君が知らなくとも
お名前は?
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伊之助くんに、バレンタインに善逸くんへ何をあげるといいかを相談したのに、芳しくない返事をもらってから一週間が経ってしまった。
あの日は美術準備室で宇髄先生に授業の補講をしてもらってたあと、善逸くんのことを相談していた。
するとなぜか私は宇髄先生の腕の中にいて、その瞬間にものすごい形相と勢いで入ってきた善逸くんが私を宇髄先生から引きはがした。
結局そのあと、善逸くんの家に行って話したあと…男女の関係になったわけですが…。
正直なところ、嬉しかったけれど、それを思い出しては非常に恥ずかしくなる。
そして何より大問題なのが、結局、善逸くんに何をあげればいいのかわかっていないことだった。
伊之助くんに聞いたところで、彼は無意識に私の不安を煽ってくるので、相談相手を変えることにした。
「炭治郎くん、ちょっと相談があるんだけど…。」
「ん?舞智華、どうした?」
「善逸くんのことなんだけど…」
「俺のこと呼んだ、舞智華ちゃん!!」
困ったことに、あの日から善逸くんは私の側から離れなくなってしまった。
「相談なら炭治郎じゃなくて俺にしてよね。」
「いや…その…」
「何、俺には相談できない話ってこと?」
「えーっとね…」
「舞智華ちゃん、それって浮気じゃないの?」
「違うよ!炭治郎くん…助けて…」
「ごめん、舞智華。善逸がこうなったら俺には何もできない。本当にごめん。」
炭治郎くんはやや困った顔をしながら私に謝罪した。
きっと炭治郎くんは私が相談したい気持ちをよく理解してくれている。
善逸くんが耳がいいように、炭治郎くんは鼻がいい。だからきっと、私が相談したいこともなんとなく感づいているんだと思う。
バレンタインのことを相談しようにも、本人を目の前にしては何も言えない。
サプライズで喜ばせたいと考えているのに、本人に言ってしまっては元も子もない。
どうしたものかと悩んでいる間に、授業が始まった。
善逸くんはどんなものが好きなんだろう?
サプライズをしないとして、もし本人に聞いた場合でも、善逸くんならきっと「舞智華ちゃんが俺のことを考えながら選んでくれたものなら何でも嬉しいよ!」って言うに決まってる。考えれば考えるほど、何がいいのかよくわからなくなってしまった。
ぼーっとしていると、煉獄先生に「常野重、聞いているか?」と声をかけられてしまった。
授業へ気を向け直し、真剣に話を聞いていたら、驚くほどあっという間に授業が終わった。
10分の長めの休み時間になったと同時に、善逸くんが私のところへ何だか申し訳なさそうに近づいてきた。
「どうしたの?」
「舞智華ちゃん、ごめん…。ほかのクラスの女の子に呼ばれちゃったから、話聞いてくるね…。」
「あ、行ってらっしゃい。」
「え、行かないでとか言わないの?」
「え、だって善逸くん、いつも声かけられたら話してくるって言ってるじゃない。」
「いや、まあそうだけど…。心配とかしないの?」
「うん、しない。」
「なんで?」
「善逸くんは私のことを大事に想ってくれてるって知ってるから、信じてる。」
「……舞智華ちゃぁああああん!!大好きだよぉおおおおお!!!行ってくるねえええええ!!!!」
善逸くんはそういうと、すごい勢いで教室を出て行った。
今しかチャンスはない…!!
