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イケメン源氏伝ss

すっかり冷え込んだ寒空の下、
何となく目が覚めて起き上がろうとしたけれど、
自分とは違う重みを感じて、
そっと隣りに目線を移す。

目線の先にはぐっすりと眠っている顕仁様の姿があり、
どうして顕仁様が……と考えたところで、
昨日のことを思い出した。
年末ということで、
どこかへ姿を晦ましていた伊吹が気まぐれにやって来て、
泰親さんたちと一緒にお酒を酌み交わしていたのだ。
呪いの力を無くした顕仁様に興味はないと言っておきながら、
時折こうしてここへやってくるのは、
伊吹もきっとそれなりに顕仁様や泰親さんのことを、
気に入っているからなのかもしれない。

夜が深くなる前にそれぞれ自分の部屋に戻ったけれど、
私は顕仁様の部屋に呼ばれて……。
そこから思い出していくにつれて、
昨夜のことを思い出して人知れず頬が熱くなっていく。

「(とりあえず、
今のうちに火鉢をつけて、
お部屋を温めておかないと……)」

そう思って身を起こし、
布団から出ようとしたが、
その前に自分よりも大きな手に引き寄せられ、
もう一度布団の中へと逆戻りしていった。

「!?」
「どこに行くの?」
「あ、顕仁様……!その、火鉢をつけに……」
「あぁ、そうだったんだね。
でも、こんな寒い中わざわざ君がここから出る必要はないよ」

いつの間にか起きていらっしゃったようで、
その目は既にはっきりと私を映し出している。
顕仁様が仰った言葉の意図が分からず首を傾げる。

「君で暖を取れば早いでしょう?」
「そ、そうですか?
私はそんなに温かくはないと思うのですが……」
「ううん、とても温かいよ。
心地好くて、ずっとこうしていたいくらい」

私を腕の中に囲った顕仁様は、
温もりを求めるかのように身を寄せて、
ぎゅっと私を抱き締めた。

本来なら、
出会うことも話すことすら許されなかったであろうお方がこうして傍にいる。
そうして確実な身分差がありながらも、
お互いに惹かれ合ってしまった。
許されるはずのない恋に諦めようとも思った。
それでもやっぱり捨てきれなくて、
諦めきれずに、
長い間苦しんでいたこの方の支えになろうと、
呪いに呑まれそうだったこの方を救うことに尽力した。

何故か泰親さんがとても嬉しそうにしていたのは、
どうしてなのかは未だに分かっていないけれど、
もしかしたら泰親さんは顕仁様が幸せになられることを、
ずっとずっと望んでいたのかもしれない。

「上の空だね?こうして俺が君のそばにいるのに」
「!」

うわ布団の中にいたとしても冷えきっていた足を絡められて、
びくりと身体が驚きで震えた。
これでは、
部屋を温めるために火鉢をつけにいくことすらできなくなってしまった。

「顕仁様!お寒いのでしたらやっぱり火鉢を……」
「うん?」

慌てふためいている私を見てとても楽しそうに、
とても嬉しそうに優しげで優美な笑みを浮かべる顕仁様の姿を見て、
紡ごうとした言葉が途切れてしまう。

「……ずるいと思います」
「何もずるくなんてないよ。
俺は君で暖をとろうと思っているのだから、
君がどこかへ行ってしまったらそれが叶わなくなる。
だからどこにも行かせないようにしているだけだよ」
「んっ……」

すりすりと顕仁様の大きな手が私の頬を撫でる。
それが何だか擽ったくてつい声が出てしまった。

「ああ、でもやっぱり……
ずるいと言えば君の方がずるいかもね」
「?」

顕仁様が仰ることが理解できず、
首を傾げると、
顕仁様の端正なお顔が、
先程までよりもぐっと寄ってくる。
もう鼻先まで触れてしまいそうなほどに。

「こうして頬を赤らめさせて、
潤んだ瞳で俺のことを見上げているでしょう?」
「!?」
「年明けからお誘いを受けるだなんて思ってなかったよ」
「そ、それは誤解です!!
私にはそういった意図は……!」

にっこりと微笑んでいる顕仁様が私に告げた言葉は、
私が全く考えていなかったことで、
優美にそして妖艶に笑みを浮かべる顕仁様のお姿を見て、
戸惑いにしどもろどもになる。

「うん、君のことだからきっと無意識だろうとは思ってたよ」
「か、からかってますか?」
「いや、からかってはいないよ。
でも、こうも煽られたなら仕方ないよね」
「あ、煽ってません!」

きっとそれはもう分かりやすいほどに、
顔を真っ赤に染めているのだろう、
そんな私を見て顕仁様は楽しそうに笑う。

こんなにお姿を以前は見られただろうか?
楽しく過ごされている姿は何度も見たけれど、
顕仁様はいつもどこか一線を引いていた。
自分には心から楽しむことなどできないと、
既に死したその身は、
今を生きる者たちとは違うのだと、
だからこそ一歩下がったところから、
見守るかのように過ごされていた。

……でも、今はとても楽しそうにしている。
心から自分も楽しんで良いのだと思ってくださっている。
泰親さんの言う通り、
私がこの方を良い方向へ変えられたとしたら、
それはとても嬉しい。
愛しい人を、幸せにできるのなら。
私にとってそれ以上の幸せは、望みはない。

「さて、姫はじめをしようか?」
「私は庶民です……」
「庶民だなんて関係ないよ。
君は俺だけのお姫様でしょう?」

こんなにも楽しそうにされては、
私が断れないことくらい聡明なこの方なら既に知っているはずなのに……。
顕仁様の言葉に何も返せず、
ただ羞恥心だけが心の中を満たしていく。
きっと今の私はとっても頬を赤らめているのだろう。
私がどんな顔をしているのかは分からないけれど、
とても頬が熱い。全身が熱い。
もうこれだけで、何となく分かってしまう。

「今年も君の幸せだけを願うよ」

ね、俺の愛しい君。
そう耳元で囁かれて、
私はもうこの方に全てを預けるしかなかった。
もうすぐ、年が明ける。
少し明るくなった空に、明るく暖かな光が昇る。
新たな年が、今年がどんなものになるのか、
今からワクワクと胸が高鳴りつつ、
今は、愛しい人へ全てを委ねることにした────。


【the end】
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