知
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「え?藤の花?」
「うん。善逸は気づいてなかったのか?」
「そ…そんな匂いする…?」
炭治郎は、舞智華ちゃんから藤の花の匂いがするって言い出したけど、俺は一度も感じたことがなくて、一瞬理解ができなかった。舞智華ちゃんの顔に自分の顔を近づけて、においがしないかと思って嗅いでみたけど、何も感じなかった。
「鼻が利く俺でも、微かにしか感じないにおいだから、俺以外の人だと感じにくいだろうと思うよ。」
「…あ、そう。」
なんだか、炭治郎のほうが俺の知らない舞智華ちゃんを知っているように思えて、心に黒い靄がかかったように感じた。
「君から藤の花のにおいがするのは…どうしてだろう?」
「そ…それは…」
舞智華ちゃんは今にも消え入りそうな声で、一生懸命言葉を紡ごうとしていた。そんな姿がなんとなく、裁判にかけられてるように見えて、なぜか俺の心が苦しくなった。
「舞智華ちゃん、辛いなら無理に話さなくてもいいよ。」
俺がそう言うと、舞智華ちゃんは俺と繋いでいる手をぎゅっと強く握り返して、俺の顔をじっと見据えて言った。さっきの怯えていた音はどこへやら。覚悟を決めた音がしていて、なんとなく舞智華ちゃんが言おうとしていることがわかった気がした。
「大丈夫です、善逸さん。心配してくださって、ありがとうございます。でも、これはきちんと説明しなければならないことだと思いますから。」
舞智華ちゃんはそう言って炭治郎の方を向いて話し始めた。
「私は…藤の花の家紋の家の娘でした。」
「え?そうだったの?」
「善逸、知らなかったのか?」
「だってそんな話、したことないし…。」
「はあ?じゃあお前、毎晩ここに足繁く通って何してたんだよ。」
「え?舞智華ちゃんかわいいねー、とか、いっしょにこんなことしたいねー、とか話したり。お花で冠作ってあげたりとか、一緒に月を見上げたりとか。」
「けっ、くだらねえ。」
「くだらないってなんだよ!!お前、女の子見てこんな気持ちになったことないんだろ!」
「俺には必要ないからなあ!」
「やめないか、2人とも!今は舞智華の話の途中だ!」
思わず仲間内で言い合いになってしまったところを、炭治郎の冷静な声かけでふと我に戻る。ごめん、舞智華ちゃん。大事な話をしてくれようとしてたのに、つい伊之助と言い合ってしまった。
「舞智華ちゃんの大事な話を遮っちゃってごめんねええええ!!」
俺がちょっと涙ながらに言うと、くすっと笑いながら「全然気にしていませんよ。」と言ってくれた。舞智華ちゃん、本当に君は優しいね。俺、幸せだよ。
「舞智華ちゃんは…藤の花の家紋の家の子だったんだよね…?」
「はい、そうです。」
「どうして鬼になっちゃったの…?」
「それは、あの日…。用事があって、町まで一人で出かけたんですが…帰りが遅くなってしまって…。」
「それで、何があったんだ?」
「藤の花の香り袋を持って、いつも出かけていたんですが…。」
「家に忘れちゃったの?」
「いいえ、きちんと持って出かけました。家へ帰る途中で、辺りが暗くなってしまって…。途中にある林の中から物音がして、うっかり香り袋を落としてしまって…。」
「香り袋を落としただけで、襲われたのか?」
「ええ。間が悪かったとしか言えないです…。時が止まったように、手から香り袋が落ちていくのが見えたのですが、その刹那に鬼に襲われてしまったんです。」
「そうだったんだ…。大変だったんだね…舞智華ちゃん…。」
俺が鼻を啜りながら舞智華ちゃんの話を聞いている横で炭治郎は何かを真剣に考え込んでいた。
「炭治郎…?」
「どうして…そんなにはっきりと人間だったころのことを覚えているんだろう…。」
「え?」
「禰󠄀豆子は自我がないし、人間だったころを覚えているかどうかも分からない。」
「炭治郎…。」
炭治郎からは苦しくて切ない音がしていた。同じ鬼でも禰󠄀豆子ちゃんと舞智華ちゃんの様子が全く違うことに戸惑いを隠せていなかった。
「…舞智華は、ほかに鬼になった時のことを覚えているのか?」
「その時のことはうっすらとしか覚えていませんが…。鬼に襲われたそのすぐ後に、自分が落としてしまった藤の花の香り袋を目にして、直感的に拾わなければと思ったんです。悶えながらも、香り袋を拾って、着物の袂にしまいました。」
「今もその香り袋を持っているか?」
「ええ。」
そう言うと舞智華ちゃんは袂から少し古びた香り袋を取り出して、俺たちに見せてくれた。それを目の前にしても、俺では藤の花の香りを感じることができなかったけど、炭治郎は「このにおいだ。」と言って、納得していた。
「この香り袋のおかげで、私は私自身を見失わなかったのではないかと思っています。」
香り袋を見つめる舞智華ちゃんの表情は、人間だった頃を懐かしみながらもどこか切なげだった。そんな舞智華ちゃんにどう声をかけたらいいかわからなかった。