「た…炭治郎くん!10分…10分ちょうだい…!!」
「舞智華、どうしたんだ一体!すごい勢いで…!」
「ご…ごめん。今しかないと思って…。」
「そういえば、さっきも何か相談したがってたな。どうしたんだ?」
「もうすぐバレンタインなんだけどさ…。」
「うん、そうだな。うちもチョコ味のパンを毎朝すごい量作ってるからわかるよ。」
「確かに、そうだね。それで…私、善逸くんにチョコをあげたいんだけど…。」
「なるほど!」
「何をあげたら喜ぶかなぁ…と思って、相談したかったんだ。」
「そうか…。」
炭治郎くんは顎に手を当てて「うーん」としばらく唸った。
「善逸くんは何が好きなんだろう…?」
「うーん…。舞智華、ごめん。多分俺は、舞智華が期待しているような答えを返せないと思う。」
「え?どういうこと?」
「多分だけど、善逸は舞智華からもらったものなら何でも嬉しいと思う。」
「何でもって言われても…ほら、範囲が広いじゃない?」
「舞智華が困る気持ちもわかるんだけど…。多分、男だったら自分が好きな子からなら何をもらっても喜ぶと思う。」
「そういうものなの?」
「うん。もし俺に彼女がいて、何が欲しいか聞かれても、「何でもいい」って言うと思う。」
「そっか…。」
「期待しているような返答ができなくて申し訳ない。」
「いやいや、いいよ。ちゃんと考えを聞けただけよかったよ。ありがとう、炭治郎くん。」
炭治郎くんからも「何でも嬉しい」という答えが返ってきてしまった。
これはどうしたものか。ますます何をあげたらいいのかわからなくなってきてしまった。
結局10分の休み時間はあっという間に終わってしまって、次の授業が始まった。
善逸くんも授業に間に合って、残りの授業を受けていた。
今日は他の休み時間に善逸くんを呼び出す人がいなかったため、休み時間はすべて善逸くんと過ごした。
炭治郎くんや伊之助くんとぎゃあぎゃあ騒ぐ時間も楽しい時間だったけど、バレンタインに何をあげるか問題は結局解決しなかった。
これはもう、最終手段として、あの人に頼るしかほかない。
その日の放課後、私は善逸くんから「今日も一緒に帰ろう」と誘われたが、「ごめん、ちょっと今日は用事があるから…」とやんわりと断った。
そして善逸くんにばれないように、ひっそりと美術室へ向かった。そこにいるであろう、恋愛の神に会うために。
美術室のドアを小さく3回ノックすると「あ?誰だ?」というややぶっきらぼうなやる気のない応答があった。
「あ…すみません。1年筍組の常野重です。」
私がそう名乗ると、ものすごい勢いで美術室のドアが開いて、「どうした?なんかあったか?」と少し驚いた顔をした宇髄先生が出てきた。
開いたドアからは寒い外気が入って来る。いつになったら美術室の壁の穴はふさがるんだろう…?宇髄先生は寒くないんだろうか…?
「急にすみません。恋愛の神にちょっと相談したいことがありまして…」
「我妻か?」
「はい。」
「なんかあったのか?」
「いえ…その…」
いざ宇髄先生を目の前にしたら、「どんなチョコあげたらいいでしょう?」なんていう相談をするのがなんとなく恥ずかしくなってしまって、口をもごもごさせるだけになってしまった。
呆れた顔をした宇髄先生は美術室を出て、準備室のドアを開けた。
「こっち来い。話、聞いてやっから。」
そう言われて、私は準備室におずおずと入った。
前回と同様、椅子を対面に向けて座る。そして宇髄先生は温かいコーヒーを入れてくれた。
「ほらよ。」
「ありがとうございます。」
「で?なんだ?」
「もうすぐバレンタインじゃないですか。」
「…そうだな。」
「善逸くんに何あげたらいいかわかんなくて…。」
「は?」
「いや…だから…何をあげたらいいかわからなくて悩んでまして…」
「で、俺に聞きにきたのか?」
「はい。」
「何で俺に聞きにきたんだ?」
「だって、先生は恋愛の神だから…」
「…はあ。」
宇髄先生は大きなため息をついた。やっぱり馬鹿馬鹿しい質問をしてしまったのだろうか…とドキドキした。
