
「で、いくつもらったの?善逸くん。」
「…6個。」
「中途半端だな、おい。」
「うるさい、伊之助!!」
このままここにいると善逸くんと伊之助くんの喧嘩が始まりそうだったので、「善逸くん、帰ろっか。」と声をかけると「うん、帰ろう!」と返事が来た。
二人でゆっくり善逸くんの家に向かって帰り道を歩いていると、隣からすっと手が伸びてきて、遠慮気味に私の手に触れた。
「善逸くん…?」
「手、繋いでいい?」
「うん。」
初めて手をつなぐわけでもないのに、何だか小恥ずかしくて、初々しい雰囲気で手をつないでしまった。
「今日、いろんな女の子からチョコもらったんだね。」
「うん。告白してくる子もいたけど、ちゃんと断ったから安心してね。」
「うん。」
「…俺、まだ舞智華ちゃんからのチョコ、もらってないんだけど?」
「あとであげるよ。」
「今じゃダメなの?」
「うん、まだあげない。」
「舞智華ちゃんの意地悪。」
そう言いながらどこか嬉しそうな善逸くんと、手をつないだままゆっくり歩きながらいろいろ話していたら、あっという間に善逸くんの家についた。
「お邪魔します。」
「どうぞ。」
部屋に入ると、前に着たときに借りた部屋着も置いてあったし、部屋もきれいに片付けてあった。
私が来るからきれいにしてくれたんだと思ったら、心が少し軽くなった。
「適当に座ってて。飲み物持って来るよ。」
「うん、ありがとう。あ、フォークがあったら2本、貸してほしいな。」
「わかったよ。あ、よかったら着替えて楽にしててね。」
「うん。」
用意してくれていた部屋着に着替えて、座ってゆっくりしつつ、私は善逸くんのために用意したチョコを机の上に置いて、善逸くんが来るのを待った。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。それから、お待たせしました。これ、どうぞ。」
「え!すっごい大きいじゃん!!これ、舞智華ちゃんが作ったの!?」
「うん。一緒に食べたかったから、ブラウニー作ってみたんだ。」
「おいしそう!舞智華ちゃん、ありがとう。一緒に食べようね!」
「うん!」
そう言って善逸くんが自分でブラウニーを食べようとしていたので、私はその手をそっと止めた。
「ん?どうしたの?」
「はい、あーん。」
「え、ちょっと舞智華ちゃん、どうしたの!?嬉しいけど、恥ずかしいけど、嬉しい…!」
そう言って、善逸くんは鼻血を垂らしながら、私が作ったブラウニーを食べてくれた。
「善逸くん…鼻血…」
「ご…ごめんよ、舞智華ちゃん。あーん、が嬉しかったから鼻血出ちゃって…。」
「味、どう?」
「すごくおいしいよ!俺のこと考えながら作ってくれたのもよくわかるしね。」
「そう言ってもらえると嬉しい。」
「舞智華ちゃん、本当にありがとう。俺、すっごく嬉しい。」
「え?」
「まさか、バレンタインに彼女に手作りのブラウニーをもらえる日がくるなんて思ってなかったからさ。」
「ほんとだね。」
「全部、舞智華ちゃんのおかげだよ。本当にありがとう。」
善逸くんはそう言うと、私のことをそっと抱きしめて、そして優しくキスをしてくれた。
「善逸くん…チョコの味する。」
「じゃあ…舞智華ちゃんも食べたら、チョコの味になるね。」
「え?」
「はい、あーん。」
「…恥ずかしいね。」
「でしょ?俺が鼻血出した気持ち、わかってくれる?」
「うん。」
そう返事をしながら差し出されたブラウニーを食べた。我ながらおいしくできたな、と思っていると、また善逸くんが口づけてきた。
「うん、舞智華ちゃんもチョコの味するね。」
「…ますます恥ずかしいね。」
「いいじゃん。二人ともチョコの味なんだから。」
「そうだね。」
「ゆっくり話しながら食べよう。」
「うん。」
「本当にありがとう、舞智華ちゃん。大好きだよ。」
「ありがとう。」
そのあとは二人でブラウニーを食べながら他愛のない話をして、恋人らしい過ごし方をしてその日を終えた。
甘いものが好きな善逸くんに喜んでもらえて、そして甘い時間を過ごせて、嬉しいバレンタインになったと感じた。
