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イケメン戦国ss

──雪で真っ白に染まる安土の町。
今年で七回目を迎える家康の誕生日。
毎年この日が近づいてくると妙にドキドキして、
いつも家康に呆れられるのが定番化したような気もする。

真っ白に染まる雪道を歩きながら、
今日の仕事を終えた私は、
家康と一緒に御殿へ向かっているところだった。

「今日は一段と寒かったね」
「ほんと……外出るのが億劫になる……」

はぁ、と息を両手に当てて暖を取りながら、
私は隣を歩く家康に言葉を投げかける。

家康はどうやら迎えに来てくれたらしく、
町中で会ったときは本当に驚いたけれど、
素っ気ない態度をとりながらも、
私のことを大事に思ってくれているのがひしひしと伝わってきて、
自然と笑みを浮かべてしまう。

「……あんたってお気楽だよね」
「えぇ!?」

その視線は、
『こんなに寒いのになんでそう能天気で楽しそうなのか』と告げている。

こうして家康が迎えに来てくれることが、
いつも嬉しくてついつい頬が緩んでしまうのだから、
そこだけは許してほしいんだけどな……。

「帰ったら、温かいもの作るね」
「いいよ、俺がやる。あんた、
今日は大半の時間を外で過ごしてたんだから、
それくらいは俺がやるよ」

人気の少ない町中で、
家康が立ち止まったかと思うと、
私の冷えきった両手をその温かで、
大きな両手で包み込んで温めてくれる。

突然のことに驚いてぽかんとしながら
家康の顔を見上げていると、
ふっ、と笑われた。

「なんで笑うの?!」
「いや、あんたが可愛かったから」
「っ!ず、ずるい!!そんなこと言うなんて……」

突然の甘い言葉に私は恥ずかしさで顔を真っ赤に染めながら、
家康にも可愛いところあるんだもん!と楽しそうに笑う家康に抗議してみる。

「あのねぇ……
男の俺が可愛いって言われて喜ぶと思う?
というか俺に可愛さなんてあるわけないでしょ」
「あるよ!!
家康はカッコイイところがたくさんあるけど、
ときおり可愛いなって思うところもたくさんあるの!」
「あんたね……」

ぷんぷんとついつい町中だというのに、
対抗して告げた私の言葉に、
家康が困ったような顔をして私から顔を背けた。

その顔は一瞬だけ見えたけれど、
赤く染まっているのが見えて、
照れてるんだ……と私は何だか嬉しくなってしまう。
きっとそんなことを言ってしまえば、
今以上に家康が不機嫌になるから、
これは私の心の中に閉まっておくけれど。

「今日は家康にたくさんご奉仕するからね!」
「しなくていいよ、別に。
いつも通り、恋仲として接してよ」
「……!」

再び歩き出した家康に驚きつつも、
私も歩き出して家康の隣に並び歩く。

今日は家康の誕生日。
だから家康がしたいこと、
してほしいことを言ってほしいと朝から家康にお願いしていた。
けれど家康からの要求はあまりなくて、
これじゃあお祝いにならないな……としょんぼりしながら仕事へ向かい、
仕事をしつつ、
家康をお世話しまくることに決めたのだが、
家康から告げられた『恋仲として』という言葉に驚いて立ち止まってしまう。

……そっか、家康は”恋仲の私”と過ごしたいんだ。
そう思ってくれてるんだと、
今日は家康を喜ばすことが目標のはずなのに、
逆に家康に喜ばらせられているような気がして、
これじゃあお互いに相手のことを思いやって、
愛し合っているだけで、
どうしようもないなとついついくすりと笑ってしまう。
うん、これはいつもの家康と私の関係だと納得してしまうけれど。

「帰ったら、やってほしいこと言ってね?」
「まだ言ってるの……。
じゃあ、今夜はめいいっぱい甘やかすから、
今から覚悟してて」

御殿までたどり着いたと同時に、
少し前を歩いていた家康が立ち止まり、
私の方へ向いて屈みこみ、
告げられた言葉は今の時間にしてはあまりにも甘すぎるもので、
やっと冷めてきたと思っていた頬の熱がまた簡単に引き戻させられて、
私は羞恥心で顔を俯かせて、
こくりと一つ頷きを返す。

今日は家康のしたいことを、
やってほしいことを叶えるのが私の役目。
だから恥ずかしくても家康が望むのなら、
それを叶えるだけ。
でもそう言われてしまうと面と向かって、
きちんと家康の顔を見れなくなってしまう。

お誕生日のお祝いには贈り物だって、
今夜の夕餉だって用意しているのに、
まともに家康の反応を見れないかもしれない……。
そう思いながら家康に手を引かれて、
私たちは御殿の中へと足を進めていく。


──ねぇ、家康。お誕生日おめでとう。
これからもどうか、ずっとずっとお祝いさせてね。


五百年という時代の壁すら越えて、
想い合い、愛し合う日々がこれからも続くように。
誰からも世界ですらも引き離すことなど、
忘れさせることなどできない特大の愛で、
これからも家康が許してくれる限り、
望んでくれる限り例え家康が望んでいなくても、
ずっとずっと傍にいる。それが私の夢だから。


【the end】
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