真空色(まそらいろ)の想い
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日は朝から雨だった。
跳ね上げるような強さではないけど、それでも途切れることなく振り続けていて。
かと思うとふいに雨足が弱まり、気まぐれに光が指す。
そんな風な、はっきりとしない空模様。
特に予定もない休日。
いつもなら家でゆっくりと過ごしたと思う。
でもその時はなぜか、外を歩こうと、そう思い立った。
傘を差して歩く人の波。
平日の朝。
通勤ラッシュは終わっていても、まだビジネスマンが歩いている時間帯。
特別に席を用意してもらうような手間をかけなくても、朝の上映なら何とかなるだろうと、映画館へ向かった。
時間を気にしながら少し速足で、でも道行く人をぼんやりと眺めながら歩いていると、 地味な色の傘の波の中に、ぽつんと。
一際明るい色の傘が目に飛び込んできた。
水色に近い、淡いブルーの地の傘。
中心に向かって、また反対に中心から縁に向かって、色とりどりのデフォルメされたデザインの魚が泳いでいる。
少し低い位置でぴょこぴょこと進む傘は、どうやら目的地が同じようだった。
人波を抜けて、上映中の作品のポスターが並ぶビルへと辿り着く。
後を付いて行っていたような形になっていたので、つい辺りを見回したけど、傘は皆畳まれていて、ブルーの傘の行方はもう分からなくなっていた。
俺自身も、乗り込んだエレベーターから出る頃には、その傘の事はすっかり忘れて、予め携帯で予約してあったチケットを発券し、薄暗い中で座席を探した。
公開されてから割と日にちが過ぎている作品という事もあって客席は疎らで、一人で来ている人の方が多いようだ。
通路側の席に落ち着いて、これから始まる映画のことを考えた時、ふいに彼女のことを思い出した。
仕事仲間の、凪紗ちゃん。
アイドルとしては少し遅めのデビューだったにも拘らず、瞬く間に頭角を現した彼女。
取り巻く環境が急激に変わっていく中でも、調子に乗ることもなく、勉強熱心で謙虚で。
そんな彼女を、気が付けばいつも目で追っている自分に気が付いたのは、いつだったか。
そう。この映画のことも。
彼女が楽屋を訪ねてきてくれた時に、俺がたまたま一人でいて、 その時に話をしたんだった。
楽屋に置いてあった映画情報誌を二人でめくりながら、 「家で見るのもいいけど、やっぱり大きなスクリーンで臨場感も味わいたいね」そう、俺が言ったとき。
「そうですね、でも友達と映画館に見に行くこととかは、あまり出来なくなっちゃいました」
少し残念そうに隣で話す彼女に、 その友達の中には、もしかして恋人もいたりするんだろうか……? なんて考えて。
だけどそんな事を訊けるはずもなくて。
持っているDVDを貸す約束を取り付けるのが精一杯だった。
あの時思い切って、誘ってみればよかったかな。
そんなことを画面を見ながら考えていると、館内が一段階暗くなって始まった、上映予定の映画の予告。
カメラが画面いっぱいに青空を映してから徐々に下降していき……次の瞬間に映った凪紗ちゃん。
この作品には同じ事務所の後輩も出演している。
監督にはWaveの映画でもお世話になっていたという縁もあって、 クランクアップの日に入るメイキング用の撮影で、メンバー全員で花を持って行ったのだった。
監督と、後輩と、凪紗ちゃん。
三つの花束を誰が渡すかという話になったときに、当然のように巻き起こった `凪紗ちゃんへ渡す権利争い’
カメラが回っていたから、「女の子に花束を渡す方が絵になるじゃん」なんて具合に茶化し合ってはいたけど。
早々に監督への花を選んだ義人以外の三人が繰り広げた争奪戦。
収拾が付かなくなった頃合いに「そんなに揉めるなら、リーダーの俺が」と、奪った花束。
「一磨、職権乱用!」なんて言われながら、お構いなしで彼女に渡した。
突然現れた俺たちに目を丸くした彼女が、花束に視線を落として微笑む姿は、今でも目に焼きついている。
カメラが止まってから急ぎ足で追いかけてきた彼女が、俺だけじゃなくて全員に、丁寧に一人一人にお礼を言ってくれる姿を見て。
ああ、やっぱり、この子が好きだな……。
はっきりと自覚した日だった。
そういえば、あのときの花束にも淡いブルーが差し色に入れてあったな……。
また、さっきの傘を思い出した。
それからすぐに映画が始まり……。
今度は、あのブルーは頭の片隅にずっとチラついたままで。
