短編
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「お前、それで幸せなのか?」
善逸は学校の屋上で目の前の幼馴染に問うた。
「私が幸せかどうかなんて、私が決めるよ。」
「あっそ。でも、生徒に手出すなんてさ、教師としてどうなのよ?申し訳ないけど、俺はお前は幸せじゃないと思う。」
「善逸が勝手に私の幸せを決めないで。その価値基準は善逸の物差しのものであって、私の物差しとは違う。」
「はいはい、そうですねー。俺が悪かったですよー。」
我妻善逸と彼の幼馴染の常野重舞智華は、キメツ学園に通っている。舞智華は誰にも言わず、こっそり数学教師の不死川実弥と付き合っている。許されない関係であるからこそ、誰にも何も言わず、態度にも一切表してすらいなかったにも関わらず、なぜか我妻善逸だけは二人の関係性に気付いてしまった。
「そんなだから、善逸モテないんだよ。」
目の前の彼女から出てきた言葉は、善逸の心を抉るのには十分だった。
(人の気も知らないで、よく平気で言えるよな。)
「はあああ!失礼なんですけど!!心外なんですけど!!!俺がその口塞いでやろうか?!」
「やだー、マジ変態。私以外の子に言ったら、本気で引かれるやつだよ、それ。」
舞智華はケタケタと笑いながらそう言い放つ。
(本当は、本当に塞いでやりたいんだよ、その口。今すぐにでも。)
「引かれねえよ。きっとこれから、俺モテるから。」
「なに強がってんのよー。まあ、でも実弥さんのかっこよさには負けるけどねー。」
クスクスと惚気ながら、少し頬を赤くして彼女はそう言った。
善逸は何も面白くなかった。自分が幼い頃からずっと想い続けてきた相手が、高校に入学して数ヶ月後に年上の、ましてや教職に就いている者に奪われてしまったのだ。
目の前の彼女はそんな善逸の気持ちさえ知らずに、恋人との話をしてくる。他の誰にも話せないからか、心置けない仲の善逸にだけ実に嬉しそうに幸せそうに、ここ最近の出来事を報告してくる。
「それでね、この間はね宿題も見てくれたんだけどね。全部正解だったから、頭撫でてくれたの。」
「へー、あんな怖そうなオッサンが?」
「もうほんと失礼!見た目はすごく怖いけど、とっても優しい人なんだから。そんなこと言わないでよ善逸。私の彼氏なんだし。」
(お前こそそんな話するなよ。俺、お前のこと好きなんだから。)
「今はそれでいいかもしんないけどさ。卒業までまだ2年以上あるんだし…。お前が卒業するまで、オッサンは色々耐えられるんだろうかね。」
「約束なんだ。卒業までは何もしないって。実弥さんのほうから言ってきたから、大丈夫だと思う。」
「そうですか。」
善逸にとって、幸せそうに楽しそうに話している舞智華の姿を見られるのは嬉しいが、内容は血反吐が出そうなほどに嫉妬に駆られるものだった。
生まれてから大切にしてきた目の前の可憐な美しい花は、あっという間に見ず知らずの人に摘まれてしまった。
いつも側にいるのが当然だと思っていた彼女は、すっかり他人のものになり、日に日に善逸と過ごしていた時間も、不死川とのものになっていっている事実がある。その事実から目を背けたくても、善逸を見つけては、不死川との時間を報告してくる舞智華。惚れた弱みから、そんな彼女を放っておくわけにもいかず、日々悶々とした感情だけが募っていく。
「ねえ、##namw1##のその気持ちはさ、ほんとに恋なの?」
善逸はふと問いかけた。すると彼女は目が点になり、小さな声で「え?」と言った。
「わかんないけど…それってさ、大人の男への憧れみたいなものなんじゃねえの?」
「……そんなことないよ。」
「じゃあお前、あのオッサンとキスしたいって思うの?」
善逸がそう尋ねると、目の前の彼女は小さく首を縦にふる。
(俺だってお前にキスしたいよ。これでもかってぐらい。)
「あっそ。じゃあさ。」
「なによ。」
「キスより先のこともしたいって思うわけ?」
「へっ!?キスより先…?!」
善逸からの思いがけない問いかけに、舞智華の顔は真っ赤になり、そして俯いてしまった。善逸の目の前の彼女は、自分のスカートをぎゅっと握っていた。
「し…してみたい…」
(俺だって、お前にたくさん触れたいのにな。お前、俺の気持ちなんて知らないんだもんな。)
「そうですか。…じゃあ、それはきっと恋だな。」
「もう、だからずっと言ってるでしょ!」
