イケメン戦国ss
すっかり暖かくなった季節になり、
以前より過ごしやすくなった安土の町並み。
暑いとすら感じるほどの太陽の光に照らされながら、
私は今日も秀吉さんのお誕生日祝いのプレゼントを探すべく町へ下りていた。
「(着物でも良いんだろうけど、そろそろ他の物の方が良いかもしれないな……)」
毎年季節毎に合った着物を見繕っているので、
そろそろ着物や羽織以外のものの方が喜んでくれるかもしれないと思った私は、
秀吉さんは一体何が欲しいのか分からないまま悩みつつ歩きながら様々な出店を覗く。
寒くなくなったこの季節は本当に暖かくて過ごしやすいなぁとぼんやり思いながら歩き続けていると、
私は秀吉さんの部屋に置かれていた古びた茶器があったことを思い出す。
「そうだ……!」
そうして私は真っ直ぐにある出店へと急いで向かった。
■
「わっ、すみません!」
「おや、小娘。秀吉に廊下は走るなと怒鳴られるぞ」
安土城へ戻ってきた私は秀吉さんのプレゼントを大事に抱えて廊下を急いで歩いていた。
──すると角から出てきた光秀さんにうっかりぶつかってしまったのだ。
茶器の方は何も問題なかったが私の不注意でぶつかってしまい慌てて謝罪すると、
愉しげに笑みを深めた光秀さんにからかわれてしまった。
「それにしては珍しいですね。
こんなお昼に光秀さんがお城にいるなんて」
「俺がここにいるのがそんなにおかしいと思われているとは悲しいな」
「えっ!?そういった意味で言った訳じゃ……」
「分かっている。本当にお前はいじめがいがあるな」
少し上にある光秀さんの顔を見上げながら私は慌てて言葉を取り繕うも、
相変わらず愉しげな光秀さんにからかわれてしまったことに気付いて何とも言えない気持ちになって脱力してしまう。
「おい光秀、そろそろ舞をいじめるのをやめろ」
「おや、秀吉」
「秀吉さん!」
廊下の奥からこちらへ向かってきた秀吉さんは何だか少し不機嫌というか──怒っているような雰囲気を纏っている。
どうやら思った以上に光秀さんに囲われたこの体勢のまま話していたようだ。
となると光秀さんの背の向こうにいる秀吉さんからしたら、
私が光秀さんに抱きしめられているように見えてしまっているのではないかと察する。
──それなら秀吉さんが怒るのも無理はないかもしれない……としょんぼりとしていると、
光秀さんから私を引き離した秀吉さんがそんな私に察してよしよしと頭を撫でてくれた。
秀吉さんは私が光秀さんにいじめられて気落ちしていると思っているみたいだけれど。
「そろそろ邪魔者は撤退するとしよう」
「おい……!」
一瞬優しげな瞳で私を見下ろした光秀さんは最後に秀吉さんをからかって去っていった。
相変わらず喧嘩が多いというか何と言うか……。
私がしょんぼりしつつ考えている間に何やら言い合ってもいたようだし、
やはり二人のこの言い合いはいつまで経っても収まらないのかもしれないなと思う。
「秀吉さん、お仕事はもう良いの?」
「ああ、今日するべきことはある程度終わったからお前を迎えに行こうとしていたところだ」
「そうだったんだ……!
じゃあ秀吉さん、この後の時間を私にくれる?」
「ああ」
未だ私の肩をその大きな手で引き寄せたままの体勢のため、
私は自然と背の高い秀吉さんを見上げる形で喜びながらそう告げると、
何故かほんの少し頬を赤らめた秀吉さんから了承を得ることができた。
今日の夜は信長様主催の秀吉さんのお誕生日を祝う宴が開かれることになっているから、
それまでは秀吉さんのことを独占したいなとひっそりと思う。
一緒に手を繋いで日差しが差し込む廊下を歩き、
秀吉さんの自室へ向かうことにした。
■
「これ、秀吉さんのお誕生日プレゼントなの」
「さっきから何か大事に持っていると思ったら……そうだったのか、ありがとな」
「この茶器に描かれたお花はね『ブルーレースフラワー』って言うの。
今日の誕生花で花言葉は『優雅な振る舞い』や『無言の愛』『慎み深い人』。
秀吉さんにピッタリでしょ?」
「……そこまで深く考えてくれていたなんて思ってもなかった。
ありがとな、大事に使わせてもらうよ」
「うん。改めてお誕生日おめでとう、秀吉さん」
照れくさそうにしながらも嬉しそうに微笑んでくれる秀吉さんを見て私は何よりも嬉しく感じた。
きっと今夜の宴でもたくさんの人に祝福されるだろう。
たくさんの人に愛されていることをこれからも嫌というほど実感させてやろうと目論んでいるのだから。
今年も来年もそのまた先もきっと大好きな人は数多の人々から愛され必要とされる。
今のように照れくさそうに笑っていてほしいと私は心の底からそう思った。
