君が知らなくとも
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1年筍組で、一番目立つ金の髪色の同級生は突如叫んだ。
「モテたい!来年のバレンタインにはせめて1個!!チョコレートをもらいたい!!!」
友人の竈門炭治郎くんは冷静に「今7月だけど…。」と言う。
私はその様子を見て、突如叫んだ張本人の我妻善逸くんに、来年のバレンタインにチョコをあげようと決心した。まだ半年以上も時間がある。でもきっと、私の気持ちは変わらない。
善逸くんは「女の子という生き物」が大好きなんだと思う。誰にでも優しいし、女の子と話している時はいつも鼻の下が伸びに伸びている。びっくりするぐらい、伸びてる。
風紀委員の彼はいつも校門で学生の服装をチェックしてるんだけど、女の子のスカートの短さとか全然気にしてなくて、むしろ歓迎しているとすら感じるぐらい、女の子に対しては風紀委員としての仕事ができていない。
…善逸くん「風紀」っていう言葉の意味、ちゃんとわかってるかな…?と、勝手に毎日心配するほど、私は彼が好きなわけでして。だからこそ、来年のバレンタインにはチョコあげようと決心したのでして。
バレンタインまであと半年以上もあるうちから、何かしようとしている善逸くんがそこにいた。何をするのかと思っていると、炭治郎くんと善逸くんが教室を出て行った。それを見た私は、2人にバレないようにコソコソと着いて行った。
行く先行く先、全部が先生たちのもとで、しかも女生徒から人気のある先生ばかりだった。先生たちからいろいろ話を聞いては、その直後に善逸くんの叫び声が木霊した。一体、彼は何を聞いてそんなに叫んでいるんだろう…?と思っていた。
2人にバレないように距離を開けて歩いていたが、美術室の前を通った時に「おい、常野重。」とぶっきらぼうに声をかけられた。声の主は言わずもがな、芸術的に美術室に穴を開けた宇髄先生だった。
「お前…何してんだ?地味にコソコソ歩きやがって。」
「な…なんでもありませんよ。」
「気持ち悪ぃぞ、そんな地味な歩き方。もっと派手に歩け、派手に。」
善逸くんたちにバレないように歩いている私の気持ちも知らないで…なんてことを言うのか、この先生は…と思った。
「で、何してんだ?」
「お……お散歩…です。」
「入学して3ヶ月経ってからか?」
「い…いいじゃないですか…3ヶ月経ってからお散歩したって…」
目線も合わせず話していると、目の前の宇髄先生はそんな私の姿を鼻で笑った。なんという失礼な教師だ、と思って宇髄先生の顔を見ると、びっくりするぐらい真っ直ぐな瞳で私を見ていて、そして一言言い放った。
「嘘が下手にも程があんだろ、お前。」
私が嘘をついていることなんてお見通しで、正直、この後に何を話せばいいのかと考えてしまった。
すると続けて宇髄先生は言った。
「お前、あいつとちゃんと話したことあんのか?」
「え?」
「我妻だよ、我妻。お前、あいつが好きなんだろ?」
「な…なんでそれを…!?」
「俺をなめるなよ、神だぞ。」
「何の神ですか?」
「恋愛の神だ。」
自信満々の様子で、腕を組んで仁王立ちしたまま、宇髄先生はそう言った。
…宇髄先生ってここまでやばい人だったの…?
と思いながらも、私が善逸くんが好きなことはお見通しだったので、ぐうの音も出ない。
「で、ちゃんと話したことあんのか?」
「あまりありません…。」
「お前、気をつけねえとただのストーカーだぞ。」
「はっ…!」
「気づいてねえのか、馬鹿だな。派手に馬鹿だ。」
そうか…私は善逸くんのことが好きすぎるあまり、無意識に彼に対してストーカーまがいの事をしていたのか…と思って少し反省した。
「本当にお前があいつのことが好きなら、ちゃんと行動しねえと、今となんも変わらねえぞ。それにあいつ、女好きだからな。」
「知ってます…。」
「今は中等部にいる竈門の妹のこと、かなり気に入ってるんじゃねえか?」
「…それも知ってます。」
「だったら尚のこと、アピールしろ、アピール。ド派手にな。」
そう言って宇髄先生は、私の頭をポンポンと撫でてニッコリ笑った。なんなんでしょうか、この教師は。私以外女生徒なら、この笑顔で絶対堕ちるって知ってるな、この人。
ド派手にアピール?あんまり話したことないんだから、そんなの無理です…!と思ったけど、確かに宇髄先生の言う通り、行動しなきゃ何も変わらないのも事実。何をどうすればいいのかと悩んでいると、宇髄先生はこっそり私に教えてくれた。
「バレンタインなんか待たなくても、あと2か月であいつの誕生日だぞ。」