「うん。善逸は気づいてなかったのか?」
「そ…そんな匂いする…?」
炭治郎は、舞智華ちゃんから藤の花の匂いがするって言い出したけど、俺は一度も感じたことがなくて、一瞬理解ができなかった。舞智華ちゃんの顔に自分の顔を近づけて、においがしないかと思って嗅いでみたけど、何も感じなかった。
「鼻が利く俺でも、微かにしか感じないにおいだから、俺以外の人だと感じにくいだろうと思うよ。」
「…あ、そう。」
なんだか、炭治郎のほうが俺の知らない舞智華ちゃんを知っているように思えて、心に黒い靄がかかったように感じた。
「君から藤の花のにおいがするのは…どうしてだろう?」
「そ…それは…」
舞智華ちゃんは今にも消え入りそうな声で、一生懸命言葉を紡ごうとしていた。そんな姿がなんとなく、裁判にかけられてるように見えて、なぜか俺の心が苦しくなった。
「舞智華ちゃん、辛いなら無理に話さなくてもいいよ。」
俺がそう言うと、舞智華ちゃんは俺と繋いでいる手をぎゅっと強く握り返して、俺の顔をじっと見据えて言った。さっきの怯えていた音はどこへやら。覚悟を決めた音がしていて、なんとなく舞智華ちゃんが言おうとしていることがわかった気がした。
「大丈夫です、善逸さん。心配してくださって、ありがとうございます。でも、これはきちんと説明しなければならないことだと思いますから。」
舞智華ちゃんはそう言って炭治郎の方を向いて話し始めた。
「私は…藤の花の家紋の家の娘でした。」
「え?そうだったの?」
「善逸、知らなかったのか?」
「だってそんな話、したことないし…。」
「はあ?じゃあお前、毎晩ここに足繁く通って何してたんだよ。」
「え?舞智華ちゃんかわいいねー、とか、いっしょにこんなことしたいねー、とか話したり。お花で冠作ってあげたりとか、一緒に月を見上げたりとか。」
「けっ、くだらねえ。」
「くだらないってなんだよ!!お前、女の子見てこんな気持ちになったことないんだろ!」
「俺には必要ないからなあ!」
「やめないか、2人とも!今は舞智華の話の途中だ!」
思わず仲間内で言い合いになってしまったところを、炭治郎の冷静な声かけでふと我に戻る。ごめん、舞智華ちゃん。大事な話をしてくれようとしてたのに、つい伊之助と言い合ってしまった。
「舞智華ちゃんの大事な話を遮っちゃってごめんねええええ!!」
俺がちょっと涙ながらに言うと、くすっと笑いながら「全然気にしていませんよ。」と言ってくれた。舞智華ちゃん、本当に君は優しいね。俺、幸せだよ。
「舞智華ちゃんは…藤の花の家紋の家の子だったんだよね…?」
「はい、そうです。」
「どうして鬼になっちゃったの…?」
「それは、あの日…。用事があって、町まで一人で出かけたんですが…帰りが遅くなってしまって…。」
「それで、何があったんだ?」
「藤の花の香り袋を持って、いつも出かけていたんですが…。」
「家に忘れちゃったの?」
「いいえ、きちんと持って出かけました。家へ帰る途中で、辺りが暗くなってしまって…。途中にある林の中から物音がして、うっかり香り袋を落としてしまって…。」
「香り袋を落としただけで、襲われたのか?」
「ええ。間が悪かったとしか言えないです…。時が止まったように、手から香り袋が落ちていくのが見えたのですが、その刹那に鬼に襲われてしまったんです。」
「そうだったんだ…。大変だったんだね…舞智華ちゃん…。」
俺が鼻を啜りながら舞智華ちゃんの話を聞いている横で炭治郎は何かを真剣に考え込んでいた。
「炭治郎…?」
「どうして…そんなにはっきりと人間だったころのことを覚えているんだろう…。」
「え?」
「禰󠄀豆子は自我がないし、人間だったころを覚えているかどうかも分からない。」
「炭治郎…。」
炭治郎からは苦しくて切ない音がしていた。同じ鬼でも禰󠄀豆子ちゃんと舞智華ちゃんの様子が全く違うことに戸惑いを隠せていなかった。
「…舞智華は、ほかに鬼になった時のことを覚えているのか?」
「その時のことはうっすらとしか覚えていませんが…。鬼に襲われたそのすぐ後に、自分が落としてしまった藤の花の香り袋を目にして、直感的に拾わなければと思ったんです。悶えながらも、香り袋を拾って、着物の袂にしまいました。」
「今もその香り袋を持っているか?」
「ええ。」
そう言うと舞智華ちゃんは袂から少し古びた香り袋を取り出して、俺たちに見せてくれた。それを目の前にしても、俺では藤の花の香りを感じることができなかったけど、炭治郎は「このにおいだ。」と言って、納得していた。
「この香り袋のおかげで、私は私自身を見失わなかったのではないかと思っています。」
香り袋を見つめる舞智華ちゃんの表情は、人間だった頃を懐かしみながらもどこか切なげだった。そんな舞智華ちゃんにどう声をかけたらいいかわからなかった。