あまり集中できないまま、気づけば映画はエンドロールを迎えてしまっていた。
跳ね上げるような強さではないけど、それでも途切れることなく振り続けていて。
かと思うとふいに雨足が弱まり、気まぐれに光が指す。
そんな風な、はっきりとしない空模様。
特に予定もない休日。
いつもなら家でゆっくりと過ごしたと思う。
でもその時はなぜか、外を歩こうと、そう思い立った。
傘を差して歩く人の波。
平日の朝。
通勤ラッシュは終わっていても、まだビジネスマンが歩いている時間帯。
特別に席を用意してもらうような手間をかけなくても、朝の上映なら何とかなるだろうと、映画館へ向かった。
時間を気にしながら少し速足で、でも道行く人をぼんやりと眺めながら歩いていると、 地味な色の傘の波の中に、ぽつんと。
一際明るい色の傘が目に飛び込んできた。
水色に近い、淡いブルーの地の傘。
中心に向かって、また反対に中心から縁に向かって、色とりどりのデフォルメされたデザインの魚が泳いでいる。
少し低い位置でぴょこぴょこと進む傘は、どうやら目的地が同じようだった。
人波を抜けて、上映中の作品のポスターが並ぶビルへと辿り着く。
後を付いて行っていたような形になっていたので、つい辺りを見回したけど、傘は皆畳まれていて、ブルーの傘の行方はもう分からなくなっていた。
俺自身も、乗り込んだエレベーターから出る頃には、その傘の事はすっかり忘れて、予め携帯で予約してあったチケットを発券し、薄暗い中で座席を探した。
公開されてから割と日にちが過ぎている作品という事もあって客席は疎らで、一人で来ている人の方が多いようだ。
通路側の席に落ち着いて、これから始まる映画のことを考えた時、ふいに彼女のことを思い出した。
仕事仲間の、凪紗ちゃん。
アイドルとしては少し遅めのデビューだったにも拘らず、瞬く間に頭角を現した彼女。
取り巻く環境が急激に変わっていく中でも、調子に乗ることもなく、勉強熱心で謙虚で。
そんな彼女を、気が付けばいつも目で追っている自分に気が付いたのは、いつだったか。
そう。この映画のことも。
彼女が楽屋を訪ねてきてくれた時に、俺がたまたま一人でいて、 その時に話をしたんだった。
楽屋に置いてあった映画情報誌を二人でめくりながら、 「家で見るのもいいけど、やっぱり大きなスクリーンで臨場感も味わいたいね」そう、俺が言ったとき。
「そうですね、でも友達と映画館に見に行くこととかは、あまり出来なくなっちゃいました」
少し残念そうに隣で話す彼女に、 その友達の中には、もしかして恋人もいたりするんだろうか……? なんて考えて。
だけどそんな事を訊けるはずもなくて。
持っているDVDを貸す約束を取り付けるのが精一杯だった。
あの時思い切って、誘ってみればよかったかな。
そんなことを画面を見ながら考えていると、館内が一段階暗くなって始まった、上映予定の映画の予告。
カメラが画面いっぱいに青空を映してから徐々に下降していき……次の瞬間に映った凪紗ちゃん。
この作品には同じ事務所の後輩も出演している。
監督にはWaveの映画でもお世話になっていたという縁もあって、 クランクアップの日に入るメイキング用の撮影で、メンバー全員で花を持って行ったのだった。
監督と、後輩と、凪紗ちゃん。
三つの花束を誰が渡すかという話になったときに、当然のように巻き起こった `凪紗ちゃんへ渡す権利争い’
カメラが回っていたから、「女の子に花束を渡す方が絵になるじゃん」なんて具合に茶化し合ってはいたけど。
早々に監督への花を選んだ義人以外の三人が繰り広げた争奪戦。
収拾が付かなくなった頃合いに「そんなに揉めるなら、リーダーの俺が」と、奪った花束。
「一磨、職権乱用!」なんて言われながら、お構いなしで彼女に渡した。
突然現れた俺たちに目を丸くした彼女が、花束に視線を落として微笑む姿は、今でも目に焼きついている。
カメラが止まってから急ぎ足で追いかけてきた彼女が、俺だけじゃなくて全員に、丁寧に一人一人にお礼を言ってくれる姿を見て。
ああ、やっぱり、この子が好きだな……。
はっきりと自覚した日だった。
そういえば、あのときの花束にも淡いブルーが差し色に入れてあったな……。
また、さっきの傘を思い出した。
それからすぐに映画が始まり……。
今度は、あのブルーは頭の片隅にずっとチラついたままで。
あまり集中できないまま、気づけば映画はエンドロールを迎えてしまっていた。
1/7ページ