ニヤッと何かを企んでいるような顔をしている宇髄先生にちょっと腹がたったけど、行動するきっかけを教えてくれたことには感謝した。
さて、善逸くんの誕生日までにどうしたものか…。と考え始めたある日のこと。
筍組のホームルームで、担任の悲鳴嶼先生から不審者情報の共有があった。女子ばかりを狙っているとのことで、同じクラスの女の子たちが怖がっていた。そして、不審者の情報として絵が配布された。
不審者がどんな人なのかと、恐る恐る配布されたものを見てみたら、その絵はどこからどう見ても、私には善逸くんにしか見えなかった。なんなら、ちょっと無理しすぎてよく分かんないことになっている善逸くんにしか見えなかった。後ろの方の席から、「ちがうんだ…ちがうんだ…」という善逸くんのか弱い声が聞こえてきて、私の中ではこの「紙に書かれている不審者=善逸くん」という方程式が成り立った。ふと窓際の席を見ると、炭治郎くんは白目を剥いて配布された絵を見ていたから、炭治郎くんは間違いなく何か知っている。
ホームルームが終わって、帰宅の時間になった。クラスメイトは足早に教室を出て行く中、私はどうしても絵のことについて炭治郎くんに確認がしたかった。今まであんまり話したことはないけど、勇気を出して話しかけた。
「あ…あの…竈門炭治郎くん。」
「あ、君は確か…常野重さんだったよね?」
「うん。舞智華でいいよ。」
「俺のことも炭治郎でいいよ。それで、どうしたの?」
「あのね…ちょっと聞きたいことがあって。」
「ん?何だ?」
ふと教室を見ると、教室には私と炭治郎くんと善逸くんだけだった。善逸くんをよく見ると、まだ小さい声で「ちがうんだ…」と言い続けているし、机は彼の涙なのか鼻水なのかわからない液体でびっしょり濡れていた。そんな中で聞いてもいいのかと疑問だったけど、まあいいか、と思って聞いてみた。
「今日先生から配られた不審者の絵のことなんだけど…」
と私が言ったら、突然ガタン!と音を立てて椅子から立ち上がった善逸くんがいた。勢いに負けた椅子は大きな音を立てて後ろに倒れていた。そして善逸くんは、物凄い勢いで炭治郎くんの足に縋り付くように泣きついていた。
「どうしようどうしよう、炭治郎!!!俺、不審者になっちゃってる!!!ねえ、どうしたらいいの、俺!ねえ、たんじろおおおおお!」
…やっぱり善逸くんだったんだな、とその様子を見て納得した。
「舞智華が聞きたかったのって、あの絵が善逸かどうかってことだったのか?」
「あ、うん。それもそうだったんだけど、その答えは分かったから、もう大丈夫。」
「舞智華の予想通りで、あれは善逸なんだけど…。何か他にも質問があるのか?」
「あ…あのね…」
ええい、もう2人に怪しまれてもなんでもいいから正直に全て話そう。その方が早い。
「実は…この間、善逸くんが来年はチョコが欲しいって叫んだ後、教室を出て行ったじゃない?炭治郎くんといっしょに。」
「ああ、あの時か!舞智華、ずっと着いてきてたな。」
炭治郎くんは満面の笑みで、私が着いてきていたことを言い放ったので驚いた。
「なんで知ってるの?!」
「俺、鼻がいいんだ。ずっと俺たちとは違うにおいがしてて。誰だろう…って思ってたんだけど、今のではっきりした。舞智華のにおいだったんだな。あの日、ずっと着いてきてたから、どうしたんだろうって思ってたんだ。それで、気になることって?」
「あ…あの日…先生たちと何を話してたのかな…って思って…」
と言うと、炭治郎くんは何をしていたかを丁寧に教えてくれた。そしてちょっと困った様子も見せながら「善逸が毎回文句言って大変だったんだ」とも言っていた。
「善逸は先生の前では散々文句を言ってたんだけど、最終的には聞いたアドバイスを全部取り入れてたみたいで。そのことが今日配られた絵からよくわかったよ。」
「そういうことだったんだね…」
あの日、2人が何をしていたのかが分かって、ホッとしたと同時に、善逸くんのそんな必死な思いを目の当たりにして、ますますバレンタインにチョコをあげたくなってしまった。
「ねえ常野重さん…俺、どうしたらいいと思う…?」
と、泣きすぎて鼻声になった善逸くんが質問をしてきた。
「あ、舞智華でいいよ。」
「あ、そう?じゃあさ、舞智華ちゃんは…あの絵見てどう思った…?」
震える声で恐る恐る聞いてくる善逸くん。まだ涙が止まらない。
「私はあの絵が善逸くんだって、すぐわかったよ。」
「わかっちゃったの?!何で?!」
とちょっと汚い高音で善逸くんは言い放った。
「だって…ずっと見てるから。」
「え?」
「私、善逸くんのことずっと見てるから。」
「え?どういうこと?」
善逸くんがグズっと鼻を啜りながら聞いてくる。