目の前の宇髄先生は頭を掻きながら考えてくれているのか、ちょっと困った顔をしていた。
「お前、他の誰かに相談したのか?」
「はい。炭治郎くんに相談したんですけど…。」
「竈門はなんて?」
「舞智華からもらったら何でも喜ぶと思う、って言われました。」
「ほう。」
宇髄先生がやや明るい顔つきになった。
「先生?」
「竈門は正解だな。」
「え?」
「自分が大事に思ってたり、好きな相手だったら何貰っても嬉しいな、男ってのは。」
「そういうものですか?」
「男は案外単純なもんだぞ?」
「…宇髄先生にもそう言われるとは思いませんでした。」
私は少し口をとがらせて、不服という顔をしながらそう呟いた。
すると、宇髄先生は私の頭を撫でながら「拗ねるなよ。なんでもいいんだぞ、何でも。」と言った。
そして「チョコじゃなくてもいいんじゃねえか?」と言ってきた。
「チョコじゃなくても…?」
「キスとかな。」
私は宇髄先生にそう言われ、首から上が急に熱くなったのを感じた。
「ちょ…ちょっと!!先生!!!それはセクハラですよ!!!!」
「何でだよ!俺にしろなんて言ってねえだろうが!我妻にしてやりゃあ、あいつ昇天すんだろ!」
「そ…そうですけど…!!そんなこと平気で言うなんて信じられません!!!」
「はあ?!お前が相談に来たんだろうが!俺のアイディアを伝えて何が悪い!」
「もういいです!ありがとうございました!帰ります!」
「おうおう、さっさと帰れ!!気をつけろよ!」
恋愛の神に相談したら、何か素敵なアドバイスがもらえるんじゃないか…なんて期待した私がバカだった。
まさか教師から「キス」なんて言葉を聞かされることになるとは思わなくて、恥ずかしさとからかわれたという怒りとが半分ずつの感情になり、そのままの勢いで準備室を出てきた。
ひとりで学校からの帰り道を歩きながら、悶々としてしまう。
町を歩けばスーパーでもコンビニでも、パン屋でもなんでも、町中がチョコ、チョコ、チョコ。
こんなにチョコがあるなら、やっぱりチョコをあげたいと思ってしまうけど、何が好きか分からないから結局決めかねてしまう。
甘いのがいいのか苦いのがいいのか。普通のがいいのか、フルーティーとかナッツがいいのか…とか。何もわからない。選択肢が多すぎる。
小さくため息をつきながら、とぼとぼと町を歩いていると、遠くから私の名前を呼ぶ声がした。
ふとその声の方を見ると、私の大好きな人が駆け寄ってきていた。
「舞智華ちゃん!今帰りなの?」
「そうだよ。」
「なんか元気ないけど…どうしたの?」
「何でもないよ。」
「そう…?なんか元気ない音もしてるし、なんか不安そうな音も聞こえるし…。」
「…善逸くんには全部音でばれちゃうね。」
「ごめんね。」
「ううん、いいんだ。」
「ところで善逸くんは何してたの?」
「え!?俺!?俺は…えーっとね…」
「もしかして、私が通るの待ってたの?」
「…うん。」
言いにくそうに「私を待っていた」と返事をした善逸くんの姿が、なんとなくかわいく見えてしまった。
そう思って「ふふっ」と私は笑みを零したけれど、それと同時に周りに聞こえるぐらいの音で、お腹が鳴った。
「舞智華ちゃん、お腹空いてるんだね。」
「うん。」
「一緒にご飯食べようよ。」
「そうする。お家に帰るまで我慢できそうにないや。」
「じゃあ、何がいい?」
「善逸くんが好きなものなら何でもいいよ。」
「そう?じゃあ…しょっぱいものと甘いものが食べられるところに行こうかな。」
「善逸くん、甘いもの好きなの?」
「うん。大好きだよ。」
「例えば何が好き?」
「え、本当に何でも好きだよ。和菓子も好きだし、洋菓子も好きだし。あんこも好きだけどチョコも好き…みたいな感じ?」
「そうなんだ。」
「うん。ってことで、しょっぱいもの食べたあとに甘いもの食べたいから、あそこのハンバーガーにしよう。」
「うん!」
善逸くんはそう言って、私の手を引いた。
善逸くんは甘いものなら何でも好き…。だったら本当に何でもいいのかも…?
