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イケメン戦国ss

──春の心地よい暖かさもすっかり暑苦しく感じるようになった大阪城の天主。
そこは天下統一を成した信長様の居城で秀吉さんが建てたお城。
未来の世では知らない人などいないと言っても良いほど有名なお城の最上階に私は暮らしている。

「ん……」
「起きたか」
「信長様……?」

まだ寝ていたい気持ちもあったけれど、
徐々に感じていく暑さに煩わしく思いつつ重い瞼を開けるとすぐそばには信長様の顔があった。
誰しもが知る戦国武将が私の恋仲の相手だなんて……きっと友達に言ったって信じてもらえないだろうなぁと時折思うことがある。
それだけ私が経験してきたこと全てが摩訶不思議だからだ。

「寝惚けているのか」
「んん……」

まだ眠たい。ぼんやりとしたままじーっと信長様の顔を見ていると、
私よりも大きな手のひらが優しく私の頭を撫でてくれた。
安心してまた寝てしまいそうになるなぁと思う。

「起きろ。逢瀬に行くぞ」
「あ……っ」

大きな手に頬をむにっと掴まれながら告げられた言葉に私はハッとして一気に目を覚ます。
──そうだった!!
今日は信長様のお誕生日。
以前から逢瀬へ出かけようと約束していたのだった。
とはいえ夜には皆でお祝いの宴を開くことになっているから午前中だけなのだけれど。

「起きたな」
「おはようございます。
それと……お誕生日おめでとうございます、信長様」
「ああ、おはよう」

逢瀬の時間をほんの少しでも短くしてしまったというのに、
信長様はそれに怒ることも機嫌を損ねることもなく、
嬉しそうに温かな微笑みを浮かべて朝の挨拶を返してくれた。
ああ、この顔を見ると出会ったばかりの凍てついた表情ばかりしていた信長様と随分変わったと思う。
私にだけ見せてくれる穏やかで慈愛に満ちた笑み。
ありのまま綻んだ笑みを浮かべる信長様の姿を見る度に私の胸はぎゅっと鷲掴みにされて、
もう長く一緒にいるはずなのに未だ素の笑みに慣れることはなかった。

「朝餉をとって、逢瀬に行きましょう」
「ああ」

上半身を起こした私を後ろから抱きしめる信長様にそう声をかけると、
一つ小さく頷いて私たちはそそくさと支度を始めた。




「やっぱり市は賑わっていますね!」
「堺は商売にはもってこいの立地だからな」
「大きな港もありますもんね!」

城下町に降りてきた私たちは早速いつも通り賑わいを見せる町並みを二人並んで歩いていた。
やはり信長様を知らない者はおらず、
町並みを歩く度に声をかけられていたり、
見かけた町人たちが深くお辞儀をする光景をよく目にした。

……信長様はあまり周りの視線を気にしていないみたいだ。
私はいつまで経っても信長様の寵姫だからと同じような対応をされることに慣れていない。
安土の町ではまだ大阪の町よりも長くいたし、
たくさん関わってきたからなのか気さくに声をかけてくれたりしてくれるけれど、
まだ移り住んで年月の短い大阪の町ではまだまだ難しそうだ。

そんなことを思いながらも贈り物は何にしようかと私は未だ悩んでいる。
例年通り戴いたり自分で選んで買った反物で羽織や着物を作ったけれど、
最近はそれだけでは飽きてしまうのではないかと不安に思い始めてきたのだ。
そもそも羽織も着物も他の調度品だって信長様なら常日頃から献上されて有り余っている。
珍しいものに目がない信長様だけれど、
それも今や自分で商人と交渉したりして調達してしまっている以上何も思い浮かばない。
欲しいものはすぐに手に入れられる立場にある彼氏に何か良い贈り物は……と考え始めると正直何もないのだ。

こうして『逢瀬をするだけ』というのもどうかと思うし……と悶々としていると、
不意に目の前に信長様の端正なお顔があって私は驚いて肩が跳ね上がった。

「何をそう悩んでいる?
常日頃から見ている町並みではつまらんか」
「い、いいえ!いつもお忙しい信長様とこうしてお出かけできるのはとても嬉しいです!
ただ……いつものようにお祝いの贈り物が羽織や着物だけだと信長様、飽きちゃうかと思って……」
「なんだ、そのようなことで悩んでいたのか」
「そのようなことって……」

至極真面目に悩んでいたのに何事もないかのように言われて少し気持ちが沈む。

「俺は貴様がそばにいてさえすればそれでいい」
「……え?」
「何も特別なものを用意しろとは言わん。
ただいつものように当たり前にそばにいれば良い」

いつも通り呑気に笑ってそばにいればそれで充分だと言う信長様に私はこの胸の高揚感を言葉に言い表せなくて、
思わず町中だというのに抱きついてしまった。
ああ、なんてことだろう。
本当にずるい。
そう言われてからずっと胸の高鳴りが収まらない。
痛いくらいにずっとドキドキしていてどうしようもない。

「普段は恥ずかしがるくせに今日は大胆だな」
「っ……ご、ごめんなさい!」
「舞、貴様が望むと言うのならば四六時中抱き合っていても俺は一向に構構わんぞ?」
「そ、それは私の心臓が持たないのでダメですっ!」
「ほう?」

信長様にいつの間にか抱き締め返されてしまったおかげでここが何処か理解して離れようとしたけれど、
離れるにも離れられない状況下に置かれ、
心底楽しそうに意地悪な笑みを浮かべる信長様に私が顔を真っ赤に染めても気にせず言葉責めを受ける。
うぅ、恥ずかしい。なんてことを……。
そんなことを思いつつも午前中は信長様と二人きりの時間を堪能して、
午後になって大阪城に帰ってくると案の定光秀さんや政宗に伝わっていたようでからかわれた。

【終】
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