そして、学校中の男子が変な風にそわそわしている気がする。
今日はそう、2月14日、その日なのです。
投稿して早々、校門前では女子生徒から半ば押し付け気味にチョコレートを渡されている冨岡先生がいた。
「チョコは校則違反だぞ!」
と竹刀を右手にして言っているものの、もう片方の手には女子生徒から押し付けられたであろう、手提げ袋に入ったチョコらしき物があって、なんなら既に重そうだった。
「おはようございます。冨岡先生、説得力ないですよ。」
「うるさい。それより、あいつを何とかしろ。お前の彼氏だろう。」
冨岡先生にそう言われて、先生の視線の先を見ると、そこには恐ろしい顔をした善逸くんがいた。
「すごい顔してますね…。」
「ここに来てからずっとあの顔で俺を見ている。もう疲れた。」
「説得してきますね。」
「頼んだ。」
私は善逸くんの元へ行って、話しかけた。
「善逸くん、おはよう。」
「あ!舞智華ちゃん、おはよう!」
さっきまでの恐ろしい形相はどこへやら、まるで花が咲いたかのような笑顔で私に挨拶をしてくれた。
「さっきすごい顔してたけど、どうしたの?」
「校則違反とか言いながら、左手に大量にチョコを持っている冨岡先生のことが恨めしくて。」
「恨めしい…。」
「俺はいつまであれを見てればいいわけ?」
「挨拶運動が終わるまでだよ。」
「えー、まだ5分もあるよ。俺つらいよ、舞智華ちゃん…。」
「がんばって!」
「待ってよぉおお、舞智華ちゃぁああん!!」
喚く善逸くんを校門に置き去りにして、私は教室へと向かった。
教室に着くと、そこではすでに女子同士のチョコレート交換会が催されていて、私も仲のいい友達といくつか交換した。
教室中にいつもより甘い香りがただよっている。
「チョコレートのいいにおいがするな。」
と、さわやかな笑顔で炭治郎くんが話しかけてきた。
「うん、そうだね。におい、きつくないの?」
「今のところは大丈夫だよ。全部おいしそうなにおいだし、カカオが強めなのも弱めなのもあって、いい香りだな、って思ってる。」
「そうなんだね。あ、炭治郎くん、これどうぞ。」
「え、俺に?」
「うん。いつも善逸くんとのことで話を聞いてもらってるし。そのお礼。」
「ありがとう!でも、善逸にばれたら怒られそうだ。」
「うん、だから早めにしまっておいて。」
「わかった。舞智華、ありがとう。」
「いえいえ。」
「おい、俺様にはねえのか、舞智華。」
「あ、おはよう、伊之助くん。はい、これが伊之助くんの分ね。」
「ありがとよ。」
「自分から請求しておいて、よく言うわよ。」
「伊之助、自分からよこせって言ったのか?」
「あ?だってこいつが紋逸に何あげたらいいかって聞いてきたからよ。」
「でも、あんまりいい答えはくれなかったよね。」
「あー、確かにあの日はいろいろあった気がする。」
「伊之助くん、私に善逸くんがモテるってことだけ教えてくれたのに、チョコ請求してくるんだもん。」
「伊之助…。ちょっとひどいぞ。」
「いいだろ、別に。あとでありがたくいただくぜ。」
伊之助くんがそう言ったところで、チャイムが鳴った。
校門から大急ぎで走ってきた善逸くんが大汗をかきながら、教室に入ってきた。
「なんか、みんなすっごく楽しそうな音がしてる…!!ねえ、どういうこと!!!」
開口一番そう言うと同時に、悲鳴嶼先生に「座りなさい」と諭されていた。なんだか私もちょっと恥ずかしかった。
そんな善逸くんの手元を見ると、小さな子袋を2つほど手にしていて、私は少しもやっとした。
授業が終わるとすぐに、善逸くんは誰かしらに教室の外に呼び出されていて、戻ってくると小さな子袋を持っているというのが休み時間ごとに繰り返された。
炭治郎くんと伊之助くんにチョコレートをあげておきながら言うのもなんだけど、なんだかもやもやしてしまった。
前々から、今日の帰りは善逸くんと一緒に帰るという約束をしていたから、私は一緒に帰ることを楽しみにしていた。
帰るときに、善逸くんにチョコレートを渡そうと決めていた。でも、休み時間ごとに子袋が増える彼を見ていて、少しだけ不安になってしまった。