そして炭治郎くんは何かを急に察したのか、突然ハキハキとした口調で「あ!明日のパンの仕込みがあるんだった!善逸、申し訳ない!俺は帰る!」と言ってものすごいスピードで帰って行った。
「ちょっと待てよ!たんじろおおおおおお!」
と善逸くんは涙ながらに叫んでいた。
炭治郎くんが居なくなった教室には、もちろん私と善逸くんしかおらず、急にシーンとした雰囲気に包まれた。
グズっと鼻を啜りながら、善逸くんが口を開いた。
「舞智華ちゃん…。」
「ん?」
「俺のことずっと見てるってどういうこと?」
「え?」
「だってさっきそう言ってたじゃない。どうして俺のことずっと見てるの?俺ってそんなに気持ち悪い?」
「そんなこと一言も言ってないじゃない。」
「俺…俺…自分に自信もないし、なんなら自分のことが一番嫌いだし…。モテたいと思って、一生懸命、来年チョコ貰えるようにがんばってたら不審者って言われるし…。」
話しながらどんどん自信を無くしていく善逸くんがそこにいた。どう励ませばいいのか考えながら話を聞いていた。
「そんな俺を、舞智華ちゃんはどうしてずっと見てるの?」
善逸くんは泣きすぎてちょっと赤くなった目で、私をジッと見つめている。もうこれは、何も言わないわけにはいかない状況になってしまって、不本意ながら自分の気持ちを伝えることにした。
「私…入学したときから、善逸くんのことが好きなの。」
「えっ」
私が思い切って告白したら、善逸くんは顔を真っ赤にしていた。そして、彼はオロオロしながらも、がんばって私に話しかけてきた。
「え、何で俺なの?炭治郎とか伊之助とかいるじゃない?何で俺なの!?」
「だって…善逸くん、入学式の日に私のこと助けてくれたんだもん。」
「え?」
***
そう、あれは入学式の日だった。
新年度早々、私はうっかり寝坊してしまい、大急ぎで入学式へと向かった。
私の両親は二人とも教員で、別々の学校に勤務していることもあって、私の入学式にはいつも参加していなかった。
だから寝坊しないようにと気をつけていたにも関わらず、前日の夜になかなか寝付けなかったせいか、寝坊をしてしまった。
慌てて学校へ行き、とにかく走って走って学校までの道を急いだ。そして普段運動していない私は、学校が見えてきたところで足がもつれてド派手に転んでしまった。
慌てて立ち上がったとき、布の裂ける音がした。ふと見ると、転んだ時に側溝とその金属の蓋の間に、制服のスカートが挟まっていたようで、私が立ち上がった勢いでスカートの一部が裂けてしまった。
なんとも恥ずかしい。転けてケガしただけではなくて、新品の真っ新なスカートまで破いてしまうとは。親にどう顔向けをすればいいのやら…と思いつつも、遅れないように急がなければ、という気持ちの方が勝っていた。
裂けたスカートにさほど気も留めず、駆け出した途端、後ろから「うわあああああ!」という叫び声が聞こえたと思ったら
「君!そこの君!名前分かんないけど、キメツ学園のかわいい君!」
という声が聞こえた。
周りを見回してみても、キメツ学園の制服を着ているのは私しかいなかったので、後ろを振り向いた。
するとそこには、金髪で下がり眉の男の子がいて、
「そうそう、君だよ!ちょっと止まって!お願いだから止まって!」
と懇願されたので、とりあえず止まった。
すると彼は鼻血を垂らしながらものすごい勢いで駆け寄ってきて、そして私を細めの路地に引っ張った。
「ちょっと!何するんですか!」
と私が言うと、
「ちょっとだけ待ってて!すぐ終わるから!」
と言って、目の前でブレザーを脱ぎ始めた。
私は訳もわからず、その様子を見ていると、目の前の彼は更にカーディガンまで脱いだ。何事かと思っていると、腰回りに温もりを感じて、ふと見ると彼のカーディガンが私の腰に巻かれていた。
「え?どういうこと?」
「…見たくて見たわけじゃないんだけど…!スカートが破れてて、君が走るたびに下着が見え隠れしてたの…!気が気じゃなかったの、俺…!」
「えっ?!見えてたの?!」
「そうだよおおお!君、女の子なんだし、もうちょっとそういう貞操的なところには気を配ったほうがいいと思うよ!かわいいんだし!変な男もたくさんいるんだから!」
金髪の彼はそう言うと、
「それ、ずっと使っていいから!返さなくてもいいし!じゃ!」
と言って、学校の方へと走っていった。すごく足が速かった。
「あ…名前聞くの忘れた…」
嵐のように後ろから追いかけてきて、自分のカーディガンを私の腰に巻いてくれて、そしてそのまま走り去った彼は、私にはちょっと王子様に見えた。なんて優しい人なんだと思った。あっという間に恋していた。
