短編
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刀鍛冶の里は鬼殺隊員といえど、場所を知らされておらず、そこへ行くには複数の隠の協力が必要となる。刀鍛冶は皆、ひょっとこの面をして仕事をする。鋼鐵塚蛍もその一人である。
「ねえ、蛍。自慢の包丁を持って、どこへ行こうとしているの?」
「どこでもいいだろう。」
「どこでもいいわけないでしょう。あなたのその包丁、驚くぐらい切れるのよ。」
「自慢の包丁だからな。」
「それで、どちらへ?」
中々行き先を言おうとしない鋼鐵塚に、幼い頃からの友である常野重舞智華はふつふつとした苛立ちを覚えていたがために、旧友でありながら威圧感のある丁寧な言葉で問うていた。
「…あいつのとこだ、あいつの。あの赫灼のあいつだ。」
「包丁を持って炭治郎さんのところへ?」
「ああ、そうだ。俺の刀を折りやがったからな。」
「…ほどほどに。」
舞智華が小さい声でそう言うと、鋼鐵塚は無言のままその場を走って立ち去った。後から聞くに、あの切れ味抜群の包丁を持って、恨み節たっぷりに竈門炭治郎へ襲いかかろうとしていたそうな。
そんな鋼鐵塚がもうじきまた里に戻ってくるのを舞智華は心待ちにしていた。
「舞智華、蛍はどこや。」
家に訪ねてきたのは鉄地河原鉄珍であった。
「鉄珍様。蛍は先日、炭治郎さんのところへ行きました。もうじき帰ってくるかと思いますが…何かありましたか?」
「特に何があるわけでもないが…。相変わらず、脆い刀を作っておるなあ…と思ってな。」
「え?」
「蛍が打った鋼はまだまだ脆い。あやつ同様にな…。」
「鉄珍様は、蛍が脆いと…そう仰りたいのですか?」
「そうだ。」
「でも…!お言葉ですが、鉄珍様。炭治郎さんも剣士になってからの経験も浅いですし、無理な力の込め方をすることもあるのではないでしょうか…。」
「仮にそうであったとしても、折れぬような刀を作るのが、わしらの仕事ではないか?」
「そうですが…。」
「刀が折られて癇癪を起こすようではまだまだ脆いのだ。」
その言葉を発した鉄地河原はどことなく、寂しげにも見え、そしてまた何かを憂いているようにも見えた。
「わしは…あの子…蛍のために、何かしてやれたんだろうかのう…。」
寂しげにそう呟いた鉄地河原を見た舞智華も、心のどこかを摘まれたような気持ちになったが、力を込めて言い放った。
「鉄珍様、何を仰るんですか。鉄珍様のおかげで、蛍はこうして刀鍛冶の仕事ができているのです。」
「気を使わせてすまんの、舞智華。蛍が戻ったら教えてくれな。」
鉄地河原はそう言って、舞智華の家を後にした。
鉄地河原が帰ってしばらくすると、待ち人がようやっと姿を現した。
「蛍!おかえりなさい!」
「ああ。」
「炭治郎さん、元気だった?」
「ああ。」
「良かった。刀は渡せたの?」
「渡した。今度は許さねえとも伝えた。」
「蛍ったら。」
「だが…」
「ん?蛍、どうしたの?」
「あいつ、またきっと折りやがるだろうな。」
「え?」
舞智華は鋼鐵塚の発言を聞いて、一瞬、目の前の刀鍛冶が力を抜いて刀を打ったのかと思ってしまったが、この男に限ってそんなことがあるはずがないと冷静になり、話の続きに耳を傾けた。
「俺が今まで出会ったどの剣士よりも、成長の速度が速い。並大抵じゃない。俺の刀が耐え得る衝撃を遥かに超える戦いをいつもしてくる。悪いのはあいつじゃない。赫灼のあいつの成長の速度を見誤っている俺の腕が鈍なんだ。」
「蛍…。いつの間にそんなことが言えるようになったの…。」
「うるせえなあ。」
「いつの間にそんな人間の心を…」
「ずっと人間だろ。」
「時々包丁持って、般若になるじゃない。」
「それは赫灼のあいつが俺の刀を折るからだ。」
「でもさっき…俺の腕が鈍だって…」
「…本心じゃねえよ、あんなの。全部あの赫灼のせいだ。あいつが悪い。」
急に本音を漏らしたかと思えば、あっという間に元の鋼鐵塚へと戻ってしまったのを少し残念に思った舞智華だった。
「でも…」
「あ?」
