真空色(まそらいろ)の想い
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結局、映画は上の空のまま終わってしまい、 やっぱり家でゆっくりしてればよかったかと、重い腰を上げてため息をついた。
「家で何か観るかな」
独り言を言いながらエレベーターを降りると外は小雨になっていたので、傘は開かずに外へ出た。
それからすぐ前の道路を渡ろうと辺りを見回した、その視線の少し先……
見覚えのある姿を、見つけた。
檸檬色のワンピース姿、髪は片側に寄せて緩くまとめて、細くて少し丸いフレームの眼鏡で。
いつもよりも幼い印象だったけど。
間違いなく、凪紗ちゃんだった。
ただ……彼女は一人ではなかった。 口元に手を当てて、少し恥ずかしそうに、誰かと話している。
相手の顔は見えないけど、 ……やっぱり、恋人、なのかな。
そう思って。
そのまま踵を返して別の道を行こうとしたとき。
話をしていた相手がさっと右手を出して、彼女は丁寧な仕草で、そっと握手を交わした。
「彼女のファンだったのか」
ホッとした自分に苦笑した、次の瞬間。
握手を交わしたことで、周囲の何人かが彼女に目を留めた。
「……うそ?」
「え!凪紗!?」
「本物?」
そんな声がして。
人数は少なかったけど、囲まれそうになった彼女。
考えるより前に、体が動いた。
駆け寄って彼女の腕を掴んで、そのまま。
朝来た道を反対に走り抜けた。
走りにくそうだった彼女の傘を、足は止めずに受け取って、そのまま一気に交差点を渡り切る。
深追いしてくる人はいなかったので、信号が赤に変わると騒ぎはすぐに収まり、そこからは 走るのをやめた。
息を整え、 ゆっくりと歩きながら、ほんの少し後ろに感じる彼女の気配に、騒ぎ出す鼓動をどうにか抑えて。
「……あの……一磨、さん?」
キュッと。手のひらに伝わってくるやわらかい感触。
腕を掴んでいたはずの手は、彼女の手のひらを包んでいた。
自分がいつ繋ぎなおしたのかも分からなくて。
「あ、ごめん!」
慌てて手を離した。
「いえ、そんな、私こそ」
自分で離しておきながら、手のひらの彼女の気配が消えてしまうのを残念に思って、ぼんやりと、自分の手のひらを眺めながら歩いた。
「……あの、ありがとうございました」
何も話さない事に不安になったのか、少しおどおどした口調で凪紗ちゃんが俺を覗き込んだ。
落ち着いてよく見れば、彼女は踵の高いレインブーツを履いていて、歩調が乱れていた。
「……ごめん。足、痛いよね?」
「いえ!全然。謝らないでください。助けていただいて、本当に助かりました」
「いや、それだって気にしないで」
「でも……」
ありがとう、とか。ごめんなさい、とか。
終わらない挨拶を何度か繰り返しながら歩いていたら、いつの間にか雨はすっかり上がっていた。
そのまま二人同時に笑い出して、それをきっかけに。
「凪紗ちゃん、この後、仕事は?」
自然に彼女を誘うと、
「今日は一日オフです」
パッと顔をあげた彼女が、嬉しそうにそう答えた。