カーディガンを返そうにも名前を聞いていない。いつ返せるかわからないけど、いつか返そう、と心に決めて、私も学校へと走った。
入学式には間に合ったけど、校門で冨岡先生に
「なんだその格好は!入学式早々、校則違反だぞ!」
と言われ、事情を説明すると渋々受け入れてくれた。
そして入学式が終わって、クラスに戻り冷静に周りを見たら、今朝の彼がいた。名前は我妻善逸だと、その時の点呼で知った。お礼を言いたかったが、恥ずかしくて言えず、結局そのままになってしまった。
その日から、私は善逸くんに恋をして、ずっと彼を見ていた。
***
「入学式の日のこと、何か覚えてる?」
付き合ってもいないのに、善逸くんを試すような聞き方をする私も、どこか意地悪だな…と思った。
「入学式の日…?そうだなぁ…。俺、入学式に遅れそうで一生懸命走ってたんだよね。そしたらさ…」
「そしたら?」
「俺の前にも走ってる女の子がいたんだけどさ。」
「うん。」
「その子のスカートが破れてて。」
「うん。」
「下着が見えちゃって。」
「うん。」
「ラッキーって思ったんだけど、隠してあげなきゃかわいそうだと思ったんだよね。」
「ラッキーって思ったんだ。」
「だって男だもん。そりゃあ、普通見えないものが見えたらラッキーって思っちゃうよ。」
「ふーん。」
「…舞智華ちゃん…なんか怒っちゃった?」
「ううん、別に。それで?」
「俺のカーディガンあげて、そのまま。」
「その子のこと、何も覚えてないの?」
「そうだね…。俺も慌ててたし、スカート破れてるって言われただけでも、女の子はきっと恥ずかしいだろうと思ったから、あんまり顔は見ないようにしてて。だから、顔は覚えてないんだ。」
「そうなんだ…。」
善逸くんは何も覚えてない様子だったから、私はすこし残念に思ってしまった。そんな私の姿を見て一言、善逸くんはボソッと言った。
「でも、その子の音は覚えているよ。」
「え?音?」
「うん。俺、昔から耳がよくて。その子の音、舞智華ちゃんの音と一緒だよ。」
「え?」
「だから…俺があの日会ったのは、舞智華ちゃんだったんだよね?」
「うん…。」
「スカート、新しくしたの?」
「うん。」
「そっか。」
「あの日…カーディガンを貸してくれてありがとう。善逸くんのおかげで、恥ずかしい思いはしなくて済んだよ。」
やっとずっと言いたかった言葉を伝えられた。
すると、善逸くんはニコッと笑って言った。
「そんなの気にしないで。俺の方こそ、好きって言ってくれてありがとう。」
そう言って、私のことをギュッと抱き締めた。
…なんでこんなに急展開なの?
「俺、あの日会ったのが舞智華ちゃんだったことにはずっと気づいてたよ。でも、俺のことをどう思ってるかはわからなくて、ちょっと怖かったから話せなかった。」
善逸くんから出た台詞に、目が点になった。お互いに入学式の日に出会った相手だということに気づいていたけど、全然話せていなかったということがわかって、なんだかずっと胸に引っかかっていたものが取れたような気がした。
「まさか舞智華ちゃんが俺のこと好きでいてくれたなんて思わなかったよ。だから、俺の方こそありがとう。」
あの日、善逸くんを優しい人だと感じたのは間違いじゃなかった。この人を好きになって良かったと思った。
そんなことを思っていると、善逸くんは体を離して、そして私の手をぎゅっと握ってこう言った。
「舞智華ちゃん、俺と付き合ってください。幸せにするから。」
急な善逸くんからの告白に一瞬時が止まったけど、私はすぐに「はい」と返事をした。
信じられないことに、善逸くんの誕生日もバレンタインも待たずして、恋人の関係に発展できた。
恋愛の神こと宇髄先生に、ちゃんと話してみろとアドバイスをもらって良かったと思った。
そしてふと思い出したことを善逸くんに伝えてみる。
「善逸くん。」
「なに、舞智華ちゃん?」
「もうあの格好して、女の子に近寄らないよね?」
「もちろんだよ!だって、舞智華ちゃん、来年チョコくれるんでしょ?」
「…うん。」
「もう俺のことを不審者とは呼ばせないよ!」
なんだかよく分からない元気な返事だったけど、そして安心できない返事だったけど、善逸くんの不審者は終わりそうです。
二人で教室を出て、途中まで一緒に帰った。善逸くんと今までほとんど話したことのなかった私は、今まで話さなかった時間を埋めるように話をしながら歩いた。楽しい時間だった。
「じゃあ、俺こっちだから。」
「うん。」
「舞智華ちゃん、また明日ね。」
善逸くんはそう言って、私の頭をポンポンと撫でた。ちょっと恥ずかしかったけど、嬉しかった。こうして、私の青春が始まった。これから善逸くんとどんな時間を過ごせるのか楽しみだ。