「善逸、忙しそうだな…。」
「ね。」
「ほかの女のチョコなんか断ればいいじゃねえか。」
「善逸も優しいから、そういうことはできないんだと思う。」
「はっ、彼女いんのにな。」
「伊之助くん…。」
「ま、関係ねえけど。」
「伊之助…。」
こんな会話を今日は休み時間ごとに繰り返していた。
そんなとある休み時間のことだった。
廊下から女子生徒の耳が割れそうになる黄色い歓声が聞こえてきたと同時に、「ありがとな。」という聞き慣れた声が聞こえてきた。
炭治郎くんと伊之助くんと3人で教室の入り口からそっと廊下を覗いてみると、案の定、そこには恋愛の神がいた。
「相変わらずド派手だな、あいつ。」
「宇髄先生、女子からすごく人気があるから、今日は忙しいだろうな。」
「そうだねー。」
「あ!あいつ!今、女子の頭撫でたぞ!」
「宇髄先生はよくやるよ。」
「え、炭治郎くん、見たことあるの?」
「うん、よく見るよ。子どもの頭を撫でてる感じなんだろうな、って思って見てるよ。」
「そうなんだ。」
遠くから覗いていると、ふと宇髄先生と目が合った気がした。
そういえば、私も宇髄先生にチョコを用意していたことを思い出した。
「私、あの輪の中に入ってくるね。」
「え?」
「お前、正気か?」
「善逸に怒られないか?」
「個別に渡すほうが怒る気がする。」
「確かに。」
「ちょっと行ってくるね。」
「気を付けて!」
炭治郎くんが「気を付けて!」と送り出してくれたけど、果たして何を気を付けたらいいのだろうか…?
と思いつつ、私は宇髄先生を囲んでいる女子生徒の輪の中にしれっと入った。
きゃあきゃあ言う女生徒の声に私の声がかき消されて、宇髄先生に話しかけられないんじゃないかと思っていると、「常野重、どうした?」と宇髄先生から声をかけてくれた。一斉に女生徒の視線が私に向けられた。
怖っ!女の変な嫉妬を感じるよ、この視線の威圧感…!こっわ!!炭治郎くんが言っていた「気を付けて」はこれかと思った。
その威圧的な視線に押しつぶされないように、勇気を出して宇髄先生にチョコレートを差し出した。
「先生、いつもありがとうございます。日頃のお礼です。少しですけど、どうぞ。」
私がそう言うと、いつもよりも優しい視線を送ってくれて、他の女生徒にもしていたように私の頭をポンポンとした。
「ありがたくいただくぜ。」
宇髄先生のそのセリフを聞いて、周りの女子がまた黄色い歓声をあげている。
耳が痛いので、私はチョコを渡してそそくさとその場を離れた。
「…舞智華ちゃん、なんであいつにチョコ渡してんの?」
「善逸くん!見てたの!?」
「あいつ…俺の舞智華ちゃんの頭、勝手に撫でてたし…!教師としてどうなの!?」
「みんなにやってるから…」
「だから教師としてどうなの、って言ってるんだよ!!」
「まあまあ、落ち着いて…。私はなんとも思ってないから。」
「本当?」
「本当だよ。私にとってのいちばんは善逸くんだよ。」
私がそういうと、顔を真っ赤にして喜ぶ善逸くん。…なんかちょろいぞ、私の彼氏?と思った。
そして一日の授業が全部終わって、帰りの時間になった。
「炭治郎、今日はチョコもらった?」
「うん、もらったよ。」
「いくつもらった?」
「数より、くれた人の気持ちが俺は嬉しいよ。」
「…あっそ。優等生の答えだな。」
「そんなことないぞ。」
「伊之助はもらってないんだろ、どうせ。」
「あ?もらったに決まってんだろ。」
「なんでだよ!なんでお前がもらえるんだよ!」
「お前、俺のことなんだと思ってんだ!?」
「お前みたいな野生児にチョコレートくれるなんて、その子は本当に女神だよね!」
「そうだな。」
「え、何急に冷静になってんの、気持ち悪っ。」
「うるせえな…。で?お前は何個もらったんだよ。」
「え、ええーっと…」
「お前こそ、今日の休み時間、全然いなかったじゃねえか。」
「そうだぞ、善逸。」
「戻ってくるたびに、手に小さな袋持ってるから…。モテるんだなって思ってみてたよ、善逸くん。」
「舞智華ちゃん…ごめんね。」
