倦怠
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黙って聞いていた。
俺が愛しいと思う舞智華が、楽し気に話す姿を見ているだけで俺の心は満たされていた。
「ねえ、景吾。聞いてる?」
不意にこいつから笑顔が消えると、今度は不安気に俺の顔をじっと見る。
「ああ、聞いてるぜ。」
そう返して頭を撫でてやる。
いつもはこれで機嫌が直るが、今日はそうはいかなかった。
「…私に飽きた?」
不意に言った台詞に一瞬、凍りついたように動くことができなかった。
「アーン…?何言ってやがる、馬鹿言うな。」
抱き寄せようと腕を肩に回そうとすれば、その腕は振り払われた。
「…他に好きな人がいるんでしょ?」
悲し気に呟いた声色は、少しだけ震えていた。
俺の顔など見ることがなかった。
『俺の心に巣食っているのは舞智華、お前だけだ。』
そんな言葉をかけてやりたいと思っても、今の状態ではただの安っぽい言い訳にしか聞こえないだろう。
人間なんてそんなものだ。
ずっと同じ相手の隣に、毎日立ってほんの少しの時間を共有する。
それが数年続いてしまえば、飽きがきてしまうことだってある。
怒りも悲しみも、喜びも楽しみも全て共有してきた俺たちには、今更、言葉で伝えるだなんて必要ないと思っていた。
ただ、そう思っているのは男の俺だけで、女であるこいつには何年たっても言葉には重みがあるのだなんて気づかされる。
「お前だけだって言ってんだろ、アーン?」
そんな言葉は安っぽい。態度で示そうにも、今のこいつは間違いなく俺を拒否することなんて明白だ。
そんな事は互いに分かり切っている筈なのに、それでもこいつは俺の言葉を求める。
信頼しているからこそ、不意に始まる倦怠期。
大きな変化や波があるわけでもない俺とこいつの関係はいとも簡単に倦怠してしまう。
そしてそんな状態になれば、信頼しているはずなのに、互いが互いに相手のあら探しを始める。
そうして、隣のこいつは俺に言う。
「他に好きな人がいるんでしょ?」と。
呆れてものも言えないと思ってしまっては前に進まない。
2人の間に出来た僅かな溝を埋める方法を画策する。
安っぽい言葉を紡いだり、安っぽい体の関係だったり。そんな簡単な方法を使ってこいつをなだめたところで、この後は何も変わらない。
どんなに頭を捻っても答えなんて出ないのが倦怠期。
そうして互いにほんの少しの距離を置く。
「今日の部活は遅くなるから先に帰ってろ。」
ある日俺がそう言えば、こいつは二つ返事で「はいはい。」と実に面倒そうに返してくる。その返事を確かめて、俺は部活へ向かう。
だからといって、苛立ったりするわけではない。
これが俺たちの倦怠期間の日常だ。
「張り切りすぎて腕とか肩とか壊さないでよー。」
あいつは俺に何の気無しに言い放つ。心配でもしない限り、こんな台詞は吐かないだろう。
だから俺はこいつを手放すことが出来ないでいる。
「はっ、俺様がそんなヘマするとでも思ってんのか、アーン?」
と嚙みつけば、「思ってなかったら言わないわよ、バーカ。」と言われる。
俺が無理をしていたり、無理をしようとすることを、俺の隣にいるこいつは良く知っている。
だからこそ、口煩く聞こえないように、気の無い声で俺に言う。
「まあ、見てろ。」
そう言って部活へ向かう俺は「氷帝テニス部部長、跡部景吾」の顔になる。
舞智華の言葉は少なからず俺の背中を押したり、俺にとってのストッパーにもなったりする。
だからこそ、俺はあいつを信頼する。あいつにしか分からない俺が存在している。
そうして暫く時間をかけて少しずつ、俺とあいつは互いの距離を狭くする。
「ねえ、お昼は?」
端的に俺に尋ねるこいつの手には、手提げ袋が2つ。
「俺様に弁当作ってきたんだろ?だったら始めからそう言えばいいじゃねぇか。」