「モテたい!来年のバレンタインにはせめて1個!!チョコレートをもらいたい!!!」
友人の竈門炭治郎くんは冷静に「今7月だけど…。」と言う。
私はその様子を見て、突如叫んだ張本人の我妻善逸くんに、来年のバレンタインにチョコをあげようと決心した。まだ半年以上も時間がある。でもきっと、私の気持ちは変わらない。
善逸くんは「女の子という生き物」が大好きなんだと思う。誰にでも優しいし、女の子と話している時はいつも鼻の下が伸びに伸びている。びっくりするぐらい、伸びてる。
風紀委員の彼はいつも校門で学生の服装をチェックしてるんだけど、女の子のスカートの短さとか全然気にしてなくて、むしろ歓迎しているとすら感じるぐらい、女の子に対しては風紀委員としての仕事ができていない。
…善逸くん「風紀」っていう言葉の意味、ちゃんとわかってるかな…?と、勝手に毎日心配するほど、私は彼が好きなわけでして。だからこそ、来年のバレンタインにはチョコあげようと決心したのでして。
バレンタインまであと半年以上もあるうちから、何かしようとしている善逸くんがそこにいた。何をするのかと思っていると、炭治郎くんと善逸くんが教室を出て行った。それを見た私は、2人にバレないようにコソコソと着いて行った。
行く先行く先、全部が先生たちのもとで、しかも女生徒から人気のある先生ばかりだった。先生たちからいろいろ話を聞いては、その直後に善逸くんの叫び声が木霊した。一体、彼は何を聞いてそんなに叫んでいるんだろう…?と思っていた。
2人にバレないように距離を開けて歩いていたが、美術室の前を通った時に「おい、常野重。」とぶっきらぼうに声をかけられた。声の主は言わずもがな、芸術的に美術室に穴を開けた宇髄先生だった。
「お前…何してんだ?地味にコソコソ歩きやがって。」
「な…なんでもありませんよ。」
「気持ち悪ぃぞ、そんな地味な歩き方。もっと派手に歩け、派手に。」
善逸くんたちにバレないように歩いている私の気持ちも知らないで…なんてことを言うのか、この先生は…と思った。
「で、何してんだ?」
「お……お散歩…です。」
「入学して3ヶ月経ってからか?」
「い…いいじゃないですか…3ヶ月経ってからお散歩したって…」
目線も合わせず話していると、目の前の宇髄先生はそんな私の姿を鼻で笑った。なんという失礼な教師だ、と思って宇髄先生の顔を見ると、びっくりするぐらい真っ直ぐな瞳で私を見ていて、そして一言言い放った。
「嘘が下手にも程があんだろ、お前。」
私が嘘をついていることなんてお見通しで、正直、この後に何を話せばいいのかと考えてしまった。
すると続けて宇髄先生は言った。
「お前、あいつとちゃんと話したことあんのか?」
「え?」
「我妻だよ、我妻。お前、あいつが好きなんだろ?」
「な…なんでそれを…!?」
「俺をなめるなよ、神だぞ。」
「何の神ですか?」
「恋愛の神だ。」
自信満々の様子で、腕を組んで仁王立ちしたまま、宇髄先生はそう言った。
…宇髄先生ってここまでやばい人だったの…?
と思いながらも、私が善逸くんが好きなことはお見通しだったので、ぐうの音も出ない。
「で、ちゃんと話したことあんのか?」
「あまりありません…。」
「お前、気をつけねえとただのストーカーだぞ。」
「はっ…!」
「気づいてねえのか、馬鹿だな。派手に馬鹿だ。」
そうか…私は善逸くんのことが好きすぎるあまり、無意識に彼に対してストーカーまがいの事をしていたのか…と思って少し反省した。
「本当にお前があいつのことが好きなら、ちゃんと行動しねえと、今となんも変わらねえぞ。それにあいつ、女好きだからな。」
「知ってます…。」
「今は中等部にいる竈門の妹のこと、かなり気に入ってるんじゃねえか?」
「…それも知ってます。」
「だったら尚のこと、アピールしろ、アピール。ド派手にな。」
そう言って宇髄先生は、私の頭をポンポンと撫でてニッコリ笑った。なんなんでしょうか、この教師は。私以外女生徒なら、この笑顔で絶対堕ちるって知ってるな、この人。
ド派手にアピール?あんまり話したことないんだから、そんなの無理です…!と思ったけど、確かに宇髄先生の言う通り、行動しなきゃ何も変わらないのも事実。何をどうすればいいのかと悩んでいると、宇髄先生はこっそり私に教えてくれた。
「バレンタインなんか待たなくても、あと2か月であいつの誕生日だぞ。」
ニヤッと何かを企んでいるような顔をしている宇髄先生にちょっと腹がたったけど、行動するきっかけを教えてくれたことには感謝した。
さて、善逸くんの誕生日までにどうしたものか…。と考え始めたある日のこと。