【終】
以前より過ごしやすくなった安土の町並み。
暑いとすら感じるほどの太陽の光に照らされながら、
私は今日も秀吉さんのお誕生日祝いのプレゼントを探すべく町へ下りていた。
「(着物でも良いんだろうけど、そろそろ他の物の方が良いかもしれないな……)」
毎年季節毎に合った着物を見繕っているので、
そろそろ着物や羽織以外のものの方が喜んでくれるかもしれないと思った私は、
秀吉さんは一体何が欲しいのか分からないまま悩みつつ歩きながら様々な出店を覗く。
寒くなくなったこの季節は本当に暖かくて過ごしやすいなぁとぼんやり思いながら歩き続けていると、
私は秀吉さんの部屋に置かれていた古びた茶器があったことを思い出す。
「そうだ……!」
そうして私は真っ直ぐにある出店へと急いで向かった。
■
「わっ、すみません!」
「おや、小娘。秀吉に廊下は走るなと怒鳴られるぞ」
安土城へ戻ってきた私は秀吉さんのプレゼントを大事に抱えて廊下を急いで歩いていた。
──すると角から出てきた光秀さんにうっかりぶつかってしまったのだ。
茶器の方は何も問題なかったが私の不注意でぶつかってしまい慌てて謝罪すると、
愉しげに笑みを深めた光秀さんにからかわれてしまった。
「それにしては珍しいですね。
こんなお昼に光秀さんがお城にいるなんて」
「俺がここにいるのがそんなにおかしいと思われているとは悲しいな」
「えっ!?そういった意味で言った訳じゃ……」
「分かっている。本当にお前はいじめがいがあるな」
少し上にある光秀さんの顔を見上げながら私は慌てて言葉を取り繕うも、
相変わらず愉しげな光秀さんにからかわれてしまったことに気付いて何とも言えない気持ちになって脱力してしまう。
「おい光秀、そろそろ舞をいじめるのをやめろ」
「おや、秀吉」
「秀吉さん!」
廊下の奥からこちらへ向かってきた秀吉さんは何だか少し不機嫌というか──怒っているような雰囲気を纏っている。
どうやら思った以上に光秀さんに囲われたこの体勢のまま話していたようだ。
となると光秀さんの背の向こうにいる秀吉さんからしたら、
私が光秀さんに抱きしめられているように見えてしまっているのではないかと察する。
──それなら秀吉さんが怒るのも無理はないかもしれない……としょんぼりとしていると、
光秀さんから私を引き離した秀吉さんがそんな私に察してよしよしと頭を撫でてくれた。
秀吉さんは私が光秀さんにいじめられて気落ちしていると思っているみたいだけれど。
「そろそろ邪魔者は撤退するとしよう」
「おい……!」
一瞬優しげな瞳で私を見下ろした光秀さんは最後に秀吉さんをからかって去っていった。
相変わらず喧嘩が多いというか何と言うか……。
私がしょんぼりしつつ考えている間に何やら言い合ってもいたようだし、
やはり二人のこの言い合いはいつまで経っても収まらないのかもしれないなと思う。
「秀吉さん、お仕事はもう良いの?」
「ああ、今日するべきことはある程度終わったからお前を迎えに行こうとしていたところだ」
「そうだったんだ……!
じゃあ秀吉さん、この後の時間を私にくれる?」
「ああ」
未だ私の肩をその大きな手で引き寄せたままの体勢のため、
私は自然と背の高い秀吉さんを見上げる形で喜びながらそう告げると、
何故かほんの少し頬を赤らめた秀吉さんから了承を得ることができた。
今日の夜は信長様主催の秀吉さんのお誕生日を祝う宴が開かれることになっているから、
それまでは秀吉さんのことを独占したいなとひっそりと思う。
一緒に手を繋いで日差しが差し込む廊下を歩き、
秀吉さんの自室へ向かうことにした。
■
「これ、秀吉さんのお誕生日プレゼントなの」
「さっきから何か大事に持っていると思ったら……そうだったのか、ありがとな」
「この茶器に描かれたお花はね『ブルーレースフラワー』って言うの。
今日の誕生花で花言葉は『優雅な振る舞い』や『無言の愛』『慎み深い人』。
秀吉さんにピッタリでしょ?」
「……そこまで深く考えてくれていたなんて思ってもなかった。
ありがとな、大事に使わせてもらうよ」
「うん。改めてお誕生日おめでとう、秀吉さん」
照れくさそうにしながらも嬉しそうに微笑んでくれる秀吉さんを見て私は何よりも嬉しく感じた。
きっと今夜の宴でもたくさんの人に祝福されるだろう。
たくさんの人に愛されていることをこれからも嫌というほど実感させてやろうと目論んでいるのだから。
今年も来年もそのまた先もきっと大好きな人は数多の人々から愛され必要とされる。
今のように照れくさそうに笑っていてほしいと私は心の底からそう思った。
【終】