そう思った帰り道だった。
バレンタインまであと一週間。
あの日は美術準備室で宇髄先生に授業の補講をしてもらってたあと、善逸くんのことを相談していた。
するとなぜか私は宇髄先生の腕の中にいて、その瞬間にものすごい形相と勢いで入ってきた善逸くんが私を宇髄先生から引きはがした。
結局そのあと、善逸くんの家に行って話したあと…男女の関係になったわけですが…。
正直なところ、嬉しかったけれど、それを思い出しては非常に恥ずかしくなる。
そして何より大問題なのが、結局、善逸くんに何をあげればいいのかわかっていないことだった。
伊之助くんに聞いたところで、彼は無意識に私の不安を煽ってくるので、相談相手を変えることにした。
「炭治郎くん、ちょっと相談があるんだけど…。」
「ん?舞智華、どうした?」
「善逸くんのことなんだけど…」
「俺のこと呼んだ、舞智華ちゃん!!」
困ったことに、あの日から善逸くんは私の側から離れなくなってしまった。
「相談なら炭治郎じゃなくて俺にしてよね。」
「いや…その…」
「何、俺には相談できない話ってこと?」
「えーっとね…」
「舞智華ちゃん、それって浮気じゃないの?」
「違うよ!炭治郎くん…助けて…」
「ごめん、舞智華。善逸がこうなったら俺には何もできない。本当にごめん。」
炭治郎くんはやや困った顔をしながら私に謝罪した。
きっと炭治郎くんは私が相談したい気持ちをよく理解してくれている。
善逸くんが耳がいいように、炭治郎くんは鼻がいい。だからきっと、私が相談したいこともなんとなく感づいているんだと思う。
バレンタインのことを相談しようにも、本人を目の前にしては何も言えない。
サプライズで喜ばせたいと考えているのに、本人に言ってしまっては元も子もない。
どうしたものかと悩んでいる間に、授業が始まった。
善逸くんはどんなものが好きなんだろう?
サプライズをしないとして、もし本人に聞いた場合でも、善逸くんならきっと「舞智華ちゃんが俺のことを考えながら選んでくれたものなら何でも嬉しいよ!」って言うに決まってる。考えれば考えるほど、何がいいのかよくわからなくなってしまった。
ぼーっとしていると、煉獄先生に「常野重、聞いているか?」と声をかけられてしまった。
授業へ気を向け直し、真剣に話を聞いていたら、驚くほどあっという間に授業が終わった。
10分の長めの休み時間になったと同時に、善逸くんが私のところへ何だか申し訳なさそうに近づいてきた。
「どうしたの?」
「舞智華ちゃん、ごめん…。ほかのクラスの女の子に呼ばれちゃったから、話聞いてくるね…。」
「あ、行ってらっしゃい。」
「え、行かないでとか言わないの?」
「え、だって善逸くん、いつも声かけられたら話してくるって言ってるじゃない。」
「いや、まあそうだけど…。心配とかしないの?」
「うん、しない。」
「なんで?」
「善逸くんは私のことを大事に想ってくれてるって知ってるから、信じてる。」
「……舞智華ちゃぁああああん!!大好きだよぉおおおおお!!!行ってくるねえええええ!!!!」
善逸くんはそういうと、すごい勢いで教室を出て行った。
今しかチャンスはない…!!