筍組のホームルームで、担任の悲鳴嶼先生から不審者情報の共有があった。女子ばかりを狙っているとのことで、同じクラスの女の子たちが怖がっていた。そして、不審者の情報として絵が配布された。
不審者がどんな人なのかと、恐る恐る配布されたものを見てみたら、その絵はどこからどう見ても、私には善逸くんにしか見えなかった。なんなら、ちょっと無理しすぎてよく分かんないことになっている善逸くんにしか見えなかった。後ろの方の席から、「ちがうんだ…ちがうんだ…」という善逸くんのか弱い声が聞こえてきて、私の中ではこの「紙に書かれている不審者=善逸くん」という方程式が成り立った。ふと窓際の席を見ると、炭治郎くんは白目を剥いて配布された絵を見ていたから、炭治郎くんは間違いなく何か知っている。
ホームルームが終わって、帰宅の時間になった。クラスメイトは足早に教室を出て行く中、私はどうしても絵のことについて炭治郎くんに確認がしたかった。今まであんまり話したことはないけど、勇気を出して話しかけた。
「あ…あの…竈門炭治郎くん。」
「あ、君は確か…常野重さんだったよね?」
「うん。舞智華でいいよ。」
「俺のことも炭治郎でいいよ。それで、どうしたの?」
「あのね…ちょっと聞きたいことがあって。」
「ん?何だ?」
ふと教室を見ると、教室には私と炭治郎くんと善逸くんだけだった。善逸くんをよく見ると、まだ小さい声で「ちがうんだ…」と言い続けているし、机は彼の涙なのか鼻水なのかわからない液体でびっしょり濡れていた。そんな中で聞いてもいいのかと疑問だったけど、まあいいか、と思って聞いてみた。
「今日先生から配られた不審者の絵のことなんだけど…」
と私が言ったら、突然ガタン!と音を立てて椅子から立ち上がった善逸くんがいた。勢いに負けた椅子は大きな音を立てて後ろに倒れていた。そして善逸くんは、物凄い勢いで炭治郎くんの足に縋り付くように泣きついていた。
「どうしようどうしよう、炭治郎!!!俺、不審者になっちゃってる!!!ねえ、どうしたらいいの、俺!ねえ、たんじろおおおおお!」
…やっぱり善逸くんだったんだな、とその様子を見て納得した。
「舞智華が聞きたかったのって、あの絵が善逸かどうかってことだったのか?」
「あ、うん。それもそうだったんだけど、その答えは分かったから、もう大丈夫。」
「舞智華の予想通りで、あれは善逸なんだけど…。何か他にも質問があるのか?」
「あ…あのね…」
ええい、もう2人に怪しまれてもなんでもいいから正直に全て話そう。その方が早い。
「実は…この間、善逸くんが来年はチョコが欲しいって叫んだ後、教室を出て行ったじゃない?炭治郎くんといっしょに。」
「ああ、あの時か!舞智華、ずっと着いてきてたな。」
炭治郎くんは満面の笑みで、私が着いてきていたことを言い放ったので驚いた。
「なんで知ってるの?!」
「俺、鼻がいいんだ。ずっと俺たちとは違うにおいがしてて。誰だろう…って思ってたんだけど、今のではっきりした。舞智華のにおいだったんだな。あの日、ずっと着いてきてたから、どうしたんだろうって思ってたんだ。それで、気になることって?」
「あ…あの日…先生たちと何を話してたのかな…って思って…」
と言うと、炭治郎くんは何をしていたかを丁寧に教えてくれた。そしてちょっと困った様子も見せながら「善逸が毎回文句言って大変だったんだ」とも言っていた。
「善逸は先生の前では散々文句を言ってたんだけど、最終的には聞いたアドバイスを全部取り入れてたみたいで。そのことが今日配られた絵からよくわかったよ。」
「そういうことだったんだね…」
あの日、2人が何をしていたのかが分かって、ホッとしたと同時に、善逸くんのそんな必死な思いを目の当たりにして、ますますバレンタインにチョコをあげたくなってしまった。
「ねえ常野重さん…俺、どうしたらいいと思う…?」
と、泣きすぎて鼻声になった善逸くんが質問をしてきた。
「あ、舞智華でいいよ。」
「あ、そう?じゃあさ、舞智華ちゃんは…あの絵見てどう思った…?」
震える声で恐る恐る聞いてくる善逸くん。まだ涙が止まらない。
「私はあの絵が善逸くんだって、すぐわかったよ。」
「わかっちゃったの?!何で?!」
とちょっと汚い高音で善逸くんは言い放った。
「だって…ずっと見てるから。」
「え?」
「私、善逸くんのことずっと見てるから。」
「え?どういうこと?」
善逸くんがグズっと鼻を啜りながら聞いてくる。
そして炭治郎くんは何かを急に察したのか、突然ハキハキとした口調で「あ!明日のパンの仕込みがあるんだった!善逸、申し訳ない!俺は帰る!」と言ってものすごいスピードで帰って行った。
