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イケメン源氏伝ss

いつものように仕事を終えるとあたりはもう既に真っ暗で、
頼朝様はもう帰ってきているんだろうか……?と不安を感じながら電車にゆらゆらと揺られて、
街灯に照らされて夜なのに明るい道を歩き、
たどり着いたのはいかにも高そうな高級マンション。
そのある階が頼朝様のお部屋。

玄関ホールからエレベーターへ向かい、
頼朝様のお部屋のある階のボタンを押し、
ゆっくりとエレベーターが上がっていくのを何となく感じながら、
今日の夕食は何にしようかと考える。

頼朝様がお帰りになっていたのなら、
やっぱり何か美味しいものを食べていただきたい。
そう思っている内に指定の階に到着し、
私は頼朝様のお部屋を目指した。

エレガントな雰囲気を帯びる美しい装飾の数々には頼朝様と同居してしばらく経った今でもやっぱり慣れない。
そんなことを考えながらも部屋にたどり着き、
カードキーを差し込み、扉を開ける。

玄関扉を開けると珍しく頼朝様の方が先に帰ってきていたようで、
いかにも高そうな黒い靴が置いてあった。
玄関扉の鍵を閉めて、
部屋の中へと進んでいくとシャワールームから音がするので、
頼朝様はきっと今シャワーを浴びているところなのだと理解する。

お部屋といってもやっぱり広くて、
一つ一つの部屋が普通の家で生まれ育った私からすればとんでもない広さに感じて、
何だか頼朝様との決定的な違いを見せつけられたような気がして心細くなる。
だけどそれと同時に頼朝様はこういった場所に住んでいなきゃなと納得する自分もいる。
そもそも前世で暮らしていた大倉御所も結構広かったので、
頼朝様が私のような庶民が暮らしている家で過ごしているというのが全くもって想像がつかない。
頼朝様からしたら過ごせるのならどこでも良いのだろうけど。

リビングに置いてあるソファまでたどり着くと、
私はソファに腰掛け、疲労で痛みすら伴っている瞳を休ませるために目を閉じる。

「おい」
「!?」

顔に何か冷たい水が落ちてきて驚きで目を開けると、
そこには上半身だけ何も着ていない状態で首にタオルを巻いている、
未だほんの少し濡れた髪がまた艶っぽさを孕みながら私を見下ろしている恋人の姿があった。
その瞳は少しだけ呆れの色を滲んでいる。

「っ、頼朝様!?
は、早く服を着てくださいっ!風邪を引きますよ!」
「何だよ、いつも見てんだから今更だろ」
「そ、そういうことは言わないでくださいっ!」

恥ずかしさと恋人から見せられる強烈的な光景に耐えかねた私は目を逸らして頼朝様を見ないように、
視界に移さないように目を閉じる。
そんな私を見て頼朝様が笑う気配がしたけれど、
そんなことにいちいち気にしていたら私の心臓が持たない!!

どうしたらいいのかと頭の中は混乱と羞恥とでごちゃごちゃになり、
パニック状態に陥りつつある。




ふるふると顔を真っ赤に染めて恥ずかしさから震えている可愛らしく愛しい女の姿を見て、
心からの笑みを頼朝は浮かべながら、
目を閉じて見ないようにしている由乃にそっと顔を寄せる。

前世の時もそうだったが今世でも由乃は本当に初心だ。
あんなにも愛してやったというのに、
いつもまるで初めてかのような反応をする。
それが堪らなく虐めがいがあって、
それがどうしようもなく愛らしかった。

「……まるで襲ってほしいって言ってるみたいだな」
「!?」

そっと耳元に口を寄せて低く囁けば、
その小さな身体は驚きでびくりと震え、
先程まで必死に見ないようにしていた瞳を大きく開けて頼朝の顔を見つめていた。

「そ、そんなわけなっ……んっ……」

否定しようとするその小さく愛らしい唇を自身の口で塞ぎ、
何も考えられないようにするために、
ただ俺だけに縋り付いてもらうために、
その思考を、理性を奪おうとする。

「っ、く、くるしいです……」

苦しいと胸元を弱々しい手で叩かれ、
ようやく頼朝は弄び尽くしていた由乃の唇からそっと小さく音を立てて離した。

顔を真っ赤にして涙目で自分を見上げる姿に、
頼朝の中にあった理性がひび割れる音がする。
それを他人事のように感じ取りながらも、
あえて余裕な態度をとってみせる。
由乃がぼんやりしていることを良いことに、
少しずつその服を脱がしていく。

「あ、あの……夕飯は……」
「後にしろ」
「え……、え、じゃあ食器洗いは……」
「後回しにしろ」
「その…せめて、シャワーを浴びさせてください……」

もうこれは何を言っても無駄なのだと理解したのか、
由乃は恥ずかしがりながらも小さな声で頼朝に懇願する。

きっとその間に髪を乾かして待っておけという意味で由乃は言ったのだろうが、
頼朝としてはもう待てない。
こんなにも可愛らしい顔をされて待てるわけがない。

「……よし、行くぞ」
「え?……わっ」

心底恥ずかしそうに、
それを何とか悟られないように伏せていた由乃のその表情が頼朝からすればあまりにも艶っぽくて。
本人にその気はないのだろうが、
どう見ても誘っているようにしか見えなかった。

未だにベッドの背もたれにもたれかかったまま、
服は既にその細い身体を隠す役目を果たせておらず、
少しだけはだけた服の隙間から見える
白くて美しい肌がやけに色っぽく見えた。
……まぁ、それをしたのは俺だが。
そんなことを思いながら由乃を横抱きにして、
つい先程までいたシャワールームへ歩を進める。


「あの、頼朝様は先程入っていましたよね?」
「気にするな。お前を洗ってやるだけだからな」
「……はい?」

すとんとその身体を床に下ろしてやると、
不安定さに驚いて頼朝の胸元に両手をついて安定さを保とうとしたまま、
頼朝の言葉を上手く理解できずぽかんとした表情で自分よりも少し上にある頼朝の顔を見上げる。
その姿があまりにも可愛らしくて、
理性の壁にまたヒビが入るのを感じる。

「聞こえなかったか?
じゃ、もう一回言うぞ。……洗ってやるよ」
「ッ……!」

そっと屈んでから由乃の弱い耳元に口を寄せて、
最後だけ甘っぽく、そして低く囁いた。
頼朝の声だけでびくりと肩を震わせた由乃の顔を見てみれば、
先程よりも顔を赤く染めて、
目元には羞恥心から涙すら浮かんでいる。
さすがにそれは恥ずかしすぎて駄目だとその様子を見て頼朝は理解したけれど、
一時も離れてやるつもりはない。
だから強引にでも、煽った責任を取らせてやる。
そう思ってニヤリと微笑んでやれば、
由乃は羞恥の色を乗せた赤い顔のまま、
困ったような顔をして頼朝を見上げた───。

【終】
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