「た…炭治郎くん!10分…10分ちょうだい…!!」
「舞智華、どうしたんだ一体!すごい勢いで…!」
「ご…ごめん。今しかないと思って…。」
「そういえば、さっきも何か相談したがってたな。どうしたんだ?」
「もうすぐバレンタインなんだけどさ…。」
「うん、そうだな。うちもチョコ味のパンを毎朝すごい量作ってるからわかるよ。」
「確かに、そうだね。それで…私、善逸くんにチョコをあげたいんだけど…。」
「なるほど!」
「何をあげたら喜ぶかなぁ…と思って、相談したかったんだ。」
「そうか…。」
炭治郎くんは顎に手を当てて「うーん」としばらく唸った。
「善逸くんは何が好きなんだろう…?」
「うーん…。舞智華、ごめん。多分俺は、舞智華が期待しているような答えを返せないと思う。」
「え?どういうこと?」
「多分だけど、善逸は舞智華からもらったものなら何でも嬉しいと思う。」
「何でもって言われても…ほら、範囲が広いじゃない?」
「舞智華が困る気持ちもわかるんだけど…。多分、男だったら自分が好きな子からなら何をもらっても喜ぶと思う。」
「そういうものなの?」
「うん。もし俺に彼女がいて、何が欲しいか聞かれても、「何でもいい」って言うと思う。」
「そっか…。」
「期待しているような返答ができなくて申し訳ない。」
「いやいや、いいよ。ちゃんと考えを聞けただけよかったよ。ありがとう、炭治郎くん。」
炭治郎くんからも「何でも嬉しい」という答えが返ってきてしまった。
これはどうしたものか。ますます何をあげたらいいのかわからなくなってきてしまった。
結局10分の休み時間はあっという間に終わってしまって、次の授業が始まった。
善逸くんも授業に間に合って、残りの授業を受けていた。
今日は他の休み時間に善逸くんを呼び出す人がいなかったため、休み時間はすべて善逸くんと過ごした。
炭治郎くんや伊之助くんとぎゃあぎゃあ騒ぐ時間も楽しい時間だったけど、バレンタインに何をあげるか問題は結局解決しなかった。
これはもう、最終手段として、あの人に頼るしかほかない。
その日の放課後、私は善逸くんから「今日も一緒に帰ろう」と誘われたが、「ごめん、ちょっと今日は用事があるから…」とやんわりと断った。
そして善逸くんにばれないように、ひっそりと美術室へ向かった。そこにいるであろう、恋愛の神に会うために。
美術室のドアを小さく3回ノックすると「あ?誰だ?」というややぶっきらぼうなやる気のない応答があった。
「あ…すみません。1年筍組の常野重です。」
私がそう名乗ると、ものすごい勢いで美術室のドアが開いて、「どうした?なんかあったか?」と少し驚いた顔をした宇髄先生が出てきた。
開いたドアからは寒い外気が入って来る。いつになったら美術室の壁の穴はふさがるんだろう…?宇髄先生は寒くないんだろうか…?
「急にすみません。恋愛の神にちょっと相談したいことがありまして…」
「我妻か?」
「はい。」
「なんかあったのか?」
「いえ…その…」
いざ宇髄先生を目の前にしたら、「どんなチョコあげたらいいでしょう?」なんていう相談をするのがなんとなく恥ずかしくなってしまって、口をもごもごさせるだけになってしまった。
呆れた顔をした宇髄先生は美術室を出て、準備室のドアを開けた。
「こっち来い。話、聞いてやっから。」
そう言われて、私は準備室におずおずと入った。
前回と同様、椅子を対面に向けて座る。そして宇髄先生は温かいコーヒーを入れてくれた。
「ほらよ。」
「ありがとうございます。」
「で?なんだ?」
「もうすぐバレンタインじゃないですか。」
「…そうだな。」
「善逸くんに何あげたらいいかわかんなくて…。」
「は?」
「いや…だから…何をあげたらいいかわからなくて悩んでまして…」
「で、俺に聞きにきたのか?」
「はい。」
「何で俺に聞きにきたんだ?」
「だって、先生は恋愛の神だから…」
「…はあ。」
宇髄先生は大きなため息をついた。やっぱり馬鹿馬鹿しい質問をしてしまったのだろうか…とドキドキした。