「ちょっと待てよ!たんじろおおおおおお!」
と善逸くんは涙ながらに叫んでいた。
炭治郎くんが居なくなった教室には、もちろん私と善逸くんしかおらず、急にシーンとした雰囲気に包まれた。
グズっと鼻を啜りながら、善逸くんが口を開いた。
「舞智華ちゃん…。」
「ん?」
「俺のことずっと見てるってどういうこと?」
「え?」
「だってさっきそう言ってたじゃない。どうして俺のことずっと見てるの?俺ってそんなに気持ち悪い?」
「そんなこと一言も言ってないじゃない。」
「俺…俺…自分に自信もないし、なんなら自分のことが一番嫌いだし…。モテたいと思って、一生懸命、来年チョコ貰えるようにがんばってたら不審者って言われるし…。」
話しながらどんどん自信を無くしていく善逸くんがそこにいた。どう励ませばいいのか考えながら話を聞いていた。
「そんな俺を、舞智華ちゃんはどうしてずっと見てるの?」
善逸くんは泣きすぎてちょっと赤くなった目で、私をジッと見つめている。もうこれは、何も言わないわけにはいかない状況になってしまって、不本意ながら自分の気持ちを伝えることにした。
「私…入学したときから、善逸くんのことが好きなの。」
「えっ」
私が思い切って告白したら、善逸くんは顔を真っ赤にしていた。そして、彼はオロオロしながらも、がんばって私に話しかけてきた。
「え、何で俺なの?炭治郎とか伊之助とかいるじゃない?何で俺なの!?」
「だって…善逸くん、入学式の日に私のこと助けてくれたんだもん。」
「え?」
***
そう、あれは入学式の日だった。
新年度早々、私はうっかり寝坊してしまい、大急ぎで入学式へと向かった。
私の両親は二人とも教員で、別々の学校に勤務していることもあって、私の入学式にはいつも参加していなかった。
だから寝坊しないようにと気をつけていたにも関わらず、前日の夜になかなか寝付けなかったせいか、寝坊をしてしまった。
慌てて学校へ行き、とにかく走って走って学校までの道を急いだ。そして普段運動していない私は、学校が見えてきたところで足がもつれてド派手に転んでしまった。
慌てて立ち上がったとき、布の裂ける音がした。ふと見ると、転んだ時に側溝とその金属の蓋の間に、制服のスカートが挟まっていたようで、私が立ち上がった勢いでスカートの一部が裂けてしまった。
なんとも恥ずかしい。転けてケガしただけではなくて、新品の真っ新なスカートまで破いてしまうとは。親にどう顔向けをすればいいのやら…と思いつつも、遅れないように急がなければ、という気持ちの方が勝っていた。
裂けたスカートにさほど気も留めず、駆け出した途端、後ろから「うわあああああ!」という叫び声が聞こえたと思ったら
「君!そこの君!名前分かんないけど、キメツ学園のかわいい君!」
という声が聞こえた。
周りを見回してみても、キメツ学園の制服を着ているのは私しかいなかったので、後ろを振り向いた。
するとそこには、金髪で下がり眉の男の子がいて、
「そうそう、君だよ!ちょっと止まって!お願いだから止まって!」
と懇願されたので、とりあえず止まった。
すると彼は鼻血を垂らしながらものすごい勢いで駆け寄ってきて、そして私を細めの路地に引っ張った。
「ちょっと!何するんですか!」
と私が言うと、
「ちょっとだけ待ってて!すぐ終わるから!」
と言って、目の前でブレザーを脱ぎ始めた。
私は訳もわからず、その様子を見ていると、目の前の彼は更にカーディガンまで脱いだ。何事かと思っていると、腰回りに温もりを感じて、ふと見ると彼のカーディガンが私の腰に巻かれていた。
「え?どういうこと?」
「…見たくて見たわけじゃないんだけど…!スカートが破れてて、君が走るたびに下着が見え隠れしてたの…!気が気じゃなかったの、俺…!」
「えっ?!見えてたの?!」
「そうだよおおお!君、女の子なんだし、もうちょっとそういう貞操的なところには気を配ったほうがいいと思うよ!かわいいんだし!変な男もたくさんいるんだから!」
金髪の彼はそう言うと、
「それ、ずっと使っていいから!返さなくてもいいし!じゃ!」
と言って、学校の方へと走っていった。すごく足が速かった。
「あ…名前聞くの忘れた…」
嵐のように後ろから追いかけてきて、自分のカーディガンを私の腰に巻いてくれて、そしてそのまま走り去った彼は、私にはちょっと王子様に見えた。なんて優しい人なんだと思った。あっという間に恋していた。
カーディガンを返そうにも名前を聞いていない。いつ返せるかわからないけど、いつか返そう、と心に決めて、私も学校へと走った。
入学式には間に合ったけど、校門で冨岡先生に