「炭治郎さん、ずっとあなたに刀を依頼してるわよね。」
「それは俺の腕がいいからだろ。」
「蛍の厄介な性格にもよく付き合ってくれてるわよね。」
「俺の性格がいいからだろ。」
「うん、絶対そんなことはないんだけどね。蛍に付き合ってくれてる炭治郎さんがとんでもなく優しい性格なんだと思うの。」
ニコニコしながら痛烈な言葉を紡ぐ舞智華に少々の毒気を感じた鋼鐵塚は、結んである手ぬぐいの端を少し摘んで、知らぬ間に流れた汗を拭った。
「蛍もなんだかんだ言いながら、炭治郎さんのこと好きよね。」
「好いてねえよ、あんな奴。」
「刀が折れて文句言いながらも、新しい日輪刀を作るじゃない。」
「はっ、仕事だからな。」
「もう、素直じゃないんだから。」
クスッと笑いながら、舞智華は鋼鐵塚の肩をポンと叩いた。珍しく、鋼鐵塚の面の奥から、少しくぐもった笑い声が聞こえたかと思ったら、急に鋼鐵塚は立ち上がった。
「じゃあな。」
「え、蛍、どこ行くの?」
「ちょっとな。」
そう言うと、鋼鐵塚はさっさと家を出て行ってしまった。
「ちょっと、待って!」
舞智華はそそくさと出て行った鋼鐵塚の背中を追って必死に走った。どこまで行くかわからなかったが、よく知っている里だから見失わないだろうと思っていた。ところが、いつの間にか舞智華の視界から鋼鐵塚は消えていた。
「蛍…?どこ行ったの…?」
舞智華は、よく見知ったはずの里にこんな場所があったのかと感じるほど、初めて見た景色に閉じ込められた感覚になった。追ってきた鋼鐵塚は見当たらず、不安を感じていると、金属同士がぶつかり合う音がした。
音の方へ向かっていくと、小さな小屋があった。建て付けの悪い戸の隙間から中が見えた。そこには無心で刀を打ち続ける鋼鐵塚の姿があった。紅く燃える鉄を打ち続け、また熱して打ち続ける。そんな鋼鐵塚の背中を見た舞智華は、幼馴染への長年の恋心を燃やし続けていた。
「刀も炭治郎さんも、大好きなくせに素直じゃないんだから。でも、そんな不器用なところも蛍なのよね。」
と、舞智華はつぶやいて、自分の家へと向かった。鋼鐵塚への差し入れの握り飯を作るために。舞智華が素直に気持ちを伝えるのもだいぶ先のことになりそうである。
「ねえ、蛍。自慢の包丁を持って、どこへ行こうとしているの?」
「どこでもいいだろう。」
「どこでもいいわけないでしょう。あなたのその包丁、驚くぐらい切れるのよ。」
「自慢の包丁だからな。」
「それで、どちらへ?」
中々行き先を言おうとしない鋼鐵塚に、幼い頃からの友である常野重舞智華はふつふつとした苛立ちを覚えていたがために、旧友でありながら威圧感のある丁寧な言葉で問うていた。
「…あいつのとこだ、あいつの。あの赫灼のあいつだ。」
「包丁を持って炭治郎さんのところへ?」
「ああ、そうだ。俺の刀を折りやがったからな。」
「…ほどほどに。」
舞智華が小さい声でそう言うと、鋼鐵塚は無言のままその場を走って立ち去った。後から聞くに、あの切れ味抜群の包丁を持って、恨み節たっぷりに竈門炭治郎へ襲いかかろうとしていたそうな。
そんな鋼鐵塚がもうじきまた里に戻ってくるのを舞智華は心待ちにしていた。
「舞智華、蛍はどこや。」
家に訪ねてきたのは鉄地河原鉄珍であった。
「鉄珍様。蛍は先日、炭治郎さんのところへ行きました。もうじき帰ってくるかと思いますが…何かありましたか?」
「特に何があるわけでもないが…。相変わらず、脆い刀を作っておるなあ…と思ってな。」
「え?」
「蛍が打った鋼はまだまだ脆い。あやつ同様にな…。」
「鉄珍様は、蛍が脆いと…そう仰りたいのですか?」
「そうだ。」
「でも…!お言葉ですが、鉄珍様。炭治郎さんも剣士になってからの経験も浅いですし、無理な力の込め方をすることもあるのではないでしょうか…。」
「仮にそうであったとしても、折れぬような刀を作るのが、わしらの仕事ではないか?」
「そうですが…。」
「刀が折られて癇癪を起こすようではまだまだ脆いのだ。」
その言葉を発した鉄地河原はどことなく、寂しげにも見え、そしてまた何かを憂いているようにも見えた。