「で、いくつもらったの?善逸くん。」
「…6個。」
「中途半端だな、おい。」
「うるさい、伊之助!!」
このままここにいると善逸くんと伊之助くんの喧嘩が始まりそうだったので、「善逸くん、帰ろっか。」と声をかけると「うん、帰ろう!」と返事が来た。
二人でゆっくり善逸くんの家に向かって帰り道を歩いていると、隣からすっと手が伸びてきて、遠慮気味に私の手に触れた。
「善逸くん…?」
「手、繋いでいい?」
「うん。」
初めて手をつなぐわけでもないのに、何だか小恥ずかしくて、初々しい雰囲気で手をつないでしまった。
「今日、いろんな女の子からチョコもらったんだね。」
「うん。告白してくる子もいたけど、ちゃんと断ったから安心してね。」
「うん。」
「…俺、まだ舞智華ちゃんからのチョコ、もらってないんだけど?」
「あとであげるよ。」
「今じゃダメなの?」
「うん、まだあげない。」
「舞智華ちゃんの意地悪。」
そう言いながらどこか嬉しそうな善逸くんと、手をつないだままゆっくり歩きながらいろいろ話していたら、あっという間に善逸くんの家についた。
「お邪魔します。」
「どうぞ。」
部屋に入ると、前に着たときに借りた部屋着も置いてあったし、部屋もきれいに片付けてあった。
私が来るからきれいにしてくれたんだと思ったら、心が少し軽くなった。
「適当に座ってて。飲み物持って来るよ。」
「うん、ありがとう。あ、フォークがあったら2本、貸してほしいな。」
「わかったよ。あ、よかったら着替えて楽にしててね。」
「うん。」
用意してくれていた部屋着に着替えて、座ってゆっくりしつつ、私は善逸くんのために用意したチョコを机の上に置いて、善逸くんが来るのを待った。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。それから、お待たせしました。これ、どうぞ。」
「え!すっごい大きいじゃん!!これ、舞智華ちゃんが作ったの!?」
「うん。一緒に食べたかったから、ブラウニー作ってみたんだ。」
「おいしそう!舞智華ちゃん、ありがとう。一緒に食べようね!」
「うん!」
そう言って善逸くんが自分でブラウニーを食べようとしていたので、私はその手をそっと止めた。
「ん?どうしたの?」
「はい、あーん。」
「え、ちょっと舞智華ちゃん、どうしたの!?嬉しいけど、恥ずかしいけど、嬉しい…!」
そう言って、善逸くんは鼻血を垂らしながら、私が作ったブラウニーを食べてくれた。
「善逸くん…鼻血…」
「ご…ごめんよ、舞智華ちゃん。あーん、が嬉しかったから鼻血出ちゃって…。」
「味、どう?」
「すごくおいしいよ!俺のこと考えながら作ってくれたのもよくわかるしね。」
「そう言ってもらえると嬉しい。」
「舞智華ちゃん、本当にありがとう。俺、すっごく嬉しい。」
「え?」
「まさか、バレンタインに彼女に手作りのブラウニーをもらえる日がくるなんて思ってなかったからさ。」
「ほんとだね。」
「全部、舞智華ちゃんのおかげだよ。本当にありがとう。」
善逸くんはそう言うと、私のことをそっと抱きしめて、そして優しくキスをしてくれた。
「善逸くん…チョコの味する。」
「じゃあ…舞智華ちゃんも食べたら、チョコの味になるね。」
「え?」
「はい、あーん。」
「…恥ずかしいね。」
「でしょ?俺が鼻血出した気持ち、わかってくれる?」
「うん。」
そう返事をしながら差し出されたブラウニーを食べた。我ながらおいしくできたな、と思っていると、また善逸くんが口づけてきた。
「うん、舞智華ちゃんもチョコの味するね。」
「…ますます恥ずかしいね。」
「いいじゃん。二人ともチョコの味なんだから。」
「そうだね。」
「ゆっくり話しながら食べよう。」
「うん。」
「本当にありがとう、舞智華ちゃん。大好きだよ。」
「ありがとう。」
そのあとは二人でブラウニーを食べながら他愛のない話をして、恋人らしい過ごし方をしてその日を終えた。
甘いものが好きな善逸くんに喜んでもらえて、そして甘い時間を過ごせて、嬉しいバレンタインになったと感じた。