舞智華はそう言いながら、善逸の背中を張り手で叩いた。物理的にも痛いが、善逸の心も痛かった。苦しかった。ちょっとどこかで、舞智華の想いは、自分よりも大人の男性への憧れを恋心と勘違いしているだけなのではないか、そう善逸が抱いていた淡い期待は、彼女の回答によって見事に打ち砕かれた。
目の前の舞智華の笑顔を見ることすら辛い。幸せになってほしいと祈るけれど、本当であれば俺が幸せにしたかったと、善逸は心の底から思った。
善逸は背中を叩いた舞智華の手を取り、いつになく真剣な顔で彼女に告げた。
「俺にしておいたら?俺なら舞智華のこと、絶対に幸せにできるよ。」
一瞬、時が止まったように見えたけれど、その沈黙は彼女の笑い声で破られた。
「はははっ、何急に!冗談キツイよ、善逸。善逸は幼馴染でしょ?弟にしか見えないもん。」
(やっぱりか…。俺はこんなにお前のことを想ってるのに、お前は俺のこと弟としか見てないんだな…。)
無情にも彼女の笑い声が高らかに屋上に反響した。遮るものも何もなかった。雲ひとつない青い空は、今の善逸にとっては見上げることすら辛かった。
すると屋上の扉が開いた。
「お前ら…こんなところで何してんだァ。もう授業始まっただろォ…。」
予期せず来たのは、目の前の彼女の大切な人だった。善逸にとって心地よかった時間も、あっという間に打ち砕かれる。善逸はざわざわとする自分の心を落ち着けようにも、なかなか抑えることが難しかった。
「先生、ごめんなさい!すぐ戻ります!」
舞智華はニコッと笑いながら不死川に謝り、屋上を去ろうとした。隣にいた善逸は、まだ腰を下ろしたままだったため、疑問に思った舞智華は彼の手を引いた。
「ほら、善逸も教室戻るよ。先生に怒られちゃったしね。」
彼女に手を引かれながらそう言われ、渋々腰を上げて立ち上がった。
「さっさと戻れよォ。」
と教師の顔をした不死川がそこにいた。
善逸は不死川の横を通る時、生徒でありながら教師の耳元でこう言った。
「舞智華は絶対、俺が取り戻すからな。あんたじゃ絶対、幸せになんかできない。」
「ねえ善逸、早く戻ろうってば!煉獄先生に怒られちゃうよ!…もう、不死川先生に何話したの!」
「なんでもねえよ。すぐ行く。」
そう言って二人は教室へ駆けて行った。
善逸からの宣戦布告に、一瞬は目を点にした不死川だったが、口角を上げた。
「宣戦布告ねェ。やるじゃねえか、我妻も。」
摘まれた花は取り戻すと心に決めた善逸。
切ないけれど、彼の変わらぬ一つの想いがそこにあった。
善逸は学校の屋上で目の前の幼馴染に問うた。
「私が幸せかどうかなんて、私が決めるよ。」
「あっそ。でも、生徒に手出すなんてさ、教師としてどうなのよ?申し訳ないけど、俺はお前は幸せじゃないと思う。」
「善逸が勝手に私の幸せを決めないで。その価値基準は善逸の物差しのものであって、私の物差しとは違う。」
「はいはい、そうですねー。俺が悪かったですよー。」
我妻善逸と彼の幼馴染の常野重舞智華は、キメツ学園に通っている。舞智華は誰にも言わず、こっそり数学教師の不死川実弥と付き合っている。許されない関係であるからこそ、誰にも何も言わず、態度にも一切表してすらいなかったにも関わらず、なぜか我妻善逸だけは二人の関係性に気付いてしまった。
「そんなだから、善逸モテないんだよ。」
目の前の彼女から出てきた言葉は、善逸の心を抉るのには十分だった。
(人の気も知らないで、よく平気で言えるよな。)
「はあああ!失礼なんですけど!!心外なんですけど!!!俺がその口塞いでやろうか?!」
「やだー、マジ変態。私以外の子に言ったら、本気で引かれるやつだよ、それ。」
舞智華はケタケタと笑いながらそう言い放つ。
(本当は、本当に塞いでやりたいんだよ、その口。今すぐにでも。)
「引かれねえよ。きっとこれから、俺モテるから。」
「なに強がってんのよー。まあ、でも実弥さんのかっこよさには負けるけどねー。」
クスクスと惚気ながら、少し頬を赤くして彼女はそう言った。
善逸は何も面白くなかった。自分が幼い頃からずっと想い続けてきた相手が、高校に入学して数ヶ月後に年上の、ましてや教職に就いている者に奪われてしまったのだ。
目の前の彼女はそんな善逸の気持ちさえ知らずに、恋人との話をしてくる。他の誰にも話せないからか、心置けない仲の善逸にだけ実に嬉しそうに幸せそうに、ここ最近の出来事を報告してくる。
「それでね、この間はね宿題も見てくれたんだけどね。全部正解だったから、頭撫でてくれたの。」
「へー、あんな怖そうなオッサンが?」
「もうほんと失礼!見た目はすごく怖いけど、とっても優しい人なんだから。そんなこと言わないでよ善逸。私の彼氏なんだし。」