そう言えばあいつは俺の席の前に座り、包みの一つを俺の前にさしだす。
「それ、景吾のだから」
「バーカ、言われなくても分かる。」
「あ、そう。」
「ああ。」
そう言って包を開く。
中に入っているのは、至って普通の、一般家庭の弁当そのものだった。
いつもの俺の食事とは打って変わって、まるで味が違う。
家庭的な味は、俺の気持ちを和らげて行く。
「うまい。」
「そりゃどうも。」
「もっと素直に喜べよ、バーカ。」
「これでも大分喜んでますけど。」
そうは言いながらも、表情の変わらないこいつの頬を指で摘まんで引っ張ってやる。
「嬉しいんだった少しぐらい笑え。」
「余計なお世話ですー。」
そう返すこいつの口角は実は嬉しそうにつりあがる。
俺はその少しの変化をみて、元に戻ったのだと確信する。
「ねえ、景吾。部活は何時まで?」
「さあな…遅くなるから先に帰ってろ。」
「ううん、待ってる。」
「そうか、わかった。」
「無理しないでね」
「しねぇよ。」
そんな会話を交わして、俺はあいつが用意した弁当を食べ尽くす。そうして各自の席に戻って、授業を受ける。
部活の時間になれば、俺はテニス部部長の顔になる。
そして部活が終われば、俺は舞智華が待つ教室に足を運び、あいつは俺が来るのを確認して、小走りで駆け寄ってきて俺に抱きつく。
だから俺は、こんなに愛しいこいつに、愛しさが伝わるように、しっかりと抱きしめ返す。
「待たせたな。」
「お疲れ様、景吾。」
「帰るぞ。」
「うん!」
そうして手をつないで、校舎を出て、学校を後にする。
こうして俺もあいつも。
互いを必要とする、俺たちなりの日常へと戻って行く。
俺を理解しているこいつ無しで、俺の生活はきっと成り立たない。
それ程までに、俺はこいつを愛して、必要としている。
そんな俺でさえも、しっかりと受け止めてくれるこいつだからこそ。
倦怠した雰囲気を何時の間にか乗り越えてしまう。
それが俺たちの日常。
俺が愛しいと思う舞智華が、楽し気に話す姿を見ているだけで俺の心は満たされていた。
「ねえ、景吾。聞いてる?」
不意にこいつから笑顔が消えると、今度は不安気に俺の顔をじっと見る。
「ああ、聞いてるぜ。」
そう返して頭を撫でてやる。
いつもはこれで機嫌が直るが、今日はそうはいかなかった。
「…私に飽きた?」
不意に言った台詞に一瞬、凍りついたように動くことができなかった。
「アーン…?何言ってやがる、馬鹿言うな。」
抱き寄せようと腕を肩に回そうとすれば、その腕は振り払われた。
「…他に好きな人がいるんでしょ?」
悲し気に呟いた声色は、少しだけ震えていた。
俺の顔など見ることがなかった。
『俺の心に巣食っているのは舞智華、お前だけだ。』
そんな言葉をかけてやりたいと思っても、今の状態ではただの安っぽい言い訳にしか聞こえないだろう。
人間なんてそんなものだ。
ずっと同じ相手の隣に、毎日立ってほんの少しの時間を共有する。
それが数年続いてしまえば、飽きがきてしまうことだってある。
怒りも悲しみも、喜びも楽しみも全て共有してきた俺たちには、今更、言葉で伝えるだなんて必要ないと思っていた。
ただ、そう思っているのは男の俺だけで、女であるこいつには何年たっても言葉には重みがあるのだなんて気づかされる。
「お前だけだって言ってんだろ、アーン?」
そんな言葉は安っぽい。態度で示そうにも、今のこいつは間違いなく俺を拒否することなんて明白だ。
そんな事は互いに分かり切っている筈なのに、それでもこいつは俺の言葉を求める。
信頼しているからこそ、不意に始まる倦怠期。
大きな変化や波があるわけでもない俺とこいつの関係はいとも簡単に倦怠してしまう。
そしてそんな状態になれば、信頼しているはずなのに、互いが互いに相手のあら探しを始める。
そうして、隣のこいつは俺に言う。
「他に好きな人がいるんでしょ?」と。