「なんだその格好は!入学式早々、校則違反だぞ!」
と言われ、事情を説明すると渋々受け入れてくれた。
そして入学式が終わって、クラスに戻り冷静に周りを見たら、今朝の彼がいた。名前は我妻善逸だと、その時の点呼で知った。お礼を言いたかったが、恥ずかしくて言えず、結局そのままになってしまった。
その日から、私は善逸くんに恋をして、ずっと彼を見ていた。
***
「入学式の日のこと、何か覚えてる?」
付き合ってもいないのに、善逸くんを試すような聞き方をする私も、どこか意地悪だな…と思った。
「入学式の日…?そうだなぁ…。俺、入学式に遅れそうで一生懸命走ってたんだよね。そしたらさ…」
「そしたら?」
「俺の前にも走ってる女の子がいたんだけどさ。」
「うん。」
「その子のスカートが破れてて。」
「うん。」
「下着が見えちゃって。」
「うん。」
「ラッキーって思ったんだけど、隠してあげなきゃかわいそうだと思ったんだよね。」
「ラッキーって思ったんだ。」
「だって男だもん。そりゃあ、普通見えないものが見えたらラッキーって思っちゃうよ。」
「ふーん。」
「…舞智華ちゃん…なんか怒っちゃった?」
「ううん、別に。それで?」
「俺のカーディガンあげて、そのまま。」
「その子のこと、何も覚えてないの?」
「そうだね…。俺も慌ててたし、スカート破れてるって言われただけでも、女の子はきっと恥ずかしいだろうと思ったから、あんまり顔は見ないようにしてて。だから、顔は覚えてないんだ。」
「そうなんだ…。」
善逸くんは何も覚えてない様子だったから、私はすこし残念に思ってしまった。そんな私の姿を見て一言、善逸くんはボソッと言った。
「でも、その子の音は覚えているよ。」
「え?音?」
「うん。俺、昔から耳がよくて。その子の音、舞智華ちゃんの音と一緒だよ。」
「え?」
「だから…俺があの日会ったのは、舞智華ちゃんだったんだよね?」
「うん…。」
「スカート、新しくしたの?」
「うん。」
「そっか。」
「あの日…カーディガンを貸してくれてありがとう。善逸くんのおかげで、恥ずかしい思いはしなくて済んだよ。」
やっとずっと言いたかった言葉を伝えられた。
すると、善逸くんはニコッと笑って言った。
「そんなの気にしないで。俺の方こそ、好きって言ってくれてありがとう。」
そう言って、私のことをギュッと抱き締めた。
…なんでこんなに急展開なの?
「俺、あの日会ったのが舞智華ちゃんだったことにはずっと気づいてたよ。でも、俺のことをどう思ってるかはわからなくて、ちょっと怖かったから話せなかった。」
善逸くんから出た台詞に、目が点になった。お互いに入学式の日に出会った相手だということに気づいていたけど、全然話せていなかったということがわかって、なんだかずっと胸に引っかかっていたものが取れたような気がした。
「まさか舞智華ちゃんが俺のこと好きでいてくれたなんて思わなかったよ。だから、俺の方こそありがとう。」
あの日、善逸くんを優しい人だと感じたのは間違いじゃなかった。この人を好きになって良かったと思った。
そんなことを思っていると、善逸くんは体を離して、そして私の手をぎゅっと握ってこう言った。
「舞智華ちゃん、俺と付き合ってください。幸せにするから。」
急な善逸くんからの告白に一瞬時が止まったけど、私はすぐに「はい」と返事をした。
信じられないことに、善逸くんの誕生日もバレンタインも待たずして、恋人の関係に発展できた。
恋愛の神こと宇髄先生に、ちゃんと話してみろとアドバイスをもらって良かったと思った。
そしてふと思い出したことを善逸くんに伝えてみる。
「善逸くん。」
「なに、舞智華ちゃん?」
「もうあの格好して、女の子に近寄らないよね?」
「もちろんだよ!だって、舞智華ちゃん、来年チョコくれるんでしょ?」
「…うん。」
「もう俺のことを不審者とは呼ばせないよ!」
なんだかよく分からない元気な返事だったけど、そして安心できない返事だったけど、善逸くんの不審者は終わりそうです。
二人で教室を出て、途中まで一緒に帰った。善逸くんと今までほとんど話したことのなかった私は、今まで話さなかった時間を埋めるように話をしながら歩いた。楽しい時間だった。
「じゃあ、俺こっちだから。」
「うん。」
「舞智華ちゃん、また明日ね。」
善逸くんはそう言って、私の頭をポンポンと撫でた。ちょっと恥ずかしかったけど、嬉しかった。こうして、私の青春が始まった。これから善逸くんとどんな時間を過ごせるのか楽しみだ。
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