(お前こそそんな話するなよ。俺、お前のこと好きなんだから。)
「今はそれでいいかもしんないけどさ。卒業までまだ2年以上あるんだし…。お前が卒業するまで、オッサンは色々耐えられるんだろうかね。」
「約束なんだ。卒業までは何もしないって。実弥さんのほうから言ってきたから、大丈夫だと思う。」
「そうですか。」
善逸にとって、幸せそうに楽しそうに話している舞智華の姿を見られるのは嬉しいが、内容は血反吐が出そうなほどに嫉妬に駆られるものだった。
生まれてから大切にしてきた目の前の可憐な美しい花は、あっという間に見ず知らずの人に摘まれてしまった。
いつも側にいるのが当然だと思っていた彼女は、すっかり他人のものになり、日に日に善逸と過ごしていた時間も、不死川とのものになっていっている事実がある。その事実から目を背けたくても、善逸を見つけては、不死川との時間を報告してくる舞智華。惚れた弱みから、そんな彼女を放っておくわけにもいかず、日々悶々とした感情だけが募っていく。
「ねえ、##namw1##のその気持ちはさ、ほんとに恋なの?」
善逸はふと問いかけた。すると彼女は目が点になり、小さな声で「え?」と言った。
「わかんないけど…それってさ、大人の男への憧れみたいなものなんじゃねえの?」
「……そんなことないよ。」
「じゃあお前、あのオッサンとキスしたいって思うの?」
善逸がそう尋ねると、目の前の彼女は小さく首を縦にふる。
(俺だってお前にキスしたいよ。これでもかってぐらい。)
「あっそ。じゃあさ。」
「なによ。」
「キスより先のこともしたいって思うわけ?」
「へっ!?キスより先…?!」
善逸からの思いがけない問いかけに、舞智華の顔は真っ赤になり、そして俯いてしまった。善逸の目の前の彼女は、自分のスカートをぎゅっと握っていた。
「し…してみたい…」
(俺だって、お前にたくさん触れたいのにな。お前、俺の気持ちなんて知らないんだもんな。)
「そうですか。…じゃあ、それはきっと恋だな。」
「もう、だからずっと言ってるでしょ!」
舞智華はそう言いながら、善逸の背中を張り手で叩いた。物理的にも痛いが、善逸の心も痛かった。苦しかった。ちょっとどこかで、舞智華の想いは、自分よりも大人の男性への憧れを恋心と勘違いしているだけなのではないか、そう善逸が抱いていた淡い期待は、彼女の回答によって見事に打ち砕かれた。
目の前の舞智華の笑顔を見ることすら辛い。幸せになってほしいと祈るけれど、本当であれば俺が幸せにしたかったと、善逸は心の底から思った。
善逸は背中を叩いた舞智華の手を取り、いつになく真剣な顔で彼女に告げた。
「俺にしておいたら?俺なら舞智華のこと、絶対に幸せにできるよ。」
一瞬、時が止まったように見えたけれど、その沈黙は彼女の笑い声で破られた。
「はははっ、何急に!冗談キツイよ、善逸。善逸は幼馴染でしょ?弟にしか見えないもん。」
(やっぱりか…。俺はこんなにお前のことを想ってるのに、お前は俺のこと弟としか見てないんだな…。)
無情にも彼女の笑い声が高らかに屋上に反響した。遮るものも何もなかった。雲ひとつない青い空は、今の善逸にとっては見上げることすら辛かった。
すると屋上の扉が開いた。
「お前ら…こんなところで何してんだァ。もう授業始まっただろォ…。」
予期せず来たのは、目の前の彼女の大切な人だった。善逸にとって心地よかった時間も、あっという間に打ち砕かれる。善逸はざわざわとする自分の心を落ち着けようにも、なかなか抑えることが難しかった。
「先生、ごめんなさい!すぐ戻ります!」
舞智華はニコッと笑いながら不死川に謝り、屋上を去ろうとした。隣にいた善逸は、まだ腰を下ろしたままだったため、疑問に思った舞智華は彼の手を引いた。
「ほら、善逸も教室戻るよ。先生に怒られちゃったしね。」
彼女に手を引かれながらそう言われ、渋々腰を上げて立ち上がった。
「さっさと戻れよォ。」
と教師の顔をした不死川がそこにいた。
善逸は不死川の横を通る時、生徒でありながら教師の耳元でこう言った。
「舞智華は絶対、俺が取り戻すからな。あんたじゃ絶対、幸せになんかできない。」
「ねえ善逸、早く戻ろうってば!煉獄先生に怒られちゃうよ!…もう、不死川先生に何話したの!」
「なんでもねえよ。すぐ行く。」
そう言って二人は教室へ駆けて行った。
善逸からの宣戦布告に、一瞬は目を点にした不死川だったが、口角を上げた。
「宣戦布告ねェ。やるじゃねえか、我妻も。」
摘まれた花は取り戻すと心に決めた善逸。
切ないけれど、彼の変わらぬ一つの想いがそこにあった。