目の前の宇髄先生は頭を掻きながら考えてくれているのか、ちょっと困った顔をしていた。
「お前、他の誰かに相談したのか?」
「はい。炭治郎くんに相談したんですけど…。」
「竈門はなんて?」
「舞智華からもらったら何でも喜ぶと思う、って言われました。」
「ほう。」
宇髄先生がやや明るい顔つきになった。
「先生?」
「竈門は正解だな。」
「え?」
「自分が大事に思ってたり、好きな相手だったら何貰っても嬉しいな、男ってのは。」
「そういうものですか?」
「男は案外単純なもんだぞ?」
「…宇髄先生にもそう言われるとは思いませんでした。」
私は少し口をとがらせて、不服という顔をしながらそう呟いた。
すると、宇髄先生は私の頭を撫でながら「拗ねるなよ。なんでもいいんだぞ、何でも。」と言った。
そして「チョコじゃなくてもいいんじゃねえか?」と言ってきた。
「チョコじゃなくても…?」
「キスとかな。」
私は宇髄先生にそう言われ、首から上が急に熱くなったのを感じた。
「ちょ…ちょっと!!先生!!!それはセクハラですよ!!!!」
「何でだよ!俺にしろなんて言ってねえだろうが!我妻にしてやりゃあ、あいつ昇天すんだろ!」
「そ…そうですけど…!!そんなこと平気で言うなんて信じられません!!!」
「はあ?!お前が相談に来たんだろうが!俺のアイディアを伝えて何が悪い!」
「もういいです!ありがとうございました!帰ります!」
「おうおう、さっさと帰れ!!気をつけろよ!」
恋愛の神に相談したら、何か素敵なアドバイスがもらえるんじゃないか…なんて期待した私がバカだった。
まさか教師から「キス」なんて言葉を聞かされることになるとは思わなくて、恥ずかしさとからかわれたという怒りとが半分ずつの感情になり、そのままの勢いで準備室を出てきた。
ひとりで学校からの帰り道を歩きながら、悶々としてしまう。
町を歩けばスーパーでもコンビニでも、パン屋でもなんでも、町中がチョコ、チョコ、チョコ。
こんなにチョコがあるなら、やっぱりチョコをあげたいと思ってしまうけど、何が好きか分からないから結局決めかねてしまう。
甘いのがいいのか苦いのがいいのか。普通のがいいのか、フルーティーとかナッツがいいのか…とか。何もわからない。選択肢が多すぎる。
小さくため息をつきながら、とぼとぼと町を歩いていると、遠くから私の名前を呼ぶ声がした。
ふとその声の方を見ると、私の大好きな人が駆け寄ってきていた。
「舞智華ちゃん!今帰りなの?」
「そうだよ。」
「なんか元気ないけど…どうしたの?」
「何でもないよ。」
「そう…?なんか元気ない音もしてるし、なんか不安そうな音も聞こえるし…。」
「…善逸くんには全部音でばれちゃうね。」
「ごめんね。」
「ううん、いいんだ。」
「ところで善逸くんは何してたの?」
「え!?俺!?俺は…えーっとね…」
「もしかして、私が通るの待ってたの?」
「…うん。」
言いにくそうに「私を待っていた」と返事をした善逸くんの姿が、なんとなくかわいく見えてしまった。
そう思って「ふふっ」と私は笑みを零したけれど、それと同時に周りに聞こえるぐらいの音で、お腹が鳴った。
「舞智華ちゃん、お腹空いてるんだね。」
「うん。」
「一緒にご飯食べようよ。」
「そうする。お家に帰るまで我慢できそうにないや。」
「じゃあ、何がいい?」
「善逸くんが好きなものなら何でもいいよ。」
「そう?じゃあ…しょっぱいものと甘いものが食べられるところに行こうかな。」
「善逸くん、甘いもの好きなの?」
「うん。大好きだよ。」
「例えば何が好き?」
「え、本当に何でも好きだよ。和菓子も好きだし、洋菓子も好きだし。あんこも好きだけどチョコも好き…みたいな感じ?」
「そうなんだ。」
「うん。ってことで、しょっぱいもの食べたあとに甘いもの食べたいから、あそこのハンバーガーにしよう。」
「うん!」
善逸くんはそう言って、私の手を引いた。
善逸くんは甘いものなら何でも好き…。だったら本当に何でもいいのかも…?
そう思った帰り道だった。
バレンタインまであと一週間。