「わしは…あの子…蛍のために、何かしてやれたんだろうかのう…。」
寂しげにそう呟いた鉄地河原を見た舞智華も、心のどこかを摘まれたような気持ちになったが、力を込めて言い放った。
「鉄珍様、何を仰るんですか。鉄珍様のおかげで、蛍はこうして刀鍛冶の仕事ができているのです。」
「気を使わせてすまんの、舞智華。蛍が戻ったら教えてくれな。」
鉄地河原はそう言って、舞智華の家を後にした。
鉄地河原が帰ってしばらくすると、待ち人がようやっと姿を現した。
「蛍!おかえりなさい!」
「ああ。」
「炭治郎さん、元気だった?」
「ああ。」
「良かった。刀は渡せたの?」
「渡した。今度は許さねえとも伝えた。」
「蛍ったら。」
「だが…」
「ん?蛍、どうしたの?」
「あいつ、またきっと折りやがるだろうな。」
「え?」
舞智華は鋼鐵塚の発言を聞いて、一瞬、目の前の刀鍛冶が力を抜いて刀を打ったのかと思ってしまったが、この男に限ってそんなことがあるはずがないと冷静になり、話の続きに耳を傾けた。
「俺が今まで出会ったどの剣士よりも、成長の速度が速い。並大抵じゃない。俺の刀が耐え得る衝撃を遥かに超える戦いをいつもしてくる。悪いのはあいつじゃない。赫灼のあいつの成長の速度を見誤っている俺の腕が鈍なんだ。」
「蛍…。いつの間にそんなことが言えるようになったの…。」
「うるせえなあ。」
「いつの間にそんな人間の心を…」
「ずっと人間だろ。」
「時々包丁持って、般若になるじゃない。」
「それは赫灼のあいつが俺の刀を折るからだ。」
「でもさっき…俺の腕が鈍だって…」
「…本心じゃねえよ、あんなの。全部あの赫灼のせいだ。あいつが悪い。」
急に本音を漏らしたかと思えば、あっという間に元の鋼鐵塚へと戻ってしまったのを少し残念に思った舞智華だった。
「でも…」
「あ?」
「炭治郎さん、ずっとあなたに刀を依頼してるわよね。」
「それは俺の腕がいいからだろ。」
「蛍の厄介な性格にもよく付き合ってくれてるわよね。」
「俺の性格がいいからだろ。」
「うん、絶対そんなことはないんだけどね。蛍に付き合ってくれてる炭治郎さんがとんでもなく優しい性格なんだと思うの。」
ニコニコしながら痛烈な言葉を紡ぐ舞智華に少々の毒気を感じた鋼鐵塚は、結んである手ぬぐいの端を少し摘んで、知らぬ間に流れた汗を拭った。
「蛍もなんだかんだ言いながら、炭治郎さんのこと好きよね。」
「好いてねえよ、あんな奴。」
「刀が折れて文句言いながらも、新しい日輪刀を作るじゃない。」
「はっ、仕事だからな。」
「もう、素直じゃないんだから。」
クスッと笑いながら、舞智華は鋼鐵塚の肩をポンと叩いた。珍しく、鋼鐵塚の面の奥から、少しくぐもった笑い声が聞こえたかと思ったら、急に鋼鐵塚は立ち上がった。
「じゃあな。」
「え、蛍、どこ行くの?」
「ちょっとな。」
そう言うと、鋼鐵塚はさっさと家を出て行ってしまった。
「ちょっと、待って!」
舞智華はそそくさと出て行った鋼鐵塚の背中を追って必死に走った。どこまで行くかわからなかったが、よく知っている里だから見失わないだろうと思っていた。ところが、いつの間にか舞智華の視界から鋼鐵塚は消えていた。
「蛍…?どこ行ったの…?」
舞智華は、よく見知ったはずの里にこんな場所があったのかと感じるほど、初めて見た景色に閉じ込められた感覚になった。追ってきた鋼鐵塚は見当たらず、不安を感じていると、金属同士がぶつかり合う音がした。
音の方へ向かっていくと、小さな小屋があった。建て付けの悪い戸の隙間から中が見えた。そこには無心で刀を打ち続ける鋼鐵塚の姿があった。紅く燃える鉄を打ち続け、また熱して打ち続ける。そんな鋼鐵塚の背中を見た舞智華は、幼馴染への長年の恋心を燃やし続けていた。
「刀も炭治郎さんも、大好きなくせに素直じゃないんだから。でも、そんな不器用なところも蛍なのよね。」
と、舞智華はつぶやいて、自分の家へと向かった。鋼鐵塚への差し入れの握り飯を作るために。舞智華が素直に気持ちを伝えるのもだいぶ先のことになりそうである。