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イケメン源氏伝ss

平泉の地も肌寒くなり秋の気配を感じるこの頃。
いつもなら早朝から起きて、
いつも私の寝顔を眺めていた義経様よりも、
今日は珍しく早く起きてしまった。

「(ん……あれ?おかしいな。
いつもならもう義経様は起きていらっしゃるのに)」

朝の陽射しに気付いてゆっくりと瞼を開けると、
私の頭の少し上に義経様の寝顔があった。
いつもならもう既に起きていらっしゃる。
どうしてか義経様は私の寝顔を眺めるのがお好きなようなのだけれど、
何だかこうして逆の立場になってみると分かるような気がする。

ぐっすりと眠ってくださっていることは私としてはとても嬉しいことではあるけれど、
今日も義経様はお忙しいはず。
そう思って私は布団から出るために上半身を起こすと、
この頃にはなかった肌寒さを感じる。

「(ここ最近は暑かったのにもう秋の季節なのかな?)」

夏用の寝間着では生地が薄いために寒さを感じる。
それと同時にもしかしてと思い当たることがあった。

「(義経様は寒さに弱いお方だ。
もしかして寒くて起きられないんじゃ……)」

上半身を起き上がらせたために、
見下ろすような形で義経様の寝顔を見つめる。
確かに私でも寒いなと感じるほどの気温だ。
こうしてゆっくりしていただきたい思いはあるけれど、
弁慶が呼びに来てしまう前に起きていただかなくては困る。

「義経様、朝ですよ」

そっと肩を揺らし目覚めを促すものの、
義経様は固く瞳を閉じるだけで起きられる気配がない。
どうしようかと悩んでいるうちにそういえばと思い当たる。

いつも私が起きるときには、
義経様は私の髪を梳いていることが多い。
どうして私の髪を弄るのかと聞いたことがあった。
すると、
「どうしてだろう……?
でも、あなたの髪をこうやって梳くことが、
毎朝の楽しみになっていることは否めないけれど」

と、何とも曖昧な返しをされてしまったけれど、
義経様がとても嬉しそうに微笑んでいたから、
私はそれ以降追求することができなかった。

それを思い出した私は、
ちょっとした好奇心で義経様の髪をそっと撫でてみる。
淡い紫色の髪はふわふわと柔らかくて、
何だか小動物の柔らかい毛を連想してしまってくすりと笑みを浮かべる。

「ん……由乃?」
「!おはようございます、義経様」

いつの間にか夢中になって髪を撫でていると、
義経様の紫水晶の瞳がうっすらと姿を現して、
ぼんやりとしたまま私を見つめる。
夢中になっていた私は、
義経様が目覚めたことにビクッと驚いて肩を震わせてしまったけれど、
何とか朝の挨拶を告げることができて心の内でひっそりと安堵する。

「あなたの手は温かいな」
「え?」

驚いて義経様の髪に触れていた自分の手を退けることを忘れていた私は、
義経様の右手に私の手を捕らえられたことでやっと自分が、
手を退けることを失念していたことに気付いた。

それはまるで、
つい先程まで自分は義経様の髪を撫でていたのだと、
義経様自身に教えているようなもので、
私は恥ずかしさでどこか嬉しそうに微笑んでいる義経様の顔から逸らしたくなった。 

「由乃、顔を逸らさないで」
「う……」

完全に目が覚めたのだろう。
今の状況に気付かれた義経様が少し悲しそうな声色で私の名を呼ぶ。
身勝手にも義経様の髪を撫でてしまっていた罪悪感とそれが義経様にバレてしまった恥ずかしさが、
私の中でぐるぐると駆け巡っていて、
どうしようもない気持ちで胸がいっぱいになる。

けれど義経様を悲しませたくないのも事実。
駆け巡っている感情を何とか押し殺して、
私は逸らしていた顔をいつの間にか起き上がって私を見下ろしていた義経様の方へ向ける。

「今まで俺があなたの髪を梳くことはあっても、
こうしてあなたに髪を梳かれることはなかったからとても嬉しい」

まだ完全に起ききっていなかった時点で掴んでいた私の手を、
義経様は手のひらを動かしてぎゅっと私の手を包み込むようにする。

本当に嬉しそうにされては、
私の中にあった罪悪感と羞恥心が一気にどこかへ飛んでいってしまう。

「おはよう、由乃」
「……はい。おはようございます、義経様。」

色々と感情が追い付かなくて考えに耽っていると義経様に抱きしめられる。
全くそんなことに気を向けれていなかった私は、
突然のことに驚いたものの、
義経様の温かい体温を既に冷えきっていた身に感じて、
ふっと無意識に肩の力を抜いていた。

それと同時に秋が近付いて来た今日この頃。
義経様を起こすのが大変な時期に近付いてきたのだともうこの平泉に来て二年目になった私は、
寒さにはものすごく弱いため、
起こすことが大変だった去年の今頃を思い出して義経様の腕の中で苦笑を浮かべた────。


【おまけ】

「おっ、珍しく義経様が起きてらっしゃる」

「与一さん!おはようございます」

「おはよーさん。今年もあんたがいるから、
寒さに弱い義経様を起こすのも楽かもなぁ」

「与一、おはよう。この頃は寒くなってきたな」

「ええ、ですから義経様が起きれているか心配でして」

「大丈夫だ。由乃に起こしてもらったから」

「ああ、なるほど。
それにしては何だか嬉しそうですね?義経様」

「ああ、朝から由乃の可愛らしい姿が見られたから」

「……!?」

「あ、動揺してる。
でもまぁ、今年こそは由乃に迷惑かけない程度にご自分で起きれるように努力してくださいね?」

「それは……善処しよう」

「善処するだけでも進展してはいるか……。
ま、今日も一日ゆる〜く頑張りましょうかね」


【the end】
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