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イケメン源氏伝ss

冬の季節特有の寒さに身を震わせて、
ぽちりと瞼を開けると、
そこにはどこか驚いた顔をした義経様がいた。

「義経様?」
「……」

何かあったのだろうかといつもとは違う異常な様子に、
眠気なんてあっという間に吹き飛んで、
私も不安になってくる気持ちを何とか抑えながら、
そっと義経様の頬に触れてみる。
すると、目に映る自分の手のひらが、
いつもよりも小さく見えて、
まだ寝ぼけているのだろうかと首を傾げたけれど、
義経様が私の手を取って、
ゆっくりと優しく抱き起こしてくれた。

「由乃……一体、何があったんだ?」
「え……?」

私がしたのと同じように、
優しい手が私の頬を撫でる。
いつもよりもその手が大きく感じて、
どきりと鼓動が高鳴るけれど、
何かおかしいことに気づいた。

「あれ?小さくなってる?」
「やはり気付いていなかったか……」

義経様に目線だけで自分の身体を見るように示されて、
自分の身体を見るために視線を下へ向けると、
いつもよりも……いや、
どう考えても幼くなっているように見える。

「身体は痛くはないか?」
「あ、はい。
特に何ともありませんけど……
どうして、小さくなったんでしょうか?」

義経様は私の質問に睫毛を伏せて考え込む。
自分も何かあっただろうかと考えていると

「……昨日、あやかしに遭遇したりは?」
「いえ。
町に降りた程度で、あやかしには会ってません」
「そうか……何が原因なのか分からない以上、
しばらくは様子を見る必要があるな」
「そうですね」

今後の予定としては、
身体が元に戻るまで薬師の仕事は一旦休むことになり、
鞍馬辺りなら何か知っているのではないかと義経様が仰られたので、
朝餉をとった後に、
鞍馬を探すことになったのだが……。

「義経様、下ろしてください……!」
「ダメだ。
あなたに万が一のことがあってはいけない」

一緒に部屋を出ようとした瞬間、
義経様の腕により抱き上げられ、
いつもより高いと感じる視界に驚きながら、
何とか義経様の襟元を掴み、体勢を整える。

「……可愛らしいな」
「!?」

そっと顔を寄せられたかと思えば、
額に口づけられて、びくりと肩が震える。
どことなく義経様がいつもと違うような気がして、
嫌にうるさく胸の音が鳴り響く。
こうして身体を密着させている以上、
きっと義経様にもバレてしまっているだろうと、
考え始めれば尚更恥ずかしさは増す一方で。

「鞍馬はどこにいるだろうか……?」

独りごちる義経様の声すら羞恥で聞こえないほど、
私はしばらくの間復活できなかった。




「──つまり、玉藻の呪力の影響ということか?」

鞍馬を見つけた義経様は、
私がどうして小さくなってしまったのかを聞こうとしたところに、
弁慶と与一さんの二人もその場にいて、
心底驚いた二人からもこうなった原因は何なのか知りたいというので、
今は広間で鞍馬からの予測を聞いている。

「玉藻の?」
「お前は今、玉藻と契りを交わしたままだ。
そして、今までにあやかしと関わりを持つようになったことで、
あやかしの呪力による影響をその身に受けやすくなったのではないか」

義経様の膝の上に座っている私を見て、
鞍馬はそう告げる。
今まで以上にあやかしとの関わりが深くなったことで、
影響を受けやすくなり、
玉藻が小狐の姿に変化したりした場合、
同じような現象が私にも起きてしまっているのではないかとのことだ。

「深く関わりを持つことだけでも影響って受けるの?」
「さあな。それも人によるだろう。
だが、お前は人に多大な影響を及ぼす存在だ。
そして、受け身であることが多い。
お前の本質が受け身だとするならば、
それだけ何かからの影響を容易く受け入れているのではないか?」

みかんを口に頬張りながら、
鞍馬は心底面倒くさそうにそう告げる。
……受け身、か。
確かに薬師としての仕事も、
相手からの意見を受けて決断することが多いけれど……。
あやかしのことを知れば知るほどに、
いつの間にか身体にも影響が出るほど、
その呪力を受け入れてしまっていたのだろうか。

「では、玉藻に文を送ろう」
「分かりました」

義経様が弁慶にそう伝えると、
深く頭を下げて弁慶は広間から出て行った。

「しっかし、大変なことになりましたね」
「ああ、そうだな」

颯爽と広間から出て行った弁慶を横目でちらりと見ていた与一さんが、
その視線を不意に私に移して心底面白そうに微笑む。

「玉藻に原因を視てもらったら、
元に戻るんでしょうか……」
「それはどうかは分からないけれど、
可能性としては高いのではないか?」

不安になった私を義経様が優しく頭を撫でてくれる。
六歳ほどの年齢まで幼くなったからなのか、
やっぱりその手のひらはいつもより大きく感じて、
安心感が胸を満たしていく。

「ま、とりあえず由乃が元に戻るまでは、
義経様が一緒に居てやってくださいよ」
「ああ、それはもちろんだ」

ゆったりと立ち上がった与一さんが、
にこりと笑みを浮かべて広間から去っていく。
鞍馬は気付いたらいつの間にかいなくなっていた。

「では、俺達も部屋に戻ろうか」
「はい!」

またもや義経様に抱き抱えられて、
私たちは義経様のお部屋へと戻ることにした。




部屋に戻ってきてから、
広間にいた時のようにずっと義経様に膝の上に座らされていて、
何だかいたたまれなくなってくる。

「義経様。この部屋からは出ませんから、
せめて下ろしていただけないでしょうか?」
「………」

流石にこの状況は恥ずかし過ぎる!と思い、
何とか義経様に下ろしていただけないかと、
頭上にある義経様の顔を見上げる。

「……あなたが愛らしすぎるのがいけないと思うのだけれど」
「え?!」

ふぅ、と深く息を吐いた義経様が、
困ったように微笑みながら発した言葉に、
どうしようもなく胸の鼓動がざわついて落ち着かない。

驚きで固まってしまった私をぎゅっと抱きしめて、
義経様は私の頭に顔を埋める。
この状況は一体どうしたらいいのかと、
頭の中が混乱と羞恥でぐるぐると回っていて、
義経様から離れることはおろか、
何か言葉を発することもできずにいた。

「見上げてくる無垢な瞳に、
どこまで心揺さぶられているか、
あなたはきっと自覚はしてくれないのだろうな」

顔のすぐ近くで囁かれた言葉には、
あまりにも甘く、艶やかな声色が孕んでいて、
どうしようもなく頬が熱くなるのを感じる。
どうしてそんなことを言うのだろうかと思いつつも、
義経様から発せられる色香にあてられて、
全身が羞恥で熱くなっていく。

──それから玉藻が平泉にやってくるまで、
義経様に甲斐甲斐しくお世話される日々が続いた。


【the end】
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