短編
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2月3日は節分。蝶屋敷の近くの家では、とても可愛らしい小さい子どもたちの声で「鬼は外!福は内!」という声が聞こえてくる。
外気は冷たいけれど、陽当たりのいい縁側に座り、ぽかぽかした気分に浸りながら、その声を聞いていた。
私の目の前には、まるで蒲公英ような鮮やかな黄色の髪に、鮮やかな黄色の上り鱗の羽織を着ている隊士が座っていた。
「かわいい子たちだなぁ…声しか聞こえないけど。」
「そうですね。かわいい声色ですよね。」
「うん。それに、すごく楽しそうな音もしてるんだよね。あと豆まきしてる音もする。小さく豆がぶつかる音がしてる。」
「そうでしたね…。善逸さんは耳がいいんでしたね。」
「ねえ、舞智華ちゃん、俺たち恋仲なんだからその敬語やめない?」
「すみません…なかなか慣れなくて。」
「まあ…いきなりは無理だよね。ちょっとずつでいいよ。」
「はい。」
そんな他愛もない会話をしていた。節分で豆まき。
「鬼は外、福は内」という当たり前の聞き慣れたフレーズでさえ、心がむず痒くなるのがこの場所だった。
「あーあ、俺も豆まきが気楽にできる生活が良かったな。」
「え?」
「俺たちどっちかっていうと「鬼は内、福は外」みたいな感じしない?」
「どうしてですか?」
「だってさ、鬼のいる場所にわざわざ出かけていって、鬼の懐入って、それが終わるとボロボロになってて、治療するわけじゃない。なんとなく、鬼は内、福は外って感じがする。」
「なるほど…。」
善逸さんの言葉を聞いて、体を張って人間が人間らしく生きられるように鬼を討伐しているとはいえ、やはり辛いところが多いのだろうと感じた。
「俺、まさか鬼殺隊に入ることになるだなんて思ってなかったし。」
「そうですよね…。」
「未だに鬼だって怖いし、俺はまだまだ弱いし。」
「そんなことないですよ。善逸さんは強くなってますよ。」
「そうかな…。でもまだ心配。」
「まだまだ強くなれますよ。善逸さんなら大丈夫。」
確かに善逸さんは面倒なことは嫌いで、だから訓練も修行も嫌々やっているとはいえ、それでもすべきことは成し遂げて、その度に強くなっている。それでもまだまだ自分に自信が持てない様子でいるのが不思議でならなかった。
「鬼殺隊に入ってからこの日が来る度に、俺は「鬼は内、福は外」って思ってたんだけどさ。」
「うん。」
「舞智華ちゃんに会えたから、ちょっと考え方変わったんだ。」
「え?」
「福は内って思える様になったよ。」
「どうして…?」
「舞智華ちゃんのこと考えると、あったかい気持ちになって、幸せは俺の中にあるんだな、って思える様になった。」
そう話す善逸さんの頬はほんの少し赤らんでいて、照れているのがわかったけれど、素直にその気持ちを伝えてくれたことが嬉しかった。
「よし…豆まきしよっか、舞智華ちゃん。俺、豆買ってきたんだ。」
「ありがとうございます。」
「じゃあいくよ…福は内!」
善逸さんは「福は内」しか言わなかったため、私は少し驚いた。
「鬼は外は?」
「だって、鬼は外って言ったって、どうせすぐ立ち向かわなきゃいけないから。外追い出したってすぐ会うんだし、だったら言わなくていいんじゃないかなって。」
「なるほど。」
私は善逸さんの言うことが少し腑に落ちて、私も善逸さんと同様に「福は内」だけを言って豆をまいた。
善逸さんの隣にいたからか、なんとなく心から温かい気持ちになった。
「舞智華ちゃん、時々敬語忘れてるね。」
「え…?」
「気づいてない?でもいいんだ、それで。ほら、もうちょっと豆まこう。福は内!」
「福は内!」
「舞智華ちゃんとの福が続くといいな。」
「え?」
「なんでもないよ。豆食べよっか。」
「はい。」
縁側にゆっくり座って、ポリポリと福豆を食べた。香ばしい香りと、濃厚な豆の味が美味しかった。
温かい気持ちになって、早く鬼外と素直に言える日が来たらいいな…なんて思った。