呆れてものも言えないと思ってしまっては前に進まない。
2人の間に出来た僅かな溝を埋める方法を画策する。
安っぽい言葉を紡いだり、安っぽい体の関係だったり。そんな簡単な方法を使ってこいつをなだめたところで、この後は何も変わらない。
どんなに頭を捻っても答えなんて出ないのが倦怠期。
そうして互いにほんの少しの距離を置く。
「今日の部活は遅くなるから先に帰ってろ。」
ある日俺がそう言えば、こいつは二つ返事で「はいはい。」と実に面倒そうに返してくる。その返事を確かめて、俺は部活へ向かう。
だからといって、苛立ったりするわけではない。
これが俺たちの倦怠期間の日常だ。
「張り切りすぎて腕とか肩とか壊さないでよー。」
あいつは俺に何の気無しに言い放つ。心配でもしない限り、こんな台詞は吐かないだろう。
だから俺はこいつを手放すことが出来ないでいる。
「はっ、俺様がそんなヘマするとでも思ってんのか、アーン?」
と嚙みつけば、「思ってなかったら言わないわよ、バーカ。」と言われる。
俺が無理をしていたり、無理をしようとすることを、俺の隣にいるこいつは良く知っている。
だからこそ、口煩く聞こえないように、気の無い声で俺に言う。
「まあ、見てろ。」
そう言って部活へ向かう俺は「氷帝テニス部部長、跡部景吾」の顔になる。
舞智華の言葉は少なからず俺の背中を押したり、俺にとってのストッパーにもなったりする。
だからこそ、俺はあいつを信頼する。あいつにしか分からない俺が存在している。
そうして暫く時間をかけて少しずつ、俺とあいつは互いの距離を狭くする。
「ねえ、お昼は?」
端的に俺に尋ねるこいつの手には、手提げ袋が2つ。
「俺様に弁当作ってきたんだろ?だったら始めからそう言えばいいじゃねぇか。」
そう言えばあいつは俺の席の前に座り、包みの一つを俺の前にさしだす。
「それ、景吾のだから」
「バーカ、言われなくても分かる。」
「あ、そう。」
「ああ。」
そう言って包を開く。
中に入っているのは、至って普通の、一般家庭の弁当そのものだった。
いつもの俺の食事とは打って変わって、まるで味が違う。
家庭的な味は、俺の気持ちを和らげて行く。
「うまい。」
「そりゃどうも。」
「もっと素直に喜べよ、バーカ。」
「これでも大分喜んでますけど。」
そうは言いながらも、表情の変わらないこいつの頬を指で摘まんで引っ張ってやる。
「嬉しいんだった少しぐらい笑え。」
「余計なお世話ですー。」
そう返すこいつの口角は実は嬉しそうにつりあがる。
俺はその少しの変化をみて、元に戻ったのだと確信する。
「ねえ、景吾。部活は何時まで?」
「さあな…遅くなるから先に帰ってろ。」
「ううん、待ってる。」
「そうか、わかった。」
「無理しないでね」
「しねぇよ。」
そんな会話を交わして、俺はあいつが用意した弁当を食べ尽くす。そうして各自の席に戻って、授業を受ける。
部活の時間になれば、俺はテニス部部長の顔になる。
そして部活が終われば、俺は舞智華が待つ教室に足を運び、あいつは俺が来るのを確認して、小走りで駆け寄ってきて俺に抱きつく。
だから俺は、こんなに愛しいこいつに、愛しさが伝わるように、しっかりと抱きしめ返す。
「待たせたな。」
「お疲れ様、景吾。」
「帰るぞ。」
「うん!」
そうして手をつないで、校舎を出て、学校を後にする。
こうして俺もあいつも。
互いを必要とする、俺たちなりの日常へと戻って行く。
俺を理解しているこいつ無しで、俺の生活はきっと成り立たない。
それ程までに、俺はこいつを愛して、必要としている。
そんな俺でさえも、しっかりと受け止めてくれるこいつだからこそ。
倦怠した雰囲気を何時の間にか乗り越えてしまう。
それが俺たちの日常。
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